初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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公爵が結婚を継続させたい理由とは

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「それに、ここまで恥をかかされておいて、謝罪一つで無かったことには出来ません。つきましては今後の結婚生活を継続するか、解除するかについて話し合いをしたいと思いますの。それで公爵様のご意見も伺いたいと思い、こうして次第でございます」

 セシリアが離婚の意志を仄めかしたことも気になったが“お招き”という言葉にエリオットは首を傾げた。頭を押さえられているせいで物理的に傾げることは不可能だが。

 そんな夫を一瞥し、セシリアは「私が公爵様をお呼びしたのですよ」と告げる。

「なっ……! どうして伯父上を!? これは夫婦の問題じゃないか……」

「ちょっとした喧嘩程度ならまだしも、これは最早そんな次元ではありませんからね。初夜に放置され、肝心の夫は別の女の元へ行ったと聞かされた時の私の屈辱が分かりますか? 貴族の結婚は当人だけの問題ではないのです。私への侮辱はひいてはサフィー家への侮辱に繋がり、ガーネット家がサフィー家を愚弄したことになるも同然。もう、夫婦で話し合って済むような問題ではないのですよ、旦那様……」

 恐ろしく冷たい声にエリオットは身震いした。
 結婚式では可憐な声で話しかけてくれた妻とはまるで別人の冷たさに、驚いて声が出ない。

「セシリア嬢の言う通りだ。まさか貴様が──この儂の甥がこのように愚か極まりない行動をするとは思わなんだ。よくも家の名に泥を塗ってくれたな……」

公爵の声には今にも爆発しそうな程の怒りが込められていた。白髪の混じった前髪に潜むその双眸には失望が滲み出ている。

「婚姻は、家と家を結ぶ盟約だと知らなかったのか? ガーネット侯爵家の当主がよもやそんな簡単なことも知らぬとは……貴様は今まで何を学んできた?」

「伯父上……これには訳が……」

「みっともなく言い訳をしようとするな! 恥の上塗りにしかならぬ!」

 怒りのまま公爵がエリオットの頭を掴む手に力を籠める。
 床に頭を押し付けられたエリオットは苦しそうに「ぐうっ……」とうめき声をあげた。

「……まあ、このようにケチのついてしまった結婚ですので、出来れば早々に終わりにしたく存じます。」

「セシリア嬢、それはッ……!」

「あら、だって公爵様、旦那様には妻の私よりも優先したい女性がいるようですよ? ならばその方に私の代わりに妻になっていただいたらよろしいかと」

「それは駄目だ! あんな女を一族に迎え入れるなどとんでもない!」

 バッと顔を上げて必死の形相で声を荒げる公爵。どうやら彼はエリオットの元婚約者をよく思っていないようだ。

「セシリア嬢がそう思うのも当然だ。こんな愚か者の妻になりたくないと思う気持ちもよく分かる……。だが、せめてもう一度機会をくれないだろうか……?」

「機会……ですか」

 公爵のあまりにも必死な様子にセシリアは違和感を覚えた。
 何故、公爵は頭を下げてまでセシリアを甥の妻として繋ぎとめておきたがるのか。

「それは、何故ですか?」

「え? 何故、とは……」

「名門ガーネット家ならば私と離婚しようとも縁談先などいくらでも見つかるでしょう。ここまでケチのついた結婚を継続するよりも、新たな奥様をお迎えして一からやり直す方が遥かに有意義というもの。そうは思いませんか?」

 本音で言えばエリオットと夫婦生活を続けるなんて御免だ。
こんな男の子供を身籠るとか考えただけで怖気が走る。

 だが、公爵には恩義を感じているのも本当だ。彼が望むのであればこの怖気が走る男との結婚生活を仕方なく続けるのもやぶさかではない。公爵がセシリアを甥の妻にしておきたい次第だが……

「いや、しかし……それは……」

「もしや、お金の心配をしていらっしゃいます? せっかく盛大な結婚式をあげたというのに無駄になってしまいますものね。それに新たな奥様を迎えるにあたって再度式をあげねばなりませんから、出費も重なりますもの」

「違う! そんなみみっちいことを心配しているわけではない!」

 結構な大金がかかったと思うのだが、それを“みみっちい”と断言できるなんてガーネット家は裕福だ。

「なら、どうして継続することを望まれるのです?」

 セシリアの指摘に公爵は困惑した顔で目を伏せる。
 やがて、観念したようにのろのろと顔をあげて「セシリア嬢にはかなわんな……」と自嘲気味に答えた。

「君は聡いな。それに強い。そんな君だからこそ甥の花嫁に……ひいてはこのガーネット侯爵家を守る女主人として相応しいと思ったのだよ。儂の目に狂いは無かった。君ほどの強さと賢さがあればを遠ざけることも容易い……」

「王女? いったい何のことです……?」

 いきなり出てきた“王女”という言葉にセシリアは意味が分からず首を傾げた。
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