39 / 165
あくまで”護身用”ですよ
「セシリア、君は誤解している。話し合おう、ここを開けてくれ」
どこか噛み合わない返答を返すエリオットに、セシリアはふと、言い知れぬ不穏さを感じた。
「話し合いなら明日の日中にしてください。今日はもう遅いですし、私も疲れておりますの」
「なら、やはり夫婦の寝室で話し合おう。疲れたらそのまま寝てもいいから」
「いいえ、結構です。もう、お部屋にお戻りください。それでは」
まだ何か言おうとするエリオットを無視し、セシリアは扉の鍵を閉めてその場から離れた。
「…………悪いけど、湯浴みの準備が出来たら呼んでちょうだい」
動揺した様子のメイド達に言葉を残し、セシリアは足早に寝室へと向かった。
この部屋にいると聞きたくもないエリオットの声が耳に入るので不快だ。
寝室に入り、扉を閉めたのを確認するとそのままチェストに向かった。
引き出しを開け、一つの巾着袋を取り出して中の物を取り出す。
「念のために…………」
そう呟いてセシリアは巾着袋から取り出した物──拳銃を枕元へと置いた。
もし、エリオットが夜這いを仕掛けてきた場合に備えて。
先程のやり取りで何となく察した。エリオットが“半年間寝室を共にしない”という約束を破り、こちらと関係を結ぼうとしていることを。
それが単に性欲から来るものなのか、それとも無理やり肉体関係を結んで離婚し辛い状況にもっていこうとしているかは分からない。いずれにせよ自衛するに越したことは無い。
この拳銃は“護身用に”と結婚前に母が持たせてくれたものだ。
こんなものに頼らずとも素手でどうにかなると最初は断ったのだが、それに対して母は怖い形相で「お前の護身のためじゃない」と渡してきた。
一撃で大の男を複雑骨折させてしまうほどのセシリアの膂力を夫に対して使えばどうなるか。訴えられたらこちらが負ける確率は高い、と叱られた。
そうならない為にも暴力に訴えず、コレで脅すようにしろ。
引き金は引かず、あくまで脅しの道具として使え。
母からそう言い聞かされて持参した品である。
改めて考えると母の教えは正しかった。仮にエリオットが夜這いを仕掛けてきたとしたら、気持ち悪さのあまりに何発も殴り重傷を負わせてしまう自信がある。
使用人相手ならまだしも、流石に貴族家の当主相手にそれは不味い。訴えられたら負ける。
だからもしエリオットが来た場合はコレを頭に突きつけて追い出そう。
臆病者な彼のことだ。それだけで驚いて逃げ出すに違いない。
そう考えると心が軽くなり、セシリアは静かに落ち着きを取り戻した。
「奥様……湯浴みの準備が整いました」
おそるおそる声をかけてきたメイドに対し、セシリアは機嫌よく「今行くわ」と答える。畏怖すら覚える女主人の機嫌がよくなったことにメイドは心の底から安堵した。
その夜、やはりというか、予想どおりエリオットが寝室にやってきた。
深い眠りについていたセシリアだったが、鍛錬によって研ぎ澄まされた感覚がわずかな気配を捉えて飛び起きる。
すぐに枕元にある拳銃を手にし、エリオットの頭へと銃口を押し付けた。
「こんばんは、エリオット様」
セシリアは、場違いなほど穏やかな笑みをエリオットに向けた。
それは、これ以上近づくなという無言の拒絶。
こんなかたちで拒まれるとは思っていなかったエリオットは、額に冷や汗を浮かべ顔を引きつらせていた。
どこか噛み合わない返答を返すエリオットに、セシリアはふと、言い知れぬ不穏さを感じた。
「話し合いなら明日の日中にしてください。今日はもう遅いですし、私も疲れておりますの」
「なら、やはり夫婦の寝室で話し合おう。疲れたらそのまま寝てもいいから」
「いいえ、結構です。もう、お部屋にお戻りください。それでは」
まだ何か言おうとするエリオットを無視し、セシリアは扉の鍵を閉めてその場から離れた。
「…………悪いけど、湯浴みの準備が出来たら呼んでちょうだい」
動揺した様子のメイド達に言葉を残し、セシリアは足早に寝室へと向かった。
この部屋にいると聞きたくもないエリオットの声が耳に入るので不快だ。
寝室に入り、扉を閉めたのを確認するとそのままチェストに向かった。
引き出しを開け、一つの巾着袋を取り出して中の物を取り出す。
「念のために…………」
そう呟いてセシリアは巾着袋から取り出した物──拳銃を枕元へと置いた。
もし、エリオットが夜這いを仕掛けてきた場合に備えて。
先程のやり取りで何となく察した。エリオットが“半年間寝室を共にしない”という約束を破り、こちらと関係を結ぼうとしていることを。
それが単に性欲から来るものなのか、それとも無理やり肉体関係を結んで離婚し辛い状況にもっていこうとしているかは分からない。いずれにせよ自衛するに越したことは無い。
この拳銃は“護身用に”と結婚前に母が持たせてくれたものだ。
こんなものに頼らずとも素手でどうにかなると最初は断ったのだが、それに対して母は怖い形相で「お前の護身のためじゃない」と渡してきた。
一撃で大の男を複雑骨折させてしまうほどのセシリアの膂力を夫に対して使えばどうなるか。訴えられたらこちらが負ける確率は高い、と叱られた。
そうならない為にも暴力に訴えず、コレで脅すようにしろ。
引き金は引かず、あくまで脅しの道具として使え。
母からそう言い聞かされて持参した品である。
改めて考えると母の教えは正しかった。仮にエリオットが夜這いを仕掛けてきたとしたら、気持ち悪さのあまりに何発も殴り重傷を負わせてしまう自信がある。
使用人相手ならまだしも、流石に貴族家の当主相手にそれは不味い。訴えられたら負ける。
だからもしエリオットが来た場合はコレを頭に突きつけて追い出そう。
臆病者な彼のことだ。それだけで驚いて逃げ出すに違いない。
そう考えると心が軽くなり、セシリアは静かに落ち着きを取り戻した。
「奥様……湯浴みの準備が整いました」
おそるおそる声をかけてきたメイドに対し、セシリアは機嫌よく「今行くわ」と答える。畏怖すら覚える女主人の機嫌がよくなったことにメイドは心の底から安堵した。
その夜、やはりというか、予想どおりエリオットが寝室にやってきた。
深い眠りについていたセシリアだったが、鍛錬によって研ぎ澄まされた感覚がわずかな気配を捉えて飛び起きる。
すぐに枕元にある拳銃を手にし、エリオットの頭へと銃口を押し付けた。
「こんばんは、エリオット様」
セシリアは、場違いなほど穏やかな笑みをエリオットに向けた。
それは、これ以上近づくなという無言の拒絶。
こんなかたちで拒まれるとは思っていなかったエリオットは、額に冷や汗を浮かべ顔を引きつらせていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。
山田 バルス
恋愛
結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。
また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。
大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。
かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。
国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。
スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。
ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。
後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。
翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。
価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。