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最後の決断
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「領民がいつのまにか異国の民に変わっていたらしいですね。どうしてそうなったのか、いつ頃そうなったかも不明だとか……理解出来ませんな」
「しかも侯爵自身はこの件について関与していないと言うではありませんか。そんなことが有り得ます?」
「黒幕は侯爵が長年囲っていた平民の愛人とも聞きましたぞ。しかもその愛人は未だに見つからないとか……」
前代未聞の事件に皆眉を顰めた。
こんなことが本当に起こりえるのか? と首を傾げたくなるような珍事件だ。
少なくとも建国以来このような事件が起こったことは一度も無い。
「これについてはどう対処されるおつもりですか、国王陛下?」
一人が王に向かって質問すると、一同の視線は一斉に王の方へと向かう。
普段であれば臣下の視線を一身に浴びることなど何とも思わないのだが、この時はまるで針の筵に座らせているような恐怖を感じた。
「……バーティ侯爵に全責任をとってもらう。いくら知らぬ存ぜぬを繰り返そうとも、本当にこの件に関わっていなくとも、領主である以上責任からは逃れられぬ」
「賢明なご判断かと。甘い判断を下されては他の貴族に示しがつきませんからな」
おそらくは王として最後になるであろう決断は各貴族家が納得するようなものであった。そのことに安堵し、王はそっと息を吐く。
「ちなみにどのように責任をとらせるおつもりで?」
「処刑台の上で首をはねるか、毒杯を呑ませるかのどちらかだが……後者の方がよいだろう」
「……同感です。この件、多くの者に知られぬうちに幕を下ろすべきです」
罪の大きさに対して罰が生温いように思えるが、その事について誰も異論を唱えなかった。というのも、この件は大衆に知られる前に幕を下ろした方がいいと判断されたからだ。もし処刑台で首をはねるとなったら大衆に事件を知られてしまう。それは不味いので毒杯にて密やかに始末する方を選んだ。
調べていくうちにこの件は深入りすべきではないと分かった。
真相は結局分からずじまいだが、領地にいたという異国の民が何処の国の者かは判明した。それが中々に厄介な国だということも。
相手の国は好戦的かつ優れた軍事力を保有しており、戦によって領土を広げてきた歴史がある。しかも相手は難癖をつけて開戦まで持ち込みたいような雰囲気まで醸し出していた。
戦になれば間違いなくこの国は負ける。しかも今は帝国から許しを得ようとしている最中だ。こんな状態では同盟国も力を貸してくれるとは言い難い。最悪な状況が重なった結果、もうこの件について深入りしないことに決めた。
領地の責任者であるバーティ侯爵に全ての責任をとってもらい、事件の幕を閉じること。それが一番最適で、国と民の安全を守る方法だと判断した。
「これを機に国内の貴族家を改めた方がよろしいかと。バーティ侯爵と同じように貴族の責務を果たさぬ当主がいるやもしれません。そういう愚者が所有する領地で似たようなことが起きている可能性もありますから」
「そうですな。それと定期的に王宮から監査官を派遣すべきかと。領主に一任しておくと再びこのような事態を招くとも限りませんので」
これは暗に「放任主義のせいでこうなった」と王家のやり方を責めていた。
以前はこういった監査目的の視察が王家より派遣されていたのだが、先代の頃より廃止されていた。公には各家の当主を信頼して、と耳障りのいいことを言っていたが真相は違う。単に人手と金がかかるからというしょうもない理由。
先代である父親の自己中心的な所業の皺寄せを受けているという部分は哀れであるが、私欲のために立場の弱いアリッサを犠牲にしようとした罪は消えない。そしてそれが原因で国王は全てを失おうとしている。臣下からの信頼も、最高権力者の座も、後継者に自分の息子を据える未来も、何もかもを。
「しかも侯爵自身はこの件について関与していないと言うではありませんか。そんなことが有り得ます?」
「黒幕は侯爵が長年囲っていた平民の愛人とも聞きましたぞ。しかもその愛人は未だに見つからないとか……」
前代未聞の事件に皆眉を顰めた。
こんなことが本当に起こりえるのか? と首を傾げたくなるような珍事件だ。
少なくとも建国以来このような事件が起こったことは一度も無い。
「これについてはどう対処されるおつもりですか、国王陛下?」
一人が王に向かって質問すると、一同の視線は一斉に王の方へと向かう。
普段であれば臣下の視線を一身に浴びることなど何とも思わないのだが、この時はまるで針の筵に座らせているような恐怖を感じた。
「……バーティ侯爵に全責任をとってもらう。いくら知らぬ存ぜぬを繰り返そうとも、本当にこの件に関わっていなくとも、領主である以上責任からは逃れられぬ」
「賢明なご判断かと。甘い判断を下されては他の貴族に示しがつきませんからな」
おそらくは王として最後になるであろう決断は各貴族家が納得するようなものであった。そのことに安堵し、王はそっと息を吐く。
「ちなみにどのように責任をとらせるおつもりで?」
「処刑台の上で首をはねるか、毒杯を呑ませるかのどちらかだが……後者の方がよいだろう」
「……同感です。この件、多くの者に知られぬうちに幕を下ろすべきです」
罪の大きさに対して罰が生温いように思えるが、その事について誰も異論を唱えなかった。というのも、この件は大衆に知られる前に幕を下ろした方がいいと判断されたからだ。もし処刑台で首をはねるとなったら大衆に事件を知られてしまう。それは不味いので毒杯にて密やかに始末する方を選んだ。
調べていくうちにこの件は深入りすべきではないと分かった。
真相は結局分からずじまいだが、領地にいたという異国の民が何処の国の者かは判明した。それが中々に厄介な国だということも。
相手の国は好戦的かつ優れた軍事力を保有しており、戦によって領土を広げてきた歴史がある。しかも相手は難癖をつけて開戦まで持ち込みたいような雰囲気まで醸し出していた。
戦になれば間違いなくこの国は負ける。しかも今は帝国から許しを得ようとしている最中だ。こんな状態では同盟国も力を貸してくれるとは言い難い。最悪な状況が重なった結果、もうこの件について深入りしないことに決めた。
領地の責任者であるバーティ侯爵に全ての責任をとってもらい、事件の幕を閉じること。それが一番最適で、国と民の安全を守る方法だと判断した。
「これを機に国内の貴族家を改めた方がよろしいかと。バーティ侯爵と同じように貴族の責務を果たさぬ当主がいるやもしれません。そういう愚者が所有する領地で似たようなことが起きている可能性もありますから」
「そうですな。それと定期的に王宮から監査官を派遣すべきかと。領主に一任しておくと再びこのような事態を招くとも限りませんので」
これは暗に「放任主義のせいでこうなった」と王家のやり方を責めていた。
以前はこういった監査目的の視察が王家より派遣されていたのだが、先代の頃より廃止されていた。公には各家の当主を信頼して、と耳障りのいいことを言っていたが真相は違う。単に人手と金がかかるからというしょうもない理由。
先代である父親の自己中心的な所業の皺寄せを受けているという部分は哀れであるが、私欲のために立場の弱いアリッサを犠牲にしようとした罪は消えない。そしてそれが原因で国王は全てを失おうとしている。臣下からの信頼も、最高権力者の座も、後継者に自分の息子を据える未来も、何もかもを。
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