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叫びそうになった
「マリッサ……亡くなったエリオットの母親の名だが、彼女に異母妹がいることはエドワードも知らなかった。どうやらマリッサの父親の隠し子のようで、認知すらされていなかったようだ」
「知らなかった? では、どうやってエリオット様のお母君の異母妹の存在を知ったのですか?」
「それは本人が直接現れたからだよ。行く宛てがないから置いてくれ、とある日突然侯爵家に押しかけてきたのだ」
「え……でも、エリオット様の母君の異母妹は踊り子で、あちらの王の子供──王女様をお産みになったのですよね? ならばあちらの王宮に妾として滞在できる身なのに、わざわざ遠く離れたこの国へ?」
「いや、本人が言うには子供だけ取られて捨てられたそうだ。とっくに踊り子も引退しているので行く宛てもなく、そんな時に自分に姉がいて、侯爵家に嫁いだことを思い出したそうだ。それでわざわざ海を渡ってこの国までやってきたと言っておった」
「捨てられた? それは酷いですね……」
「そうだな。ただ、権力者にはよくあることだ。子供だけ引き取ったのは政略結婚の道具にするつもりだったのだろう。母親似で見目だけは優れていただろうし。まあ、結局中身がそれを上回るほどの馬鹿だったせいで、ちっとも政略には使えなかったようだが……」
それ、王が引き取りさえしなければ惨事は起きなかったのでは……とセシリアは何とも苦々しい気持ちになった。
「どうして認知もされておらん庶子が姉の嫁ぎ先を知っているのかは分からぬ。しかも、嫁ぎ先は知っておるのに、既に亡くなっていたことは知らなかったそうだ。だがな……儂はそれも嘘だと思っている」
「それは……どうしてですか?」
「あの女の目的が姉を頼ることではなく、姉の後釜……つまり、エドワードの後妻の座に収まろうとしたことにあると考えたからだ。普通なら実の父親を頼るものだろうが、わざわざ嫁いだ姉を頼ってきたのだぞ? 生前、仲がよかったならまだ分かるが、あの女はマリッサが亡くなったと知っても涙ひとつ零さなかった。しかも、姉の夫だったエドワードに誘惑めいた真似までしてきおった。その態度から姉に代わって姉の夫に取り入ろうとしたとしか思えぬ」
妻の亡き後、いきなり妻の異母妹だと名乗る女が押しかけてきて、後妻の座に収まろうとするなど怖いな。
そんなセシリアの心を読んだかのように、公爵は「弟はさぞ恐ろしい思いをしたことだろう」と呟いた。
「認知もしていないということは、その女性が本当にエリオット様のお母君の異母妹かは分からないのでは? 勝手に妹を名乗る詐欺師という可能性もございます」
「それは儂もエドワードも思ったさ。……ただな、その女の顔はマリッサに瓜二つだったのだよ。他人の空似という可能性もあるが、姉妹と言われて信じてしまうほどに似ておった。しかしながら本当にマリッサと血が繋がっているかはさして問題ではない。仮にそうであったとしても、ガーネット侯爵家がその女の面倒を見る義理などひとつもないからな。追い払えば済む話だ」
「まあ……そうですね」
ここまで聞く限りだと、公爵があそこまで王女を恐れていた理由と結びつかない。
エリオットと王女の間に血縁関係がある可能性が判明したと言うが、それでどうして警戒するのかは不明だ。
「それなのに、追い払うのに手間取ってしまった。原因は幼いエリオットがその女に懐いてしまったせいだ。肖像画で見ていた母と瓜二つの女が目の前に現れたことでエリオットは大層喜び、あろうことかその女に母親になってとほしいと願ってしまった。子供の気持ちを思えば分からなくもないが……貴族として認知もされていない怪しい女を妻に迎えることは無理だ。ましてや、エドワードを散々苦しめたマリッサに似た女なぞ……」
公爵の苦々しい顔から察するに、エリオットの母親は父親を随分と苦しめた存在のようだ。
しかしながらエリオットの立場からしてみれば、亡くなった母親と瓜二つの顔をした女性に心を惹かれてしまったのは無理もないことで……。
(……ん? 母親と瓜二つの顔……?)
