19 / 165
公爵が結婚を継続させたい理由とは
しおりを挟む
「それに、ここまで恥をかかされておいて、謝罪一つで無かったことには出来ません。つきましては今後の結婚生活を継続するか、解除するかについて話し合いをしたいと思いますの。それで公爵様のご意見も伺いたいと思い、こうしてお招きした次第でございます」
セシリアが離婚の意志を仄めかしたことも気になったが“お招き”という言葉にエリオットは首を傾げた。頭を押さえられているせいで物理的に傾げることは不可能だが。
そんな夫を一瞥し、セシリアは「私が公爵様をお呼びしたのですよ」と告げる。
「なっ……! どうして伯父上を!? これは夫婦の問題じゃないか……」
「ちょっとした喧嘩程度ならまだしも、これは最早そんな次元ではありませんからね。初夜に放置され、肝心の夫は別の女の元へ行ったと聞かされた時の私の屈辱が分かりますか? 貴族の結婚は当人だけの問題ではないのです。私への侮辱はひいてはサフィー家への侮辱に繋がり、ガーネット家がサフィー家を愚弄したことになるも同然。もう、夫婦で話し合って済むような問題ではないのですよ、旦那様……」
恐ろしく冷たい声にエリオットは身震いした。
結婚式では可憐な声で話しかけてくれた妻とはまるで別人の冷たさに、驚いて声が出ない。
「セシリア嬢の言う通りだ。まさか貴様が──この儂の甥がこのように愚か極まりない行動をするとは思わなんだ。よくも家の名に泥を塗ってくれたな……」
公爵の声には今にも爆発しそうな程の怒りが込められていた。白髪の混じった前髪に潜むその双眸には失望が滲み出ている。
「婚姻は、家と家を結ぶ盟約だと知らなかったのか? ガーネット侯爵家の当主がよもやそんな簡単なことも知らぬとは……貴様は今まで何を学んできた?」
「伯父上……これには訳が……」
「みっともなく言い訳をしようとするな! 恥の上塗りにしかならぬ!」
怒りのまま公爵がエリオットの頭を掴む手に力を籠める。
床に頭を押し付けられたエリオットは苦しそうに「ぐうっ……」とうめき声をあげた。
「……まあ、このようにケチのついてしまった結婚ですので、出来れば早々に終わりにしたく存じます。」
「セシリア嬢、それはッ……!」
「あら、だって公爵様、旦那様には妻の私よりも優先したい女性がいるようですよ? ならばその方に私の代わりに妻になっていただいたらよろしいかと」
「それは駄目だ! あんな女を一族に迎え入れるなどとんでもない!」
バッと顔を上げて必死の形相で声を荒げる公爵。どうやら彼はエリオットの元婚約者をよく思っていないようだ。
「セシリア嬢がそう思うのも当然だ。こんな愚か者の妻になりたくないと思う気持ちもよく分かる……。だが、せめてもう一度機会をくれないだろうか……?」
「機会……ですか」
公爵のあまりにも必死な様子にセシリアは違和感を覚えた。
何故、公爵は頭を下げてまでセシリアを甥の妻として繋ぎとめておきたがるのか。
「それは、何故ですか?」
「え? 何故、とは……」
「名門ガーネット家ならば私と離婚しようとも縁談先などいくらでも見つかるでしょう。ここまでケチのついた結婚を継続するよりも、新たな奥様をお迎えして一からやり直す方が遥かに有意義というもの。そうは思いませんか?」
本音で言えばエリオットと夫婦生活を続けるなんて御免だ。
こんな男の子供を身籠るとか考えただけで怖気が走る。
だが、公爵には恩義を感じているのも本当だ。彼が望むのであればこの怖気が走る男との結婚生活を仕方なく続けるのもやぶさかではない。公爵がセシリアを甥の妻にしておきたい理由次第だが……
「いや、しかし……それは……」
「もしや、お金の心配をしていらっしゃいます? せっかく盛大な結婚式をあげたというのに無駄になってしまいますものね。それに新たな奥様を迎えるにあたって再度式をあげねばなりませんから、出費も重なりますもの」
「違う! そんなみみっちいことを心配しているわけではない!」
結構な大金がかかったと思うのだが、それを“みみっちい”と断言できるなんてガーネット家は裕福だ。
「なら、どうして継続することを望まれるのです?」
セシリアの指摘に公爵は困惑した顔で目を伏せる。
やがて、観念したようにのろのろと顔をあげて「セシリア嬢にはかなわんな……」と自嘲気味に答えた。
「君は聡いな。それに強い。そんな君だからこそ甥の花嫁に……ひいてはこのガーネット侯爵家を守る女主人として相応しいと思ったのだよ。儂の目に狂いは無かった。君ほどの強さと賢さがあればあの王女を遠ざけることも容易い……」
「王女? いったい何のことです……?」
いきなり出てきた“王女”という言葉にセシリアは意味が分からず首を傾げた。
セシリアが離婚の意志を仄めかしたことも気になったが“お招き”という言葉にエリオットは首を傾げた。頭を押さえられているせいで物理的に傾げることは不可能だが。
そんな夫を一瞥し、セシリアは「私が公爵様をお呼びしたのですよ」と告げる。
「なっ……! どうして伯父上を!? これは夫婦の問題じゃないか……」
「ちょっとした喧嘩程度ならまだしも、これは最早そんな次元ではありませんからね。初夜に放置され、肝心の夫は別の女の元へ行ったと聞かされた時の私の屈辱が分かりますか? 貴族の結婚は当人だけの問題ではないのです。私への侮辱はひいてはサフィー家への侮辱に繋がり、ガーネット家がサフィー家を愚弄したことになるも同然。もう、夫婦で話し合って済むような問題ではないのですよ、旦那様……」
