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落ち込むセシリア
エリオットに部屋へ無断で侵入された日の翌日から予想だにしないことが起こった。
なんと、使用人たちが一丸となり、キャサリンをエリオットに近づけないよう動き始めたのだ。
「奥様、ご安心ください。私どもでキャサリン様を旦那様に近づけないようにいたしますので」
いい笑顔の執事にそう言われ、セシリアは開いた口が塞がらなかった。
(なんて……余計な真似を!!)
早々に離婚したいセシリアにとっては、元婚約者がエリオットに近づくことはむしろ望むところだ。
意志薄弱で流されやすいエリオットならば近いうちに何らかの接触をするに違いないとほくそ笑んでいたのに、これでは台無しではないか。
セシリアの望まない方向で努力を始めた使用人達は、それはもう巧みな連携でキャサリンをエリオット……というかむしろ邸から遠ざけていた。
懲りずに本人が突撃してきた際は門前で追い返し、手紙などで接触を図ろうとしたときはそれごと処分する。そして使いの者を出してきた時は嫌味のひとつを言って帰ってもらっていた。
(そんなことをされても……今更なのよね)
彼らがどういうつもりでそんなことをしているのかは分からない。
セシリアへの罪滅ぼしなのか、それともエリオットに命じられたからなのか。
いずれにせよ、離婚を望むセシリアにとっては喜ばしいどころか、ありがた迷惑でしかない。
そもそも今更だ。この徹底した仕事ぶりを初夜の時のこそやってほしかった。
そうであったなら、セシリアもエリオットと普通の夫婦を始められたかもしれないのに。
後々険悪な仲には発展しそうであるが……。
「奥様、鍵の交換は明日には終わる見込みでございます」
「そう……。ありがとう……」
表面上はにこやかに応対したが、内心では本邸に戻るのなんて嫌で仕方ない。
だって、本邸にはエリオットがいる。ここにいる間は顔を合わせずに済んでいたのに、戻ればまた顔を合わせなければならない。
「はあ………………」
執事が本邸へと戻った後、セシリアはサロンの椅子に座り目線を下に向けていた。
膝の上に置いたカップをじっと見つめ、長いまつげの影を落とす。淡い紅茶の香りにもいつものように微笑む気配はない。小さなため息が静寂を切るように漏れた。
その様子をそっと見守っていたイザベラは、裾を払って近づき静かに声をかけた。
「セシリア、どうしたの?」
「あ、お義母様…………」
イザベラの顔を見た瞬間、セシリアはわずかに安堵した。
「実は……明日、本邸の私の部屋の鍵が新しいものに替えられると、先程執事から報告がありました……」
「あら、そうなの? よかったじゃない」
「……いえ、よくはありません。たしかにそう命じたのは私ですが、いざここで暮らしてみると快適で……本邸に戻りたくありません。なにより、エリオット様を顔を合わせたくない……」
いつもの堂々とした姿は影もなく、しおれた様子のセシリアを見てイザベラは少しだけ胸が痛んだ。
無理もない。夫とはいえ、夜に部屋へ忍び込み、よからぬことを企てた男と同じ屋敷で暮らすなど苦痛でしかないだろう。
おまけにすぐに離婚できると思っていたのに、使用人たちの余計なはからいでそれさえも難しくなってきた。
今のセシリアの心は、きっとぽっきりと折れてしまっているのだろう。
ここで気晴らしに外出するとでも言って、本題から目を背けることはできるかもしれない。
だが、それは一時しのぎの逃避でしかなく、根本的な解決にはなっていない。
とはいえ、自分に何かできることがあるかといえば、生憎思いつかない。
落ち込んだ様子のセシリアを前に、何も言えない。
しかし、ふと、あることを思いついた。
「セシリア……」
彼女が再び顔を上げたその瞬間、イザベラは凛とした静かな眼差しを向けた。
なんと、使用人たちが一丸となり、キャサリンをエリオットに近づけないよう動き始めたのだ。
「奥様、ご安心ください。私どもでキャサリン様を旦那様に近づけないようにいたしますので」
いい笑顔の執事にそう言われ、セシリアは開いた口が塞がらなかった。
(なんて……余計な真似を!!)
早々に離婚したいセシリアにとっては、元婚約者がエリオットに近づくことはむしろ望むところだ。
意志薄弱で流されやすいエリオットならば近いうちに何らかの接触をするに違いないとほくそ笑んでいたのに、これでは台無しではないか。
セシリアの望まない方向で努力を始めた使用人達は、それはもう巧みな連携でキャサリンをエリオット……というかむしろ邸から遠ざけていた。
懲りずに本人が突撃してきた際は門前で追い返し、手紙などで接触を図ろうとしたときはそれごと処分する。そして使いの者を出してきた時は嫌味のひとつを言って帰ってもらっていた。
(そんなことをされても……今更なのよね)
彼らがどういうつもりでそんなことをしているのかは分からない。
セシリアへの罪滅ぼしなのか、それともエリオットに命じられたからなのか。
いずれにせよ、離婚を望むセシリアにとっては喜ばしいどころか、ありがた迷惑でしかない。
そもそも今更だ。この徹底した仕事ぶりを初夜の時のこそやってほしかった。
そうであったなら、セシリアもエリオットと普通の夫婦を始められたかもしれないのに。
後々険悪な仲には発展しそうであるが……。
「奥様、鍵の交換は明日には終わる見込みでございます」
「そう……。ありがとう……」
表面上はにこやかに応対したが、内心では本邸に戻るのなんて嫌で仕方ない。
だって、本邸にはエリオットがいる。ここにいる間は顔を合わせずに済んでいたのに、戻ればまた顔を合わせなければならない。
「はあ………………」
執事が本邸へと戻った後、セシリアはサロンの椅子に座り目線を下に向けていた。
膝の上に置いたカップをじっと見つめ、長いまつげの影を落とす。淡い紅茶の香りにもいつものように微笑む気配はない。小さなため息が静寂を切るように漏れた。
その様子をそっと見守っていたイザベラは、裾を払って近づき静かに声をかけた。
「セシリア、どうしたの?」
「あ、お義母様…………」
イザベラの顔を見た瞬間、セシリアはわずかに安堵した。
「実は……明日、本邸の私の部屋の鍵が新しいものに替えられると、先程執事から報告がありました……」
「あら、そうなの? よかったじゃない」
「……いえ、よくはありません。たしかにそう命じたのは私ですが、いざここで暮らしてみると快適で……本邸に戻りたくありません。なにより、エリオット様を顔を合わせたくない……」
いつもの堂々とした姿は影もなく、しおれた様子のセシリアを見てイザベラは少しだけ胸が痛んだ。
無理もない。夫とはいえ、夜に部屋へ忍び込み、よからぬことを企てた男と同じ屋敷で暮らすなど苦痛でしかないだろう。
おまけにすぐに離婚できると思っていたのに、使用人たちの余計なはからいでそれさえも難しくなってきた。
今のセシリアの心は、きっとぽっきりと折れてしまっているのだろう。
ここで気晴らしに外出するとでも言って、本題から目を背けることはできるかもしれない。
だが、それは一時しのぎの逃避でしかなく、根本的な解決にはなっていない。
とはいえ、自分に何かできることがあるかといえば、生憎思いつかない。
落ち込んだ様子のセシリアを前に、何も言えない。
しかし、ふと、あることを思いついた。
「セシリア……」
彼女が再び顔を上げたその瞬間、イザベラは凛とした静かな眼差しを向けた。
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