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わらびもち

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アリッサの価値

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「違法薬物を栽培? 侯爵家が? 馬鹿な! 証拠はあるのですか!?」

「我が孫のアリッサが直接現地でを目にしたそうです。一昔前に流行った“堕落の近道”とかいうふざけた名前の薬物。それの原材料となる葉がバーティ家の領地で大量に栽培されていたらしいですよ」

 その名を聞いて国王の顔が真っ青になる。
 安価で手に入るそれは貴族のみならず平民の間でも瞬く間に流行り、数えきれないほどの中毒者を出した。廃人になる者も多く、中には王族もいたことから各国ですぐさまそれの販売・製造を禁じ、関わった者を厳罰に処した。

 国内でそれを流通させないように目を光らせていたはずだ。
 少なくともその薬物が国内で販売されていたといった報告はない。
 それがよりにもよって高位貴族の領地で原材料が販売されていたなどとても信じられなかった。

「嘘だ……そんな、国内でその薬物が出回っているという報告はあがっていなかったぞ!?」

「そうですか……なら、おそらく原材料をこの国で栽培し、製造や販売は別の国で行われているのかもしれませんね。アリッサから領地にいる民は異国の民のようだったとの報告があがっておりますし」

「は!? ちょっと待ってくれ、領民が異国の民? どういうことだ!?」

「それは説明するより直接現地に兵士を派遣した方がよろしいでしょう。アリッサの報告によると領民と思しき人々の服や装飾品、話し方や生活様式を見てそう思ったそうですから。もしかすると間違っているかもしれません」

「いや、待ってくれ、どうしてフロンティア子爵令嬢はそんなことまで詳しいのだ!? 何故、栽培されていた物が違法薬物だと見ただけで分かる? それに領民が異国の民だと何故分かる!?」

「アリッサには高等な教育を施しておりますので。あの子は頭が良いし、記憶力もいい。大陸中の言語も話せますし、領地経営学も政治も学んでおります。いつだったか皇帝陛下より『いつでも皇家に輿入れできそうだな!』と冗談を追われたこともありますな」

 それを聞いた途端喉がヒュッと鳴った。
 シーグラス翁は冗談だと言っているが、フロンティア子爵令嬢は皇帝からそのような称賛を受けるほどの存在だということ。皇帝からそのような言葉を受ける令嬢なんて片手で数えるほどだろう。それだけの価値がある存在なのだ、フロンティア子爵令嬢は。改めてそんな価値ある女性にとんでもない扱いをしてしまった、と頭を抱える。

「フロンティア子爵令嬢を疑うつもりはこれっぽっちもないが、それでも信じられん……。領地にそんなものが栽培されていたらすぐに気づくはずだろう!?」

「いえ、領主はもうずっと領地の視察をしていないようですよ。視察の目が無いと分かればもうやりたい放題ですよね」

「は…………? 侯爵は領地の視察をしていないのか……?」

「もう十年近く一切視察をしていないようです。それでも財政が破綻せず存続しているのですから不思議なものですな」

 国王は侯爵のあまりにもお粗末な領主ぶりに絶句した。
 領主とは領地の監督を任された身であるのに、それを長年放棄していたなどとんでもない。

「ヘブンズ伯爵! 其方はバーティ侯爵の親戚だったな? まさか其方もこのことを知っていたのか!?」

「いえ、それは違います! 儂はバーティ家がそんなことになっていたなど少しも知りませんでした!」

「それは本当か!? 知っていてわざとフロンティア子爵令嬢との婚約を勧めたのではなかろうな?」

「断じてそれはありません! そんな犯罪者だと知っていれば関りもしませんでした!」

 それを聞いて国王は少しだけ安堵した。
 もし知ったうえで婚約を勧めていたとしたらとんでもない。皇家の血を引く姫を犯罪者のもとへ嫁がせるよう画策したことになり、その罪はこの皺首ひとつでは贖えそうもない。

「そういうわけですので、アリッサはこのまま儂らが保護します。、巻き込まれてはたまりませんからな。ああ、ついでに“ヴィクトリア”も回収するとしますか」

 “ヴィクトリア”の名が出ると、皇子や執事服の青年がたまらず吹き出した。
 しかしすぐに澄ました表情に戻るが、必死に笑いをこらえているようで小刻みに身を震わせている。

 その反応に彼等はフロンティア子爵が女装して”ヴィクトリア”と名乗らされていることまで知っているのだと分かった。身内がそんな目に遭っても笑うだけで済むのはどうかと思うが。

「婚約が成されておらず僥倖です。もし婚約が成立していたらアリッサの名に傷がつきますからな。犯罪者と婚約していたと」

 シーグラス翁の発言に心の中で同意した。
 そんなことになれば帝国との戦待ったなしだ。帝国皇家の血を引く姫に対するとんでもない侮辱。喧嘩を売っているとみなされて当然だろう。

 改めて思う。婚約が成立していない状態でよかったと。
 フロンティア子爵令嬢が妙な条件を突きつけなければとっくに婚約が成立していた。

 あの時彼女の提案を受け入れたことが、自分にとって唯一の正しい選択だった。

「これにこりましたら過分なを出さぬことです。過ぎたる欲は身を滅ぼしますからね。二つの爵位は諦め、一つだけで我慢することです」

 自分の浅はかな企みまで知られているのか……と国王は情けなく肩を落とした。
 二つの爵位とはバーティ侯爵とヘブンズ伯爵の爵位のことだろう。一つだけで、とは……つまりバーティ侯爵の爵位だけで我慢しろということか。

 しかし、もう自分は王の地位にはいられない。それに伴い議会も一旦解散させることとなる。ならばもう、爵位をいくつ没収したところで何の意味も無い。

「ああ、そうそう。うっかりしておりましたが、こちらの“トム”殿が陛下にお頼み申し上げたき儀があるそうです。先にそちらを済ませておきましょうか」

 突然現れた異母弟の頼み事……? 
 嫌な予感がするがこの場でそれを聞かないという選択肢はない。

 しかもということは、その後今後の賠償云々についての話し合いをするのだろう。
 ああ、考えるだけで胃が痛い……。

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