4 / 14
私の真実の愛(夫視点)
私の真実の愛は生涯リリアーヌにのみ注がれている。
彼女が隣国に嫁いでしまっても、私が政略のために妻を迎えていてもだ。
「父上! リリアーヌが隣国より戻ってくると聞きました!」
国の為、隣国の王に嫁いでいったリリアーヌ。
誰かの妻になってしまっても想う気持ちは変わらなかった。
そんな彼女が戻ってくるという噂を耳にし、いてもたってもいられなくなった私は父の執務室に飛び込んだ。
父はいきなり入ってきた私に訝し気な視線を向け、執務の手を止めた。
「……お前は本当に落ち着きがないな。もういい歳になったのだからいい加減年相応の振る舞いを身に着けてほしいものだ。そんなことではビアンカに愛想をつかされるぞ」
父はリリアーヌの件には一切触れず、私を責めた。
確かに落ち着きのない振る舞いだが、愛しの君が戻ってくると聞かされて大人しくしていられるわけないだろう?
「そんなことよりリリアーヌです! リリアーヌが隣国より戻ってくるというのは本当ですか!?」
「はあ……そうだが、お前にはもう関係ない。お前はすでに妻を娶った身だ。昔の恋人のことは忘れろ」
「関係ないわけないでしょう!? リリアーヌは私の最愛だ! 戻ってくるなら今度こそは……」
「今度こそだと!? まさかビアンカがいるのにリリアーヌ王女殿下を妻にしようなどとは考えておるまいな?」
鋭い眼光で睨まれ、私は一瞬言葉に詰まった。
確かに妻がいる身で昔の恋人の話を出すのは不誠実かもしれないが、そんなことも言ってられないのだから仕方ないじゃないか!
「ビアンカのことは愛しておりませんし、向こうも私を愛しておりません! それよりも愛し合う者同士が夫婦になった方がいいとは思いませんか?」
「それはお前の態度が不誠実だからだろう? ビアンカは私が伯爵に何度も頭を下げてようやく迎えた嫁だぞ。分かるか、公爵が伯爵に頭を下げることの意味が? そうまでして得た妻を蔑ろにすることは許さぬ」
「それは……でも、私はリリアーヌが……」
「ビアンカは若く美しい。おまけに優秀で使用人達からも慕われている。次期公爵夫人として申し分のない存在だ。出戻りの薹の立った王女とは比べるまでもない」
「で、でも! 私はリリアーヌを諦められません!」
「次期当主ともあろう者が個人の感情で伴侶を決めようとするな! 仮にリリアーヌ王女殿下がビアンカに代わりお前の妻になったとして、アルシア家に何の利益がある? ああ、王家との繋がりなんていうものは我が家に必要ないぞ。昔ならまだしも今の時代、王家と繋がろうが何の利益もありはしないからな」
利益、利益と、父上はそればかりだ……。
そんなものよりも愛し合う者同士が夫婦になることの方がよほど重要なのに、愛を知らない父上にはそれが分からないんだ!
しかしどうしたものか……。こんな調子では父上から許可をもらうことは難しいな。
あ、そうだ! 父上が駄目ならビアンカに言えばいいんだ!
離婚は夫婦のことなのだから、何も父上に許可を貰わなくてもビアンカに承諾してもらえば問題ないはず。
さっそく離婚の話をするかとビアンカをお茶に誘った。
そういえば共にお茶を飲むのはこれが初めてだな。夫婦といえども歩み寄る気は一切ないし、向こうからも接触はしてこなかったから当然か。
同じ邸に住んでいても滅多に顔を合わせることがないせいか、妻の顔を見るのは実に久しぶりだ。
整った容姿の彼女は父が言うように確かに美しい。それにハリのある瑞々しい肌や少女から大人へ変わる時期の危うい色香は思わず目を奪われる。
こんな若く美しい妻と初夜を済まさなかったことを惜しく思ったが、それはリリアーヌへの裏切りだと思いなおした。
回りくどい言い方は苦手なので単刀直入に離婚を切り出す。
きっと妻はショックで顔を青くするだろうと思ったら、むしろ呆れた顔をされてしまった。
妻の呆れた視線にもめげず、必死にリリアーヌへの愛を語るが返ってくるのは正論ばかり。
利益だ何だのと、どうして誰も彼も真実の愛を理解しようとしないんだ!