恐ろしく冷たい声にエリオットは身震いした。
結婚式では可憐な声で話しかけてくれた妻とはまるで別人の冷たさに、驚いて声が出ない。
「セシリア嬢の言う通りだ。まさか貴様が──この儂の甥がこのように愚か極まりない行動をするとは思わなんだ。よくも家の名に泥を塗ってくれたな……」
公爵の声には今にも爆発しそうな程の怒りが込められていた。白髪の混じった前髪に潜むその双眸には失望が滲み出ている。
「婚姻は、家と家を結ぶ盟約だと知らなかったのか? ガーネット侯爵家の当主がよもやそんな簡単なことも知らぬとは……貴様は今まで何を学んできた?」
「伯父上……これには訳が……」
「みっともなく言い訳をしようとするな! 恥の上塗りにしかならぬ!」
怒りのまま公爵がエリオットの頭を掴む手に力を籠める。
床に頭を押し付けられたエリオットは苦しそうに「ぐうっ……」とうめき声をあげた。
「……まあ、このようにケチのついてしまった結婚ですので、出来れば早々に終わりにしたく存じます。」
「セシリア嬢、それはッ……!」
「あら、だって公爵様、旦那様には妻の私よりも優先したい女性がいるようですよ? ならばその方に私の代わりに妻になっていただいたらよろしいかと」
「それは駄目だ! あんな女を一族に迎え入れるなどとんでもない!」
バッと顔を上げて必死の形相で声を荒げる公爵。どうやら彼はエリオットの元婚約者をよく思っていないようだ。
「セシリア嬢がそう思うのも当然だ。こんな愚か者の妻になりたくないと思う気持ちもよく分かる……。だが、せめてもう一度機会をくれないだろうか……?」
「機会……ですか」
公爵のあまりにも必死な様子にセシリアは違和感を覚えた。
何故、公爵は頭を下げてまでセシリアを甥の妻として繋ぎとめておきたがるのか。
「それは、何故ですか?」
「え? 何故、とは……」
「名門ガーネット家ならば私と離婚しようとも縁談先などいくらでも見つかるでしょう。ここまでケチのついた結婚を継続するよりも、新たな奥様をお迎えして一からやり直す方が遥かに有意義というもの。そうは思いませんか?」
本音で言えばエリオットと夫婦生活を続けるなんて御免だ。
こんな男の子供を身籠るとか考えただけで怖気が走る。
だが、公爵には恩義を感じているのも本当だ。彼が望むのであればこの怖気が走る男との結婚生活を仕方なく続けるのもやぶさかではない。公爵がセシリアを甥の妻にしておきたい理由次第だが……
「いや、しかし……それは……」
「もしや、お金の心配をしていらっしゃいます? せっかく盛大な結婚式をあげたというのに無駄になってしまいますものね。それに新たな奥様を迎えるにあたって再度式をあげねばなりませんから、出費も重なりますもの」
「違う! そんなみみっちいことを心配しているわけではない!」
結構な大金がかかったと思うのだが、それを“みみっちい”と断言できるなんてガーネット家は裕福だ。
「なら、どうして継続することを望まれるのです?」
セシリアの指摘に公爵は困惑した顔で目を伏せる。
やがて、観念したようにのろのろと顔をあげて「セシリア嬢にはかなわんな……」と自嘲気味に答えた。
「君は聡いな。それに強い。そんな君だからこそ甥の花嫁に……ひいてはこのガーネット侯爵家を守る女主人として相応しいと思ったのだよ。儂の目に狂いは無かった。君ほどの強さと賢さがあればあの王女を遠ざけることも容易い……」
「王女? いったい何のことです……?」
いきなり出てきた“王女”という言葉にセシリアは意味が分からず首を傾げた。
3,583
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました
鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」
王太子アントナン・ドームにそう告げられ、
公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。
彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任――
国が回るために必要なすべて。
だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。
隣国へ渡ったエミーは、
一人で背負わない仕組みを選び、
名前が残らない判断の在り方を築いていく。
一方、彼女を失った王都は混乱し、
やがて気づく――
必要だったのは彼女ではなく、
彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。
偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、
王太子アントナンは、
「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。
だが、もうエミーは戻らない。
これは、
捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。
溺愛で救われる物語でもない。
「いなくても回る世界」を完成させた女性と、
彼女を必要としなくなった国の、
静かで誇り高い別れの物語。
英雄が消えても、世界は続いていく――
アルファポリス女子読者向け
〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる