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わらびもち

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王弟が神父となった理由

 ロレーヌ王国国王の異母弟、フリードリヒ。彼は先代国王の側妃との間に生まれた王子である。
 兄である現王とは大きな年の差があり、彼が生まれた時にはすでに兄は王太子の座に就いていた。
 それゆえ彼は将来どこかに婿入りするか、あるいは爵位を得て貴族として臣籍降下するか、そのいずれかになると定まっていた。彼はその行く末を疑いもせず受け入れていた。母である側妃もまた、同じ未来を見据えて彼を育てていた。それでもなお、その定めを狂わせたものがある。それが母の実家である公爵家だ。

 側妃の実家は国内でも指折りの有力貴族である。
 その当主である祖父と嫡男の伯父はいずれも野心家で、自らの血を引くフリードリヒを王位に就けようと目論んでいたのだ。
 現王の母である正妃は伯爵家の出に過ぎず、側妃は公爵家の出。ならば、より高貴な血を引くフリードリヒこそ玉座にふさわしい――彼らはそう唱えた。そもそもの原因は正妃の実家を上回る家格の令嬢を側妃に迎えた先王の采配にある。フリードリヒの母は儚げな美貌を持ち、それに惹かれた先王は「正妃の実家より格上の令嬢を側妃に迎えるべきではない」という周囲の反対を押し切り彼女を側妃に据えたのである。
 
 その歪みのしわ寄せを受けたのが王太子であった現王だ。
 父親の私欲による行動の結果、彼は本来争う必要のなかった弟と王位を巡って対峙するという余計な負担を強いられることになった。だが現王の母の実家は伯爵家でこそあったものの、国内でも屈指の資産家であり広範な人脈を有していた。

 その人脈が現王と友好国の王女との縁を結んだ。由緒正しき王族の姫、ロザリンド――その名が持つ意味は大きい。
 貴族と王族、その権威の差は歴然としていた。そしてその後ろ盾こそが現王を玉座へと押し上げたのである。
 かくして次代の王を巡っての争いは幕を閉じたように思えた。だが、公爵家はなおも手を引こうとはしなかった。
 嫁いできたロザリンドに執拗な嫌がらせを重ね、王宮から排そうとし、ついには危害すら加えようとしたのである。

 自分の妻に危害を加えようとした彼等に現王もついに我慢の限界に達し、公爵家を取り潰そうとした。
 しかし、それを阻止したのは先王である。最愛の側妃の生家を潰すことは許さず、未だ権力を握る先王を抑えられない現王は大いに悩んだ。そして、その難局を打開したのが──輿入れし王妃となったロザリンドだった。


「義姉上には感謝しおります。祖父や伯父を押さえることもできず、ただ流されるしかなかった私を、あなたは母国へと身分を潜めて逃してくださった――そのご恩は、一生忘れられません」

「ふん、勘違いしないでちょうだい。わたくしと陛下の立場を盤石にするにはあなたは少し邪魔だったのよ。だから国外へ退いていただいた――ただそれだけ」

 元来気の強いロザリンドは嫌がらせに悲しむどころか激しく怒った。
 やり返すだけでは足りない。公爵家ごと潰す――そう決めた彼女がまず手を打ったのは、彼らが担ぎ上げようとしているフリードリヒを国から遠ざけることだった。

 母国の母に頼み、彼を神父に扮させて孤児院に匿わせる。それは保護であると同時に事実上の人質でもあった。
 その結果、公爵たちはロザリンドに容易に手出しできなくなった。
 王族を他国へ追いやるという手段をためらいなく選ぶ彼女に恐れを抱かざるを得なかったのである。
 この機を逃さず、ロザリンドは国王とともに公爵家の打倒に動いた。何年もかけてその力を削り、やがて――取り潰しにまで追い込んだのだ。

 他国へ追いやられ、母の生家を潰されたフリードリヒ。だが、それは彼にとってむしろ救いだった。
 兄と争う気など微塵もなく、ただ翻弄されるばかりだった彼にとってロザリンドの行動はまさしく救いであったのだ。

「ええ、構いません。あなたの母国にいることで、私が人質としての価値を持っていたことも理解しています。王太后陛下が親切にしてくださった理由も――私がそこにいることで、あなたを守れるからだと存じております。それでも、何の力も持たない若造だった私にとっては大変ありがたいことでした」

「……本当にそう思っているのかしら。わたくしに恩を感じているというのなら――なぜエセルを奪おうとするの?
本当は他国へ追いやられたことを恨んでいるのではなくて?」

「滅相もございません。エセル嬢を義姉上から奪おうとしている、というのは誤解です。彼女が侍女としてお仕えすることを辞退したのは、私が求婚を考える以前のことでございます」

「なにそれ……どういうこと?」

 フリードリヒの言葉に王妃は眉根を寄せ、軽く目を細めるのだった。

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