初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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幼児なのかしら

 許可なく邸に侵入し、無断で部屋に突撃する。満足に自己紹介もできない。
 礼儀の欠片もない行動に、セシリアは目の前の女は本当に子爵家の令嬢なのかと首を傾げてしまう。

(品位の欠片もない……。これで侯爵家の夫人になるはずだったなんて呆れてしまうわ)

 貴族ではなく平民と言われた方が納得できる。
それくらい目の前の女からは品というものを感じられなかった。

「挨拶も無く、名乗りもしないなど無礼極まりないわ。それ以前に勝手に邸に侵入するなど言語道断ね。不審者として牢に入ることをお望みかしら?」

 牢、と聞いてキャサリンは恐怖でますます震えあがり、再び悲鳴をあげてその場に膝から崩れ落ちる。

「……っ……ご、ごめんなさい……」

 ここに突撃してきた時の勢いはどこに行ったのやら、キャサリンは床に座り込んだまま大粒の涙を零し始めた。

(え、泣くの? さっきまで怒っていたのに? 何、この情緒の不安定さは……)

 執事がキャサリンを“情緒不安定”と言った意味がよく分かった。
 怒っていたと思ったら急に泣き出して、これではまるで幼児だ。

「…………彼女を家まで送って差し上げて。ここにいられても迷惑だわ」

 口を挟めず、やり取りを見るだけしか出来なかった執事に顔を向け命じると、彼は「畏まりました」と一礼する。

「ま、まって……! 私はエリオットに会いにきただけなの! エリオットはどこ?」

「……ガーネット公爵様に連れられて何処かへ行きましたよ」

 グスグスと泣きべそをかきながらエリオットの所在を尋ねるキャサリンに、セシリアは冷たく言い放つ。少し叱責されただけで幼児のように泣き出し、自分の非礼を謝罪することなく自分の要求だけを突き通そうとする。この短い時間での短い会話だけでセシリアはキャサリンに嫌悪感を抱いた。

「目障りだわ……。さっさと連れていってちょうだい」

 その低く威圧の籠った声を聞いた執事はセシリアが怒っていると気づき、慌ててキャサリンの肩を掴んで立ち上がらせた。

「痛っ! 止めて! 乱暴しないで!」

「騒がないでください! ……奥様、侵入を許して大変申し訳ございませんでした。すぐに対処致しますのでお待ちを!」

 痛いと喚くキャサリンを無視して執事は彼女の腕を掴んで部屋の外へと出て行った。
 女性に対してこんな扱いをするのは普段ならば躊躇するのだが、セシリアの機嫌だけは絶対に損ねたくない。彼の中で優先順位は何をおいてもセシリアだ。それを間違えば命が危ないと理解している。

 騒がしい女がいなくなり、静かになった部屋にメイドが慌てて入って来た。

「奥様! 不審者を邸へ侵入させてしまい申し訳ありませんでした! お疲れでしょうし、よろしければお茶でもご用意させていただきます」

 執事に言われてご機嫌を取りに来たのか、メイドは額から冷や汗を垂らしてセシリアにお茶を勧める。セシリアはそんなメイドを一瞥し、首を横に振った。

「いえ、今はいいわ。それよりお義母様はどうしていらっしゃるかしら?」

「へ? イザベラ様ですか……? 多分、別邸にいらっしゃると思われますが……」

「そう。なら、会いに行っていいかを聞いてきてくださる? セシリアがお茶をご一緒したいと伝えてちょうだい」

「は、はい! 畏まりました! すぐに聞いて参ります!」

 緊張したままのメイドは背筋をピンと伸ばして返事をする。そのまま踵を返し、イザベラのもとへ行くためバタバタと足音を立てて部屋を後にした。

「…………ふう、なんだかどっと疲れたわ」

 夫と公爵との話し合いの後に夫の元婚約者が突撃してきたとなれば精神的に疲労して当然だろう。こんな時は義母のツンツンとした可愛らしさに癒されたい。

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