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処罰
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「おはようございます、奥様。ご指示に従い関係者全員を集めました」
セシリアの命令を受け、寝室に集まったガーネット邸の使用人一同。
とはいっても全員ではない。昨夜、エリオットが初夜を放棄して外出したことを知る者のみ。見渡せばメイド、執事、そしてそれを纏める家令と、まあ随分な人数の使用人が主人の非常識な言動を黙認していたものだと呆れてしまう。
「あら……こんなにも大勢の人間が主人の非常識な行動を黙認していたのね? 私は随分と非道な家に嫁いでしまったようだわ……。こんな、人の道から外れた行いを平然とするような者達で構成された家だと知っていたら、初めから嫁がなかったのにね……」
発言の内容はとんでもない家に嫁いでしまったことを嘆くようなものなのに、それを発するセシリアの声は恐ろしいまでに冷たい。壁際に並んだ使用人達はその声にまるで時間が止まったかのように硬直し、冷や汗を垂らしながら無言で立ち尽くしていた。
沈黙が流れる中、額にうっすらと汗を滲ませた彼が口を開いた。
「おそれながら昨晩のことは旦那様に口止めされておりまして……」
「それは先程も聞いたわ。でも、だから何? 理由はどうあれ、貴方達が旦那様の非常識な言動を黙認した事実は変わらないわよね? 共犯者ということよね? なに『主人に言われたから仕方なく……』と被害者ぶってんのよ」
セシリアの鋭い眼光が彼等を射貫く。その瞬間、使用人達はまるで猛獣に睨まれたような錯覚に囚われた。息を呑む間もなく、背筋に冷たいものが走り、言葉は喉の奥で凍りつく。
「も、申し訳……ございません………………」
一瞬だけ「旦那様に口止めされていたので仕方なく」と再び言い訳をしようとして止めた。それを言ったら目の前の恐ろしいまでに凄みのある女主人の怒りに火をつけるだけだと本能で察したからだ。
「謝罪は結構。それで、貴方達はどうやってこの責任をとるの?」
「え…………? せ、責任、とは……」
「貴方達がどう思っているかは知らないけど、私は昨日付けでこの邸の女主人となったのよ? つまり貴方達の主人となったの。主人の貴重な時間を無駄に浪費させた責任をどうとるつもりかと聞いているのよ、答えなさい」
「あ、い、いや……それは……」
「責任をとる気は無いとでも? まあ、随分と無責任だこと……。貴方達は主人の命令に従ったと言うけど、それが私の時間を無駄に浪費すると分かっていたのよね? 貴方達が一言『旦那様は外出した』と私に知らせてくれたなら、無駄に待つこともなかったわよね?」
まるで子供に言い聞かせるように彼等の仕出かしたことを説明し、詰め寄るセシリア。淡々とした物言いと、溢れんばかりの威圧感に皆真っ青な顔で身を震わせた。
「も……申し訳ございません。とんだご無礼を……」
「本当ね。ここまでの無礼を働くなんて、高位貴族の使用人のくせに主従関係の基本も理解していないようだわ」
呆れた顔で足を組み、ため息をつくと使用人達は大袈裟なまでにビクッと肩を震わせる。
「責任もとれないなら仕方ないわね。無礼を働いた使用人に罰を与えるのは主人の責任。私はその責任を果たすといたしましょう」
足を直し、椅子からスッと立ち上がるセシリアに使用人達はガタガタ震えだした。
もうずっと震えておけと言わんばかりの冷めた視線を送り、セシリアは彼等の前に立つ。
「本来、折檻には鞭が基本なのでしょうけど、体に跡が残るのは可哀想ね。だから頬を張るだけで勘弁してあげるわ」
今の流れで彼女が自分達に体罰を与えるのだと理解した。
それと同時に安堵する。それくらいで許してもらえるのかと。
「はい。それで奥様のお気が済むのでしたら、どうぞご随意に」
あからさまに安堵した顔で家令は恭しく頭を下げた。
いくら恐ろしいと言っても所詮はカトラリーより重い物を持ったことのない貴婦人。そのほっそりした手から繰り出される威力などたかが知れている。
年の頃三十前後の家令にとっては彼女の平手打ちなど恐るるに足らず。
余裕の表情で彼女の前へと立った。
「あら、そう? じゃあそうするわ……」
次の瞬間、セシリアが腕を振ったと同時に家令の体が宙を舞った。
「……………………へ?」
壁に激突し、家令の体はずるりと力なく床へと崩れ落ちた。
その様子を他の使用人は目を見開き口をポカンと開けたまま、ただ眺めていた。
「ふう……。それじゃあ次の者、とっとと来なさい」
なんてことないように、涼しい顔で告げるセシリア。
その淡々とした声に一同はハッと我に返る。
今、彼女は何をした?
見間違いでなければ平手打ちひとつで家令の体を吹っ飛ばさなかったか?
