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結局は王妃のせい
「まずは謝罪を。このような場に貴女を巻き込んでしまい、本当に申し訳なく思っております」
王太子妃がふいに頭を下げた瞬間、イザベラは「とんでもございません!」と慌てて手を振った。
「お止めください! 妃殿下に謝罪していただくことなど何もございません……!」
「いえ、ございます。私の力が及ばず王女様のお茶会を止められませんでした。間違いなくあの方は何かよからぬことを企んでおります。そうでなければ、他国の王宮でお茶会を開くなどという非常識な真似を強行するはずもございません」
「ええ、それはわたくしも不思議に思っておりました。何故、他国の王族が我が国の王宮でお茶会を開けるのですか?」
嘆きに沈みうつむく王太子妃にイザベラは遠慮がちに問いかけた。
客人の身でありながら、勝手にその家でお茶会を開くなど普通は有り得ないこと。
他人の邸宅にて茶会を催すなど前代未聞にして無礼の極み。何故、そんな蛮行を王家が許可したのかが不思議でならない。
「……はい、それは王妃殿下が“あの夜会”を“見事に失敗”されたからです」
「”あの夜会”……? もしやそれは、先日義息子夫婦が参加した王家主催の夜会のことですか?」
「ええ、そうです。あれは、客人である王女様をお披露目する場だったはずでございますのに、王妃殿下はそれをすっかり失念あそばされていたようで……。その振る舞いがあまりに無礼だったため、王女様は『これは我が国に対する侮辱だ』と強くお怒りになったのです。やり直しの夜会を催すにしても、王女様が帰国されるまでの日数ではとても準備期間が足りません。王女様は『せめて王宮のサロンを使って茶会を開きたい』と申し出られ、わたくしどももそのような負い目からその願いを拒むことができなかったのです。いったいどなたをご招待なさるのかと気を揉んでおりましたが、まさか貴女だったとはまったくの予想外でございました」
顔色を悪くした王太子妃はかすかにため息をもらし、ゆっくりと顔を上げてイザベラに視線を向けた。
「時間がないので単刀直入に申し上げます。このお茶会で招待されましたのは貴女お一人。狙いは貴女の義理の息子、ガーネット侯爵でしょう。夜会での様子を踏まえると、王女様が侯爵に対して何か特別な想いを抱いている可能性がございます。そのような状況では、王女様が貴女に何を言い出し、何を要求してくるのか……想像するのも恐ろしいほどです」
その言葉にイザベラは息を呑んだ。覚悟を決めてこの場に臨んだはずだったが、改めて現実を突きつけられると胸の奥底から恐怖がじわりと這い上がってくる。
「だからこそ、どうか貴女の身を守るためにもこの者たちをお連れください。二人とも武の心得がございます。いざという時は必ず貴女をお守りすることでしょう」
王太子妃が片手をあげると、彼女の背後から二人の女官が静かに前に進んだ。
そしてそのままイザベラの前に進み、丁寧に深く頭を下げた。
「もうすぐ、王女様がここにおいでになるわ。――どうか、ご武運を。貴女の身に何かあればセシリア夫人にも申し訳が立たないわ」
「王太子妃殿下、温かいお心遣いに深く感謝いたします」
突如、イザベラ以外の者の声でそう告げられたため王太子妃は驚き視線を彷徨わせる。
そしてイザベラの背後にいる変装したセシリアと目が合い、小さく「あっ」と呟いた。
「まあ……マダム・ガーネットには既に頼もしいお付きの者がいたようね?」
セシリアがこの場にいることに気づいた王太子妃は、イザベラに向かって悪戯っぽく笑みを浮かべた。
そして優雅に立ち上がると、再び美しい所作で一礼する。
「それでは、ご機嫌よう」
王太子妃が出て行き、扉が再び閉まる。その気配が消えてゆくのと同時に室内の空気がひときわ静かになった。
