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また馬鹿な事を言っている
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「ジェシカ……大丈夫か?」
「マクス……。さっきの……あれは何? いったい何だったの……?」
花嫁候補を二人迎え入れたバーティ侯爵家。
その内の一人が女装した中年男だったことにショックを受けた当主の愛人は寝込んでしまった。
「いや……僕にも何がなんだか……」
当主であるマクシミリアン・フォン・バーティも先ほど起きた状況が上手く呑み込めないでいた。子爵家から花嫁候補が二人来るというのでてっきり姉妹が来るのかと思いきや、片方はオッサンだった。絶対に姉妹ではないことは分かる。というかアレは子爵家当主本人だった。
改めて状況を整理してみても訳が分からない。
何でこんなことになっているんだと頭を抱えるばかりだ。
「貴族の小娘が来るって言っていたのに……小娘どころか中年の親父じゃない! どういうことよ!?」
「い、いや……ちゃんと貴族令嬢も来ていたぞ?」
「そうだけど……あんなの連れて平然としている時点でまともな女じゃないわよ! あんなのが邸の中をうろついているなんて信じられない……。早く追い出してよ!」
「そ、そうだな……そうしよう。分かった、すぐにでも追い出すから」
そこまで頭の回転がよろしくない侯爵は愛人の発言を聞いて「そうだ、追い出せばいいんだ!」と簡単に考えた。王命で定められた相手を追い出すことは国王の命令に背くことだと気づかない。
そうと決まれば護衛騎士あたりに力づくで邸の外へと出してもらえばいい、と侯爵は命令を下すべく家令を呼びつけた。
「……お呼びでしょうか、旦那様」
「おい、今すぐあの二人を邸から追い出せ! 護衛にでも命じて荷物事外に放り出してやればいい」
顔色の悪い家令は主人の頭の悪い発言に眩暈を起こしそうになった。
「……旦那様、お言葉ですがあのお二人は“王命”でここに来ております。それを追い出すという事は王の御意思に逆らうことになりますがよろしいのですか?」
そこで侯爵はハッと気づいた。そうだ、これは王命だったと。
「そうだったな……。うう……こんなことならばヘブンズ伯爵の話になど乗らなければよかった……! あの老いぼれめ!」
ヘブンズ伯爵はバーティ侯爵の遠縁にあたる。
そこまで交流の無かったはずのヘブンズ伯爵がいきなりバーティ侯爵を訪ねてきて、今回の話を持ち掛けてきたのだ。
「なにが『貴方の真実の愛を成就させるために“お飾りの妻”を用意しましょう』だ! ああ、もう……! 一言文句を言ってやらねば気が済まない!』
「はあ……左様でございますね」
改めて聞くと何故それで食いついたのか疑問に思うほど胡散臭い言葉だ。
あの時家令は一応主人を止めはしたのだが、まあ案の定聞く耳を持たなかったのでそれ以上強くは言わなかったが……。
「すぐにヘブンズ伯爵家へと向かうぞ! 馬車の準備をしろ!」
「え? 今からですとあちらに着くのは夕方になってしまいますよ?」
「うっ……それもそうだな。分かった、それは明日にする」
「その方がよろしいかと思われます」
「は? ちょっと待って! それじゃあいつらはこのままこの邸にいるってこと!?」
侯爵と家令の会話が終わったことにジェシカは金切り声をあげた。
「す、すまないジェシカ……。だが、王命に逆らうわけにはいかないんだ。分かってくれるだろう?」
「ふざけないで! 邸にあんな奴らがうろついているってだけで耐えられないわよ! どうにかしてよ!」
「どうにかって言われても……」
情けなく助けを求めるかのようにチラチラとこちらを見てくる侯爵に家令は心底呆れてしまった。三十路を超えた男、しかも貴族家当主が愛人のヒステリーくらい対処できなくてどうするのかと。
