理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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家令の忠告

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「確認なのですが、あの方々がなのですよね? 王命で定められたという……」

 メイド長の質問に家令は首を縦に振る。
 それを見て彼女は「うわぁ……」と驚愕の表情を見せた。

「あのご令嬢はともかくとして……女装した中年男性も花嫁候補? 国王陛下は乱心されたのですか……? それとも旦那様に対する嫌がらせでしょうか……」

 改めて聞くと物凄い状況だ。その場にいた他のメイド達も疲れた顔で首を傾げていた。

「私にも何が何だか分かりません……。ただ、はっきりと言えることは今後の身の振り方を考えねばいけないということです」

「へ? 今後の身の振り方?」

「はい。花嫁候補がどう見ても危険人物なのはともかくとして、王命で定められたからには旦那様がどちらかを妻に迎えねばならないということです。つまり、長年不在だった女主人がこの邸に入るということ。これがどういう意味か分かりますか?」

「いや……どういう意味かの前に、旦那様が女装中年男を妻に迎える選択肢があると思っているんですか!?」

「普通に考えればあの年若いお嬢様を選ぶでしょうけど、そうなると旦那様はジェシカ様と縁を切ることになる。でも、それはしないでしょう。となると必然的にあの中年男性を妻に迎えることになるかと……」

「いやいやいや……流石にそれはないでしょう!? 旦那様のことだからあのお二人のどちらも選ばないと思いますよ……。今頃あのお二人を追い出せと騒いでいますって」

「ああ……うん、もう騒いでいます。でもね、それをすると王命に逆らうことになり、罰として爵位没収されることになります。そうなれば旦那様は平民の身分に落とされ路頭に迷う事になるでしょう」

「うわ……詰んでいますね。ええっと……それなら、旦那様はあのお嬢様を妻に迎えてジェシカ様と縁を切るか、あの女装中年男を妻に迎えてジェシカ様との関係を続けるか、どちらも拒んで国王陛下に爵位を没収されるかの三択しかないということですか?」

 家令が頷くとメイド達は引きつった顔で黙った。

「そのどれを選んでも私達はは受けられません。家政に関しての教育を受けた貴族令嬢ならば私達の給金が相場よりも多いとすぐにわかるでしょう。下手をすると今まで多く貰っていた分を返還するように命じられる可能性もあります」

 家令の言葉に一同は顔を青褪めさせる。
 ここにいる者は皆金目当てで働いている者ばかりなので、今後それが貰えないどころか返せと言われるのは非常に困る。

「そんな……。あの人達が来たせいで……」

「それは違います。遅かれ早かれ旦那様は貴族の妻を迎える必要があった。それが今だというわけです。間違っても腹いせにお客人達に対して嫌がらせをしようと考えないように」

「え? なんであの人達の肩を持つんです……?」

「肩を持っているわけではありません。下手に刺激したら不味い類の人種だと言っているのです。どういう経緯があったかは知りませんけど、女装した中年男を平気で“花嫁候補です”と言ってしまえるような女性がまともだと思いますか? 絶対に敵に回したらいけない類の人間でしょう、あれは」

 アリッサ達が来なければ今まで通りでいられたのに……と不満を零すメイドを家令は諫めた。下手に刺激して最悪な結果になるなど冗談じゃないと。

「欲をかきすぎると碌な事になりません。旦那様はあの二人に嫌がらせをしろとおっしゃっておりますが、一切聞かないように。王命で定められた婚約者候補を害せば王家に仇なすも同然です。処罰を受けたくはないでしょう?」

 家令の言葉にメイド達は青い顔で頷いた。
 アリッサ達が来なければ……という思いはあるが、それ以上に王家から処罰を受けるなど冗談ではない。

「ですが、旦那様の命令に背いてよろしいのですか?」

「お頭の弱い旦那様など、黙ってハイハイと頷いていればそれで済みます」

 主人を馬鹿にするような言葉だが、メイド達は「それもそうですね……」と顔を見合わせて納得した。これだけでも侯爵が使用人からこれっぽっちも尊敬されていないことが分かる。

「とにかく決してお客人二人に危害を加えようとしないこと。何かあればすぐに私に相談してください」

「はい……分かりました」

 こうして家令が釘をさすことにより、アリッサ達が使用人から嫌がらせを受けることはなくなった。彼の勘は正しく、これで倍返しが基本のアリッサから報復を受けずに済んだことになる。彼がこの時の自分の勘が正しかったと知るのは、これよりずっと後のことだった。
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