ここでセシリアは、ある可能性に思い当たってハッとした。
亡くなった母親と瓜二つの顔をした女に惹かれたエリオット。そして、その女は王女の産みの親。
まさか……公爵が警戒していたことというのは……
「……その顔、気づいたか。流石はセシリア嬢だ。察しが良い」
セシリアの顔を見た公爵が静かに呟く。その反応から、セシリアは自分の仮説が当たっていると感じ、話し始めた。
「もしや、王女様のお顔は実の母君に似ていて――それはつまり、エリオット様の母君のお顔にも似ているということですか?」
「ああ、その通りだ。王女の顔は……エリオットの母親マリッサによく似ているのだよ。異母妹のように瓜二つとは言わないが、目鼻立ちなんてそっくりだ」
「では……公爵様は、エリオット様が母君に似た王女様を見て、惹かれてしまうのではないかと警戒していた、ということですか?」
静かに頷く公爵に、セシリアは思わず「何だそれ、くだらねぇ!」と叫びそうになった。
「知らなかった? では、どうやってエリオット様のお母君の異母妹の存在を知ったのですか?」
「それは本人が直接現れたからだよ。行く宛てがないから置いてくれ、とある日突然侯爵家に押しかけてきたのだ」
「え……でも、エリオット様の母君の異母妹は踊り子で、あちらの王の子供──王女様をお産みになったのですよね? ならばあちらの王宮に妾として滞在できる身なのに、わざわざ遠く離れたこの国へ?」
「いや、本人が言うには子供だけ取られて捨てられたそうだ。とっくに踊り子も引退しているので行く宛てもなく、そんな時に自分に姉がいて、侯爵家に嫁いだことを思い出したそうだ。それでわざわざ海を渡ってこの国までやってきたと言っておった」
「捨てられた? それは酷いですね……」
「そうだな。ただ、権力者にはよくあることだ。子供だけ引き取ったのは政略結婚の道具にするつもりだったのだろう。母親似で見目だけは優れていただろうし。まあ、結局中身がそれを上回るほどの馬鹿だったせいで、ちっとも政略には使えなかったようだが……」
それ、王が引き取りさえしなければ惨事は起きなかったのでは……とセシリアは何とも苦々しい気持ちになった。
「どうして認知もされておらん庶子が姉の嫁ぎ先を知っているのかは分からぬ。しかも、嫁ぎ先は知っておるのに、既に亡くなっていたことは知らなかったそうだ。だがな……儂はそれも嘘だと思っている」
「それは……どうしてですか?」
「あの女の目的が姉を頼ることではなく、姉の後釜……つまり、エドワードの後妻の座に収まろうとしたことにあると考えたからだ。普通なら実の父親を頼るものだろうが、わざわざ嫁いだ姉を頼ってきたのだぞ? 生前、仲がよかったならまだ分かるが、あの女はマリッサが亡くなったと知っても涙ひとつ零さなかった。しかも、姉の夫だったエドワードに誘惑めいた真似までしてきおった。その態度から姉に代わって姉の夫に取り入ろうとしたとしか思えぬ」
妻の亡き後、いきなり妻の異母妹だと名乗る女が押しかけてきて、後妻の座に収まろうとするなど怖いな。
そんなセシリアの心を読んだかのように、公爵は「弟はさぞ恐ろしい思いをしたことだろう」と呟いた。
「認知もしていないということは、その女性が本当にエリオット様のお母君の異母妹かは分からないのでは? 勝手に妹を名乗る詐欺師という可能性もございます」
「それは儂もエドワードも思ったさ。……ただな、その女の顔はマリッサに瓜二つだったのだよ。他人の空似という可能性もあるが、姉妹と言われて信じてしまうほどに似ておった。しかしながら本当にマリッサと血が繋がっているかはさして問題ではない。仮にそうであったとしても、ガーネット侯爵家がその女の面倒を見る義理などひとつもないからな。追い払えば済む話だ」
「まあ……そうですね」
ここまで聞く限りだと、公爵があそこまで王女を恐れていた理由と結びつかない。
エリオットと王女の間に血縁関係がある可能性が判明したと言うが、それでどうして警戒するのかは不明だ。
「それなのに、追い払うのに手間取ってしまった。原因は幼いエリオットがその女に懐いてしまったせいだ。肖像画で見ていた母と瓜二つの女が目の前に現れたことでエリオットは大層喜び、あろうことかその女に母親になってとほしいと願ってしまった。子供の気持ちを思えば分からなくもないが……貴族として認知もされていない怪しい女を妻に迎えることは無理だ。ましてや、エドワードを散々苦しめたマリッサに似た女なぞ……」
公爵の苦々しい顔から察するに、エリオットの母親は父親を随分と苦しめた存在のようだ。
しかしながらエリオットの立場からしてみれば、亡くなった母親と瓜二つの顔をした女性に心を惹かれてしまったのは無理もないことで……。
(……ん? 母親と瓜二つの顔……?)
ここでセシリアは、ある可能性に思い当たってハッとした。
亡くなった母親と瓜二つの顔をした女に惹かれたエリオット。そして、その女は王女の産みの親。
まさか……公爵が警戒していたことというのは……
「……その顔、気づいたか。流石はセシリア嬢だ。察しが良い」
セシリアの顔を見た公爵が静かに呟く。その反応から、セシリアは自分の仮説が当たっていると感じ、話し始めた。
「もしや、王女様のお顔は実の母君に似ていて――それはつまり、エリオット様の母君のお顔にも似ているということですか?」
「ああ、その通りだ。王女の顔は……エリオットの母親マリッサによく似ているのだよ。異母妹のように瓜二つとは言わないが、目鼻立ちなんてそっくりだ」
「では……公爵様は、エリオット様が母君に似た王女様を見て、惹かれてしまうのではないかと警戒していた、ということですか?」
静かに頷く公爵に、セシリアは思わず「何だそれ、くだらねぇ!」と叫びそうになった。
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