愛を知らない愚か者とは相容れない!
しかし私はめげずに毎日必死に妻を説得した。
私が如何にリリアーヌを愛しているか、真実の愛がどれだけ素晴らしいものかを分かってもらえば、聡明な妻はきっと承諾してくれるだろう。
そしてある日ついに私の想いが妻に届き、なんと妻は自分に瑕疵がある形で離婚を承諾してくれた。
自身が石女と揶揄されることも厭わず身を引くだなんて、私の妻はなんといじらしいのか!
慰謝料は大分とられたが、それくらい公爵家の資産をもってすれば痛くもない。
ああ、しかし、こんな健気な女性だと分かっていれば一度くらい閨を共にしたものの……惜しいことをしたな。
おっといけない、リリアーヌ一筋の私が他の女性を抱くなど彼女への裏切りだな。
だが……妻相手なら、まあ……。
それにリリアーヌも嫁いだということはすでに夫に抱かれているということだし……ならいいんじゃないか?
思い出作りと称して離婚前に一度だけ閨を共にしようと思ったのに、なんと妻は離婚話の翌日に邸から出ていってしまった。父上は彼女のことを「仕事が早い」と褒めていたが、こんなときまでその能力を発揮しなくてもいいじゃないか!
はあ……惜しい事をしたが諦めるしかあるまい。
それよりもリリアーヌを迎えに行くことを考えよう……。
彼女が隣国に嫁いでしまっても、私が政略のために妻を迎えていてもだ。
「父上! リリアーヌが隣国より戻ってくると聞きました!」
国の為、隣国の王に嫁いでいったリリアーヌ。
誰かの妻になってしまっても想う気持ちは変わらなかった。
そんな彼女が戻ってくるという噂を耳にし、いてもたってもいられなくなった私は父の執務室に飛び込んだ。
父はいきなり入ってきた私に訝し気な視線を向け、執務の手を止めた。
「……お前は本当に落ち着きがないな。もういい歳になったのだからいい加減年相応の振る舞いを身に着けてほしいものだ。そんなことではビアンカに愛想をつかされるぞ」
父はリリアーヌの件には一切触れず、私を責めた。
確かに落ち着きのない振る舞いだが、愛しの君が戻ってくると聞かされて大人しくしていられるわけないだろう?
「そんなことよりリリアーヌです! リリアーヌが隣国より戻ってくるというのは本当ですか!?」
「はあ……そうだが、お前にはもう関係ない。お前はすでに妻を娶った身だ。昔の恋人のことは忘れろ」
「関係ないわけないでしょう!? リリアーヌは私の最愛だ! 戻ってくるなら今度こそは……」
「今度こそだと!? まさかビアンカがいるのにリリアーヌ王女殿下を妻にしようなどとは考えておるまいな?」
鋭い眼光で睨まれ、私は一瞬言葉に詰まった。
確かに妻がいる身で昔の恋人の話を出すのは不誠実かもしれないが、そんなことも言ってられないのだから仕方ないじゃないか!
「ビアンカのことは愛しておりませんし、向こうも私を愛しておりません! それよりも愛し合う者同士が夫婦になった方がいいとは思いませんか?」
「それはお前の態度が不誠実だからだろう? ビアンカは私が伯爵に何度も頭を下げてようやく迎えた嫁だぞ。分かるか、公爵が伯爵に頭を下げることの意味が? そうまでして得た妻を蔑ろにすることは許さぬ」
「それは……でも、私はリリアーヌが……」
「ビアンカは若く美しい。おまけに優秀で使用人達からも慕われている。次期公爵夫人として申し分のない存在だ。出戻りの薹の立った王女とは比べるまでもない」
「で、でも! 私はリリアーヌを諦められません!」
「次期当主ともあろう者が個人の感情で伴侶を決めようとするな! 仮にリリアーヌ王女殿下がビアンカに代わりお前の妻になったとして、アルシア家に何の利益がある? ああ、王家との繋がりなんていうものは我が家に必要ないぞ。昔ならまだしも今の時代、王家と繋がろうが何の利益もありはしないからな」
利益、利益と、父上はそればかりだ……。
そんなものよりも愛し合う者同士が夫婦になることの方がよほど重要なのに、愛を知らない父上にはそれが分からないんだ!
