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狼狽するエリオット
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エリオットの狼狽する姿を監察官は冷ややかに見つめた。
この、どこまでも偉そうな男がここまでうろたえるのを見るのは初めてだ。
「……ご存じなかったのですか?」
「知らない……。そんな、嘘だろう? どうして王女が処刑されなくてはならない!?」
「そうは言いましても……決めたのはあちらの国の王太子殿下なので、詳しい事は存じません」
「王太子? それは王女の兄君ではないか……。何故、実の妹にそのような非道な真似を……」
余程の衝撃だったのか、エリオットは見開いた目をそのままに頭を抱え込んだ。
監察官はそんな彼に気を遣うこともなく、淡々と話を続けた。
「詳細は私も存じ上げません。ただ、他国でここまでの暴挙に及べば当然の結果かと存じます。侯爵家と子爵家、二つの貴族家を他国の王族が害したとなれば、その罪は重く、処分を誤れば国際問題に発展しかねない」
「それはそうかもしれないが……処刑などあまりにも重すぎだろう! せいぜい母国に送還程度で済むと思っていたのに……」
それは監察官も思ったことだ。処刑を決めてから実行するまでもあまりに早すぎる。まるであちらの国が王女を厄介払いとばかりに処分したように思えてならない。
──いや、まあ……生かしておいても、また何かやらかしそうな厄介な王女ではあったな。そういや、母国で三回結婚し、三回とも王女の暴力が原因で離婚していたと聞いた。もしかすると母国に戻すことを反対されていたのかもしれない。だからこれ幸いとばかりに我が国で処刑をしたのか……?
監察官がそんなことを考えている間もエリオットは「嘘だ」「なんで」とうわ言のように繰り返している。
先程まであれだけ王女を悪し様に罵っていたくせに、急になんだとばかりに監察官は訝し気な視線を向けた。
「残念ながら事実です。そして、関わったあなたも本来であれば処刑という判断が下されるところ、更生の余地ありということで強制労働という温情をかけられたわけです」
自分で言っているうちに監察官は「あ、これは嘘だな」ということが分かった。
おそらくこの男は別に王女の共犯というわけではない。ただ、王女に惹かれて甘い言葉でその気にさせたに過ぎないのだろう。それだけで強制労働という罰が下されるのは過剰だが、王女に処刑という罰が下った以上、こちらも元凶ともいえる男に重い罰を下さないと体面が保てない。
ただ、それをこの男に言うのも憚られるし、そもそも貴族ならばこれくらいは自分で気づいて然るべきだ。
ということで監察官はそれを話さず、ただ冷ややかに頭を抱えるエリオットを見下ろした。
「流石に衝撃を受けましたか? ご自分が関わった女性がそのような結果に終わって。ちなみに、あなたの愛人のオニキス子爵令嬢は両親の治療費を工面するために娼館送りとなったようですよ」
「キャサリンが!? そんな……! なんで……」
自分が愛した女が悲惨な末路を辿っていることにエリオットは激しく狼狽えた。
どうしてそんなことになっているのか……。聞いても答えてくれる者は誰もいない。
「奥方のセシリア夫人も、危うく冤罪で放火の犯人にされるところでした。まったく……あなたは関わった女性をことごとく不幸にする才能に恵まれておりますね」
思わず出てしまった侮蔑の言葉がエリオットの胸を貫く。その瞬間、これまでの饒舌は音もなく崩れ去った。エリオットは口を開こうとするが、声は出ない。目の奥に虚ろな光が宿り、意識の端に過去の記憶が静かに波打つ。
──あの夜、ひとり寝室に放置した妻。
──被災した領地を放り出してまで共に過ごしたキャサリン。
──そして、その容姿に何故か強く惹かれてしまった王女。
彼女達が、自分のせいで不幸になった? 馬鹿な……そんなはずはない。だって、彼女達はエリオットといて幸せだと言ってくれて……
「……そんなこと、ない……僕は……」
エリオットの声は震え、かすかに漏れるだけだった。自分の手が、言葉が、存在そのものが、誰かの幸福を蝕んでいたのだという現実が胸の奥で渦巻く。
「僕は、僕は……ただ、愛しただけで……」
そうだ、自分はただ彼女達を愛しただけだ。その時々で移ろいでゆく愛ではあったが、確かに彼女達への気持ちはあったはずだ。それが何故そんな結果に……。
ここにきて初めてエリオットの心に”罪悪感”というものが芽生えた。
自分の屋敷を焼き払った悪女だと王女を罵った口で、王女が亡くなったことを否定する言葉を吐く。
自分のせい……と初めてエリオットは自責の念に駆られる。
その呟きすらも逃さず、監察官は記録に書き留めた。あれだけ傲慢だった男の心は今や後悔で埋め尽くされている。
