比べないでください

わらびもち

文字の大きさ
3 / 19

1年ぶりの帰省

しおりを挟む
 15で王太子と婚約し、王妃教育のためと半ば攫われるように王宮に行ってしまったブリジットが1年ぶりに公爵家に戻り、マーリン公爵夫妻は歓喜した。

 そして娘の口から聞いた王太子の非道な言動に彼等は憤慨し、激昂した。

「……あの青二才、私の可愛い娘を前の婚約者と比べて罵倒しただと? ふざけおって……!!」

「こっちは泣く泣く娘を送り出したというのに虐げるだなんて! ……あの王太子はよほど死にたいようね?」

 元々公爵夫妻は娘を王家に嫁がせる気など毛頭なかった。
 
 愛娘に相応しい相手を吟味し、いくつか候補が絞れたところでさあお見合いを、といった時に半ば強制されたのが王太子との婚約だ。断れるものなら断りたかった。

「他に候補者がいなかったから仕方なく了承したにすぎぬのに……娘を虐げるなぞ何を勘違いしたのか! ブリジットが婚約せねば王太子にすらなれぬと分からぬか!」

 この国で王子が立太子するには侯爵家以上の身分の令嬢を婚約者にする必要がある。
 なのでレイモンドはビクトリアと婚約を解消した時点で一度王太子の座から外され、ブリジットと婚約したことにより再び返り咲いたのだ。

「王家がしつこく懇願してくるから泣く泣くブリジットを手放したというのに……あの恩知らずが! もういい、こんな婚約は破棄だ! 頼まれても二度とブリジットは王家に嫁がせんからな!」

 ビクトリアが国外に出てしまい、ブリジットも婚約しないとなると、もう王太子の婚約者になれる妙齢の女性がいない。となるとまたレイモンドは王太子の座から外されるが、それはもう自業自得であろう。

 婚約者がいなければ王太子の座に就けない。
 それなのにブリジットに見当違いな八つ当たりをしたレイモンドは第三者から見れば愚かであるとしかいいようがない。

 そもそも客観的に見てブリジットに非は一つもない。
 
 勝手に娘の婚約を解消したのはケンリッジ公爵で、資金援助の負い目からそれを止められなかったのは王家だ。
 ブリジットもマーリン公爵家もとんだとばっちりを受けたに過ぎない。

 それでもブリジットは家の為、国の為に望んでいない“王太子の婚約者”の座に就き、受けたくもない王妃教育に勤しんだ。

 寝る間も惜しみ食事の時間も割いて教育を受けていたのに、婚約者から労いの言葉一つない。
 それどころか前の婚約者と比べて蔑む始末。
 こんな扱いを受けるために王太子の婚約者の座に就いたわけじゃない、とブリジットが憤るのは当然の結果だった。

「あちらがどれだけ謝罪しようが決して許さん。ブリジット、辛い想いをさせてすまなかった……。もうこれ以上お前に我慢などさせん。この父がお前を守るから安心しなさい」

 父親の頼もしい言葉にブリジットは涙が出るほど喜んだ。

 これで我慢を強いるような親ならブリジットは家に戻らず真っ直ぐ修道院を目指していただろう。

「はい、ありがとうございますお父様……」

 安堵した次の瞬間、ブリジットはそのまま意識を失った。
 王宮での過密スケジュールでずっと気を張り詰めていたうえに、王太子と顔を会わせるたびに嫌なことを言われ、心身共に限界だったのだ。

 蓄積され続けたストレスと疲労を無意識に癒すかのように眠りにつき、そのままブリジットは3日間目を覚まさなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...