初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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駄目なままでいいと思っているの?

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 傷ついた顔をするエリオットがセシリアは心底不思議で仕方なかった。
 すべて自分の行動が原因でこうなったのに、どうしてあたかも被害者のように振る舞うのだろう。
 彼はいつだってセシリアを傷つける加害者だった。それを分かっていないから、こうして被害者ぶって悲観してみせるのだろう。

 まったく、腹が立つ。

「……セシリア嬢、君には本当に申し訳ないことをした。無理を言ってこの馬鹿を押し付けてしまったこと、本当に心の底から申し訳ないと思っている……」

 公爵は声を震わせながら深く頭を下げた。

「いえ……公爵様のせいではありませんわ。私もまさかここまで筆舌に尽くしがたいほどひどいとは思っていませんでしたから」

 さりげない追撃に公爵は「うっ……」と小さなうめき声を漏らす。
 身分が上の相手に無礼な物言いではあるが、反論は出来ない。彼の甥エリオットは、結婚初日からセシリアに対して非道な振る舞いを繰り返していたのだから。

「君には……ずっと苦しい思いをさせてきた。お世辞にも幸せとは言えないような結婚生活を味合わせてしまい、君にも、君の親にも申し訳ないと思っている。……だが、それでも、この領地には君が必要だ。此度の災害でそれを実感した。この馬鹿に任せては領民を失ってしまう。だからどうか、一度だけ考え直してくれぬか……?」

 公爵の懇願にセシリアは静かに視線を落とし、深く溜息をついた。

「……公爵様、何を甘い事を言ってらっしゃるのです?」

「は?」

 思いもよらぬ返答に、公爵は驚きのあまり口を開けたまま固まってしまった。

「領主が駄目だから妻に責務を負わせる、と? それは根本から間違っておりますわ。駄目な者を領主にしておいてよいのですか? そんな状況では家門の信用は地に落ちますよ」

「なッ……!?」

 セシリアの鋭くも的確な正論に公爵は思わず言葉を失った。
 薄々理解していたことだが、あえてそこを指摘されるとは思ってもみなかったのだ。

「とはいえど、ガーネット侯爵の座は個人の能力ではなく血筋で決まりますからね。致し方ないことでしょう」

 言外にエリオットが「血筋だけで選ばれた無能者」だと示唆されていることに気づき、公爵はばつが悪そうに視線を逸らした。セシリアを無礼者だと責めることも出来ない。何故ならその通りだから。

「しかしながら……駄目な状態で領主の座に就かせたのはガーネット家門の落ち度だと思われます。駄目な男を出来る男へと成長させるか、もしくは別の方をその座につかせるかしなければなりませんでした。これからも妻に尻拭いしてもらい続けるような情けない方が領主で、家門の名誉は保たれますか?」

「……ッ! それは……」

 セシリアの言葉に、公爵はハッと気づかされた。

「公爵様が最優先すべきことは、私に離婚を思いとどまらせることではなく、エリオット様を鍛え直すことではございませんか? 私に対して申し訳なく思うお気持ちがあるならば、身内の甘さを捨て、とことん厳しく調教……いえ、教育すべきかと」

 力強い目でそう告げるセシリアの言葉に公爵は深い感銘を受け、目からわずかに涙を滲ませた。

「……君の言う通りだ。全くもってその通りだ。儂はまだまだ覚悟というものが足りなかったな……家門の長という身でありながら、なんと情けない」

 公爵は懐からハンカチを取り出して目元を拭うと、鋭い視線をエリオットに向けた。

「お、伯父上……」

「エリオット、これから貴様の根性を根本から叩き直す。二度と領主の責務を他者に押し付けぬよう、その甘え切った性根を砕いてくれるわ。泣こうが喚こうが領主として相応しい人格になるまで容赦はせん」

 公爵の本気の表情に圧され、エリオットはかすかに悲鳴を漏らした。

「そんな……」

 厳しい教育が自分を待っていると知ったエリオットは、助けを求めるような視線をセシリアに向けた。

「セシリア……。君に嫌な事をしたことは謝る! 謝るから、どうか離婚だけは勘弁してくれ……」

 離婚さえしなければ、厳しい教育を受けずともよいと考えたエリオットはセシリアへと縋る。
 だが、そんな浅はかな考えなどセシリアにはお見通しだ。

「嫌です、許しません。それに、あなたはキャサリン様の純潔を奪ったのでしょう? だったら責任を取らねばなりませんよ。処女でなくなった以上、もう彼女はまともな家に嫁げないのですから」

 セシリアに冷たく突き放され、エリオットは顔面を蒼白にし、言葉を失った。
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