数日後、虚ろな眼差しのエリオットが、焦点を失った瞳のまま強制労働所へと連れ出されていくのだった。
この、どこまでも偉そうな男がここまでうろたえるのを見るのは初めてだ。
「……ご存じなかったのですか?」
「知らない……。そんな、嘘だろう? どうして王女が処刑されなくてはならない!?」
「そうは言いましても……決めたのはあちらの国の王太子殿下なので、詳しい事は存じません」
「王太子? それは王女の兄君ではないか……。何故、実の妹にそのような非道な真似を……」
余程の衝撃だったのか、エリオットは見開いた目をそのままに頭を抱え込んだ。
監察官はそんな彼に気を遣うこともなく、淡々と話を続けた。
「詳細は私も存じ上げません。ただ、他国でここまでの暴挙に及べば当然の結果かと存じます。侯爵家と子爵家、二つの貴族家を他国の王族が害したとなれば、その罪は重く、処分を誤れば国際問題に発展しかねない」
「それはそうかもしれないが……処刑などあまりにも重すぎだろう! せいぜい母国に送還程度で済むと思っていたのに……」
それは監察官も思ったことだ。処刑を決めてから実行するまでもあまりに早すぎる。まるであちらの国が王女を厄介払いとばかりに処分したように思えてならない。
──いや、まあ……生かしておいても、また何かやらかしそうな厄介な王女ではあったな。そういや、母国で三回結婚し、三回とも王女の暴力が原因で離婚していたと聞いた。もしかすると母国に戻すことを反対されていたのかもしれない。だからこれ幸いとばかりに我が国で処刑をしたのか……?
監察官がそんなことを考えている間もエリオットは「嘘だ」「なんで」とうわ言のように繰り返している。
先程まであれだけ王女を悪し様に罵っていたくせに、急になんだとばかりに監察官は訝し気な視線を向けた。
「残念ながら事実です。そして、関わったあなたも本来であれば処刑という判断が下されるところ、更生の余地ありということで強制労働という温情をかけられたわけです」
自分で言っているうちに監察官は「あ、これは嘘だな」ということが分かった。
おそらくこの男は別に王女の共犯というわけではない。ただ、王女に惹かれて甘い言葉でその気にさせたに過ぎないのだろう。それだけで強制労働という罰が下されるのは過剰だが、王女に処刑という罰が下った以上、こちらも元凶ともいえる男に重い罰を下さないと体面が保てない。
ただ、それをこの男に言うのも憚られるし、そもそも貴族ならばこれくらいは自分で気づいて然るべきだ。
ということで監察官はそれを話さず、ただ冷ややかに頭を抱えるエリオットを見下ろした。
「流石に衝撃を受けましたか? ご自分が関わった女性がそのような結果に終わって。ちなみに、あなたの愛人のオニキス子爵令嬢は両親の治療費を工面するために娼館送りとなったようですよ」
「キャサリンが!? そんな……! なんで……」
自分が愛した女が悲惨な末路を辿っていることにエリオットは激しく狼狽えた。
どうしてそんなことになっているのか……。聞いても答えてくれる者は誰もいない。
「奥方のセシリア夫人も、危うく冤罪で放火の犯人にされるところでした。まったく……あなたは関わった女性をことごとく不幸にする才能に恵まれておりますね」
思わず出てしまった侮蔑の言葉がエリオットの胸を貫く。その瞬間、これまでの饒舌は音もなく崩れ去った。エリオットは口を開こうとするが、声は出ない。目の奥に虚ろな光が宿り、意識の端に過去の記憶が静かに波打つ。
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彼女達が、自分のせいで不幸になった? 馬鹿な……そんなはずはない。だって、彼女達はエリオットといて幸せだと言ってくれて……
「……そんなこと、ない……僕は……」
エリオットの声は震え、かすかに漏れるだけだった。自分の手が、言葉が、存在そのものが、誰かの幸福を蝕んでいたのだという現実が胸の奥で渦巻く。
「僕は、僕は……ただ、愛しただけで……」
そうだ、自分はただ彼女達を愛しただけだ。その時々で移ろいでゆく愛ではあったが、確かに彼女達への気持ちはあったはずだ。それが何故そんな結果に……。
ここにきて初めてエリオットの心に”罪悪感”というものが芽生えた。
自分の屋敷を焼き払った悪女だと王女を罵った口で、王女が亡くなったことを否定する言葉を吐く。
自分のせい……と初めてエリオットは自責の念に駆られる。
その呟きすらも逃さず、監察官は記録に書き留めた。あれだけ傲慢だった男の心は今や後悔で埋め尽くされている。
数日後、虚ろな眼差しのエリオットが、焦点を失った瞳のまま強制労働所へと連れ出されていくのだった。
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