初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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会話にならない男

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 ──この男とは会話にならない。

 エリオットに尋問をした監察官がまず思ったのがそれだ。こちらが質問を投げかけても、その答えは微妙に本質からずれている。会話を全て記録したものを読み返しても理解し辛い。これをそのまま上に提出しても書き直しを要求されるだろうことが想像できる。

 勿論、監察官も経験が浅いわけではないので、今まで論点をずらした回答をしてきた囚人を幾度も相手にしてきた。ただ、平民相手ではそこまで詳細な記録を残さなくてもよいとされているので適当に相手をし、記録もそれなりのもので許される。だが、貴族が相手ではそうはいかない。事細かに記録をとり、供述も詳細に聞き出す必要がある。だからこそ厄介だし、精神的な疲労も貯まっていく。

 何故こうも会話が微妙にずれていくのか。もしかすると監察官が知らない貴族特有の遠回しな言い方をしているのかと思ったが……多分そうではないのだろう。そうだとしたら国王自ら相手をしたはずだ。貴族特有の言い回しなど、王族にとっては十八番ともいえるのだから理解だって簡単なはず。
 だから多分、そうでなくてこの男の話法が単に論点からずれているだけで、それで要点を得ないから聴取に時間をかけてしまうわけで、多忙な国王が相手にしていられないから監察官に投げただけなのだろう。

「では、あなたはあくまでご自分に過失はないと、そうおっしゃるわけですね?」

「当たり前だ。ただ好意を寄せて来た女性と親交を深めただけなのに、過失があるはずもないだろう?」

「なら、どうして二つの貴族家は襲撃されたのでしょうか?」

「だから先程からそれは王女のせいだと言っているだろう! 僕はそんな恐ろしい真似をするなど知らなかった! 知っていたらあんな恐ろしい女に近づかなかった!」

「知っていてもいなくとも、既婚の身でありながら女性と親密になるのはよろしくありませんよ。しかも、他国の王女を相手にして国際問題に発展する可能性があると考えなかったのですか?」

「発展したとしてもそれは僕には関係ないだろう? 国際問題をどうにかするのは国王陛下の管轄なのだから」

「……そうだとしても、責任のすべてを陛下が被さる必要性はどこにもありません。仮に国際問題に発展した場合、あなたも責任を取る必要があります。今回はあちらの王太子殿下が上手く収めてくださいましたが、戦に発展してもおかしくなかったのですよ?」

「そうなったとしても悪いのは僕ではなく王女だ。ガーネット家とオニキス家を襲撃したのは王女なのだからな」

「………………あくまでご自分に責任はないと、そうおっしゃるのですね?」

「だからそう言っているだろう? 僕はただ巻き込まれただけの被害者だと。分かったらさっさとこんな薄汚い場所から出すことだな」

 どこまでも自分の非を認めず、どこまでも無責任で、どこまでも他責志向のエリオットに監察官はいい加減うんざりしていた。そして、疲労した頭に聴取とは関係のない疑問が浮かび、それが言葉として吐き出される。

「仮にここから出したとして、あなたは何処に帰るつもりですか? もうお屋敷もないというのに」

「屋敷なぞまた再建すればいい。ガーネット侯爵家当主の僕がいればどうとでもなる」

「あれ、聞いていません? ガーネット侯爵という爵位は既に国に返還され、領地も王家の直轄地になると決まっていますよ」

「……は? はああ!? 何だ、それは! 僕はそんなの認めていないぞ!」

「私だって知りませんよ。陛下がお決めになったことですから、あなたの許しなんて必要ありません」

「ふざけるな! あそこはガーネット家が先祖代々守り続けた大切な領地だぞ? いくら陛下といえども横暴だ!」

「仕方ないじゃありませんか。あなたのせいで王女様が凶行に走り、結果としてされることとなったのですから。無罪放免になどすれば、あちらの国に面目が立たなくなるでしょう?」

「そんなこと……え? ちょっとまて、今……なんと言った?」

「は? ですから、無罪放免ではあちらの国に面目が……」

「違う、そこじゃない! 王女が処刑されたと言わなかったか!?」

「え? ああ、はい、そうです。つい先日、刑が執行されました」

「なっ……!? 王女が、処刑されただと……?」

 驚愕の情報に唖然とするエリオットを前に、監察官は不思議そうに首を傾げた。
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