「あの、でしたらジェシカ様は別邸に移られたらいかがですか? そちらでしたらあの方達と顔を会わせることもないでしょうし……」
「はあ? なんでアタシがそんな逃げるような真似をしなくちゃいけないのよ! おかしいじゃない!!」
助け舟を出した家令だが、その提案はジェシカの怒りの炎に油を注ぐ結果となった。その甲高い声に男二人は耳を塞ぎたくなる。
「でしたらあの方達を別邸にご案内するように致しますか……?」
「はあ!? あの別邸は亡き母上が大切にしていた思い出の場所だぞ? そんな場所にあんな奴らを入れたら思い出が汚れてしまうだろう!」
知らねえよ! と、家令は思わず主人相手に暴言を吐きかけた。
お前の愛人が我儘言ったからこっちは対処してんだよ、と思うままに言ってしまいたい衝動に駆られる。
「……あ、そうだ! なら、あいつらが自分で出て行きたいと思うようにすればいい。それならこちらが追い出したことにはならない!」
「まあ! 素敵よ、マクス! そうね、あいつらが出て行けばいいのよね!」
「そうだろう? 我ながら冴えているな。よし、そうと決まればすぐに行動に移せ!」
無駄にはしゃぐ三十路二人を家令は冷めた目で眺めていた。
どう考えてもそれは冴えている案ではないと断定できる。
「……旦那様、行動に移せとはどういう意味で?」
「だから、あいつらが出て行きたくなるように嫌がらせをしろと言っているんだ! ひもじく惨めな思いを味合わせてやれば耐えられなくなって出て行くに違いないからな!」
家令は内心「また馬鹿な事を言っているな……」と呆れた。
力づくで追い出すことも、嫌がらせをして出て行ってもらうことも同じだろうと何故分からないのか。どちらもこちらが“王命”で迎え入れた令嬢に悪意を持って接したことに変わりはない。一人令嬢じゃないのがいるけど。いずれにしても“王命”に背くことになるのに……この主人はどうしてそんな簡単なことも分からないのだろう。
「マクス……。さっきの……あれは何? いったい何だったの……?」
花嫁候補を二人迎え入れたバーティ侯爵家。
その内の一人が女装した中年男だったことにショックを受けた当主の愛人は寝込んでしまった。
「いや……僕にも何がなんだか……」
当主であるマクシミリアン・フォン・バーティも先ほど起きた状況が上手く呑み込めないでいた。子爵家から花嫁候補が二人来るというのでてっきり姉妹が来るのかと思いきや、片方はオッサンだった。絶対に姉妹ではないことは分かる。というかアレは子爵家当主本人だった。
改めて状況を整理してみても訳が分からない。
何でこんなことになっているんだと頭を抱えるばかりだ。
「貴族の小娘が来るって言っていたのに……小娘どころか中年の親父じゃない! どういうことよ!?」
「い、いや……ちゃんと貴族令嬢も来ていたぞ?」
「そうだけど……あんなの連れて平然としている時点でまともな女じゃないわよ! あんなのが邸の中をうろついているなんて信じられない……。早く追い出してよ!」
「そ、そうだな……そうしよう。分かった、すぐにでも追い出すから」
そこまで頭の回転がよろしくない侯爵は愛人の発言を聞いて「そうだ、追い出せばいいんだ!」と簡単に考えた。王命で定められた相手を追い出すことは国王の命令に背くことだと気づかない。
そうと決まれば護衛騎士あたりに力づくで邸の外へと出してもらえばいい、と侯爵は命令を下すべく家令を呼びつけた。
「……お呼びでしょうか、旦那様」
「おい、今すぐあの二人を邸から追い出せ! 護衛にでも命じて荷物事外に放り出してやればいい」
顔色の悪い家令は主人の頭の悪い発言に眩暈を起こしそうになった。
「……旦那様、お言葉ですがあのお二人は“王命”でここに来ております。それを追い出すという事は王の御意思に逆らうことになりますがよろしいのですか?」