しかしどうしたものか……。こんな調子では父上から許可をもらうことは難しいな。
あ、そうだ! 父上が駄目ならビアンカに言えばいいんだ!
離婚は夫婦のことなのだから、何も父上に許可を貰わなくてもビアンカに承諾してもらえば問題ないはず。
さっそく離婚の話をするかとビアンカをお茶に誘った。
そういえば共にお茶を飲むのはこれが初めてだな。夫婦といえども歩み寄る気は一切ないし、向こうからも接触はしてこなかったから当然か。
同じ邸に住んでいても滅多に顔を合わせることがないせいか、妻の顔を見るのは実に久しぶりだ。
整った容姿の彼女は父が言うように確かに美しい。それにハリのある瑞々しい肌や少女から大人へ変わる時期の危うい色香は思わず目を奪われる。
こんな若く美しい妻と初夜を済まさなかったことを惜しく思ったが、それはリリアーヌへの裏切りだと思いなおした。
回りくどい言い方は苦手なので単刀直入に離婚を切り出す。
きっと妻はショックで顔を青くするだろうと思ったら、むしろ呆れた顔をされてしまった。
妻の呆れた視線にもめげず、必死にリリアーヌへの愛を語るが返ってくるのは正論ばかり。
利益だ何だのと、どうして誰も彼も真実の愛を理解しようとしないんだ!
愛を知らない愚か者とは相容れない!
しかし私はめげずに毎日必死に妻を説得した。
私が如何にリリアーヌを愛しているか、真実の愛がどれだけ素晴らしいものかを分かってもらえば、聡明な妻はきっと承諾してくれるだろう。
そしてある日ついに私の想いが妻に届き、なんと妻は自分に瑕疵がある形で離婚を承諾してくれた。
自身が石女と揶揄されることも厭わず身を引くだなんて、私の妻はなんといじらしいのか!
慰謝料は大分とられたが、それくらい公爵家の資産をもってすれば痛くもない。
ああ、しかし、こんな健気な女性だと分かっていれば一度くらい閨を共にしたものの……惜しいことをしたな。
おっといけない、リリアーヌ一筋の私が他の女性を抱くなど彼女への裏切りだな。
だが……妻相手なら、まあ……。
それにリリアーヌも嫁いだということはすでに夫に抱かれているということだし……ならいいんじゃないか?
思い出作りと称して離婚前に一度だけ閨を共にしようと思ったのに、なんと妻は離婚話の翌日に邸から出ていってしまった。父上は彼女のことを「仕事が早い」と褒めていたが、こんなときまでその能力を発揮しなくてもいいじゃないか!
はあ……惜しい事をしたが諦めるしかあるまい。
それよりもリリアーヌを迎えに行くことを考えよう……。
あなたにおすすめの小説
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。
クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」
平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。
セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。
結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。
夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。
セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。
夫には愛人がいた。
愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される…
誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私のもとに王太子殿下が迎えに来ました 〜三年間冷遇された妻、今は毎日名前を呼ばれています〜
まさき
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
夫に名前を呼ばれたことは、一度もなかった。
社交の場ではただ隣に立つだけ。
屋敷では「妻」としてすら扱われない。
それでも、いつかは振り向いてもらえると信じていた。
――けれど、その期待はあっさりと壊れる。
夫が愛人を伴って帰宅した、その翌朝。
私は離縁状を残し、静かに屋敷を出た。
引き止める者は、誰もいない。
これで、すべて終わったはずだった――
けれどその日、私のもとに現れたのは王太子殿下。
「やっと手放してくれたか。三年も待たされました」
幼い頃から、ただ一人。
私の名前を呼び続けてくれた人。
「――アリシア」
その一言で、凍りついていた心がほどけていく。
一方、私を軽んじ続けた元夫は、
“失ってはいけないもの”を手放したことに、まだ気づいていない。
これは、三年間名前を呼ばれなかった私――アリシアが、
本当の居場所と愛を取り戻す物語。