「う……うう……」
くぐもった家令の声が聞こえ、使用人達は再び恐怖に体を支配される。
男も女も関係なく目の前の状況に怯え、涙を流していた。
セシリアの命令を受け、寝室に集まったガーネット邸の使用人一同。
とはいっても全員ではない。昨夜、エリオットが初夜を放棄して外出したことを知る者のみ。見渡せばメイド、執事、そしてそれを纏める家令と、まあ随分な人数の使用人が主人の非常識な言動を黙認していたものだと呆れてしまう。
「あら……こんなにも大勢の人間が主人の非常識な行動を黙認していたのね? 私は随分と非道な家に嫁いでしまったようだわ……。こんな、人の道から外れた行いを平然とするような者達で構成された家だと知っていたら、初めから嫁がなかったのにね……」
発言の内容はとんでもない家に嫁いでしまったことを嘆くようなものなのに、それを発するセシリアの声は恐ろしいまでに冷たい。壁際に並んだ使用人達はその声にまるで時間が止まったかのように硬直し、冷や汗を垂らしながら無言で立ち尽くしていた。
沈黙が流れる中、額にうっすらと汗を滲ませた彼が口を開いた。
「おそれながら昨晩のことは旦那様に口止めされておりまして……」
「それは先程も聞いたわ。でも、だから何? 理由はどうあれ、貴方達が旦那様の非常識な言動を黙認した事実は変わらないわよね? 共犯者ということよね? なに『主人に言われたから仕方なく……』と被害者ぶってんのよ」
セシリアの鋭い眼光が彼等を射貫く。その瞬間、使用人達はまるで猛獣に睨まれたような錯覚に囚われた。息を呑む間もなく、背筋に冷たいものが走り、言葉は喉の奥で凍りつく。
「も、申し訳……ございません………………」
一瞬だけ「旦那様に口止めされていたので仕方なく」と再び言い訳をしようとして止めた。それを言ったら目の前の恐ろしいまでに凄みのある女主人の怒りに火をつけるだけだと本能で察したからだ。
「謝罪は結構。それで、貴方達はどうやってこの責任をとるの?」
「え…………? せ、責任、とは……」
「貴方達がどう思っているかは知らないけど、私は昨日付けでこの邸の女主人となったのよ? つまり貴方達の主人となったの。主人の貴重な時間を無駄に浪費させた責任をどうとるつもりかと聞いているのよ、答えなさい」
「あ、い、いや……それは……」
「責任をとる気は無いとでも? まあ、随分と無責任だこと……。貴方達は主人の命令に従ったと言うけど、それが私の時間を無駄に浪費すると分かっていたのよね? 貴方達が一言『旦那様は外出した』と私に知らせてくれたなら、無駄に待つこともなかったわよね?」
まるで子供に言い聞かせるように彼等の仕出かしたことを説明し、詰め寄るセシリア。淡々とした物言いと、溢れんばかりの威圧感に皆真っ青な顔で身を震わせた。
「も……申し訳ございません。とんだご無礼を……」
「本当ね。ここまでの無礼を働くなんて、高位貴族の使用人のくせに主従関係の基本も理解していないようだわ」
呆れた顔で足を組み、ため息をつくと使用人達は大袈裟なまでにビクッと肩を震わせる。
「責任もとれないなら仕方ないわね。無礼を働いた使用人に罰を与えるのは主人の責任。私はその責任を果たすといたしましょう」
足を直し、椅子からスッと立ち上がるセシリアに使用人達はガタガタ震えだした。
もうずっと震えておけと言わんばかりの冷めた視線を送り、セシリアは彼等の前に立つ。
「本来、折檻には鞭が基本なのでしょうけど、体に跡が残るのは可哀想ね。だから頬を張るだけで勘弁してあげるわ」
今の流れで彼女が自分達に体罰を与えるのだと理解した。
それと同時に安堵する。それくらいで許してもらえるのかと。
「はい。それで奥様のお気が済むのでしたら、どうぞご随意に」
あからさまに安堵した顔で家令は恭しく頭を下げた。
いくら恐ろしいと言っても所詮はカトラリーより重い物を持ったことのない貴婦人。そのほっそりした手から繰り出される威力などたかが知れている。
年の頃三十前後の家令にとっては彼女の平手打ちなど恐るるに足らず。
余裕の表情で彼女の前へと立った。
「あら、そう? じゃあそうするわ……」
次の瞬間、セシリアが腕を振ったと同時に家令の体が宙を舞った。
「……………………へ?」
壁に激突し、家令の体はずるりと力なく床へと崩れ落ちた。
その様子を他の使用人は目を見開き口をポカンと開けたまま、ただ眺めていた。
「ふう……。それじゃあ次の者、とっとと来なさい」
なんてことないように、涼しい顔で告げるセシリア。
その淡々とした声に一同はハッと我に返る。
今、彼女は何をした?
見間違いでなければ平手打ちひとつで家令の体を吹っ飛ばさなかったか?
「う……うう……」
くぐもった家令の声が聞こえ、使用人達は再び恐怖に体を支配される。
男も女も関係なく目の前の状況に怯え、涙を流していた。
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