そこで侯爵はハッと気づいた。そうだ、これは王命だったと。
「そうだったな……。うう……こんなことならばヘブンズ伯爵の話になど乗らなければよかった……! あの老いぼれめ!」
ヘブンズ伯爵はバーティ侯爵の遠縁にあたる。
そこまで交流の無かったはずのヘブンズ伯爵がいきなりバーティ侯爵を訪ねてきて、今回の話を持ち掛けてきたのだ。
「なにが『貴方の真実の愛を成就させるために“お飾りの妻”を用意しましょう』だ! ああ、もう……! 一言文句を言ってやらねば気が済まない!』
「はあ……左様でございますね」
改めて聞くと何故それで食いついたのか疑問に思うほど胡散臭い言葉だ。
あの時家令は一応主人を止めはしたのだが、まあ案の定聞く耳を持たなかったのでそれ以上強くは言わなかったが……。
「すぐにヘブンズ伯爵家へと向かうぞ! 馬車の準備をしろ!」
「え? 今からですとあちらに着くのは夕方になってしまいますよ?」
「うっ……それもそうだな。分かった、それは明日にする」
「その方がよろしいかと思われます」
「は? ちょっと待って! それじゃあいつらはこのままこの邸にいるってこと!?」
侯爵と家令の会話が終わったことにジェシカは金切り声をあげた。
「す、すまないジェシカ……。だが、王命に逆らうわけにはいかないんだ。分かってくれるだろう?」
「ふざけないで! 邸にあんな奴らがうろついているってだけで耐えられないわよ! どうにかしてよ!」
「どうにかって言われても……」
情けなく助けを求めるかのようにチラチラとこちらを見てくる侯爵に家令は心底呆れてしまった。三十路を超えた男、しかも貴族家当主が愛人のヒステリーくらい対処できなくてどうするのかと。
「あの、でしたらジェシカ様は別邸に移られたらいかがですか? そちらでしたらあの方達と顔を会わせることもないでしょうし……」
「はあ? なんでアタシがそんな逃げるような真似をしなくちゃいけないのよ! おかしいじゃない!!」
助け舟を出した家令だが、その提案はジェシカの怒りの炎に油を注ぐ結果となった。その甲高い声に男二人は耳を塞ぎたくなる。
「でしたらあの方達を別邸にご案内するように致しますか……?」
「はあ!? あの別邸は亡き母上が大切にしていた思い出の場所だぞ? そんな場所にあんな奴らを入れたら思い出が汚れてしまうだろう!」
知らねえよ! と、家令は思わず主人相手に暴言を吐きかけた。
お前の愛人が我儘言ったからこっちは対処してんだよ、と思うままに言ってしまいたい衝動に駆られる。
「……あ、そうだ! なら、あいつらが自分で出て行きたいと思うようにすればいい。それならこちらが追い出したことにはならない!」
「まあ! 素敵よ、マクス! そうね、あいつらが出て行けばいいのよね!」
「そうだろう? 我ながら冴えているな。よし、そうと決まればすぐに行動に移せ!」
無駄にはしゃぐ三十路二人を家令は冷めた目で眺めていた。
どう考えてもそれは冴えている案ではないと断定できる。
「……旦那様、行動に移せとはどういう意味で?」
「だから、あいつらが出て行きたくなるように嫌がらせをしろと言っているんだ! ひもじく惨めな思いを味合わせてやれば耐えられなくなって出て行くに違いないからな!」
家令は内心「また馬鹿な事を言っているな……」と呆れた。
力づくで追い出すことも、嫌がらせをして出て行ってもらうことも同じだろうと何故分からないのか。どちらもこちらが“王命”で迎え入れた令嬢に悪意を持って接したことに変わりはない。一人令嬢じゃないのがいるけど。いずれにしても“王命”に背くことになるのに……この主人はどうしてそんな簡単なことも分からないのだろう。
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