ほどなく、扉の向こうから軽やかに響く足音が近づいてきた。
王太子妃がふいに頭を下げた瞬間、イザベラは「とんでもございません!」と慌てて手を振った。
「お止めください! 妃殿下に謝罪していただくことなど何もございません……!」
「いえ、ございます。私の力が及ばず王女様のお茶会を止められませんでした。間違いなくあの方は何かよからぬことを企んでおります。そうでなければ、他国の王宮でお茶会を開くなどという非常識な真似を強行するはずもございません」
「ええ、それはわたくしも不思議に思っておりました。何故、他国の王族が我が国の王宮でお茶会を開けるのですか?」
嘆きに沈みうつむく王太子妃にイザベラは遠慮がちに問いかけた。
客人の身でありながら、勝手にその家でお茶会を開くなど普通は有り得ないこと。
他人の邸宅にて茶会を催すなど前代未聞にして無礼の極み。何故、そんな蛮行を王家が許可したのかが不思議でならない。
「……はい、それは王妃殿下が“あの夜会”を“見事に失敗”されたからです」
「”あの夜会”……? もしやそれは、先日義息子夫婦が参加した王家主催の夜会のことですか?」
「ええ、そうです。あれは、客人である王女様をお披露目する場だったはずでございますのに、王妃殿下はそれをすっかり失念あそばされていたようで……。その振る舞いがあまりに無礼だったため、王女様は『これは我が国に対する侮辱だ』と強くお怒りになったのです。やり直しの夜会を催すにしても、王女様が帰国されるまでの日数ではとても準備期間が足りません。王女様は『せめて王宮のサロンを使って茶会を開きたい』と申し出られ、わたくしどももそのような負い目からその願いを拒むことができなかったのです。いったいどなたをご招待なさるのかと気を揉んでおりましたが、まさか貴女だったとはまったくの予想外でございました」
顔色を悪くした王太子妃はかすかにため息をもらし、ゆっくりと顔を上げてイザベラに視線を向けた。
「時間がないので単刀直入に申し上げます。このお茶会で招待されましたのは貴女お一人。狙いは貴女の義理の息子、ガーネット侯爵でしょう。夜会での様子を踏まえると、王女様が侯爵に対して何か特別な想いを抱いている可能性がございます。そのような状況では、王女様が貴女に何を言い出し、何を要求してくるのか……想像するのも恐ろしいほどです」
その言葉にイザベラは息を呑んだ。覚悟を決めてこの場に臨んだはずだったが、改めて現実を突きつけられると胸の奥底から恐怖がじわりと這い上がってくる。
「だからこそ、どうか貴女の身を守るためにもこの者たちをお連れください。二人とも武の心得がございます。いざという時は必ず貴女をお守りすることでしょう」
王太子妃が片手をあげると、彼女の背後から二人の女官が静かに前に進んだ。
そしてそのままイザベラの前に進み、丁寧に深く頭を下げた。
「もうすぐ、王女様がここにおいでになるわ。――どうか、ご武運を。貴女の身に何かあればセシリア夫人にも申し訳が立たないわ」
「王太子妃殿下、温かいお心遣いに深く感謝いたします」
突如、イザベラ以外の者の声でそう告げられたため王太子妃は驚き視線を彷徨わせる。
そしてイザベラの背後にいる変装したセシリアと目が合い、小さく「あっ」と呟いた。
「まあ……マダム・ガーネットには既に頼もしいお付きの者がいたようね?」
セシリアがこの場にいることに気づいた王太子妃は、イザベラに向かって悪戯っぽく笑みを浮かべた。
そして優雅に立ち上がると、再び美しい所作で一礼する。
「それでは、ご機嫌よう」
王太子妃が出て行き、扉が再び閉まる。その気配が消えてゆくのと同時に室内の空気がひときわ静かになった。
ほどなく、扉の向こうから軽やかに響く足音が近づいてきた。
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