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残った傷
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「……え? ここは…………」
気づけばジュリアーナは王宮にある私室の中にいた。
慣れ親しんだ部屋の光景に自然と心が落ち着く。
「失礼いたします。お茶の用意が整いました」
声のする方へと顔を向けると、王宮のお仕着せを身に纏った侍女がワゴンを押してこちらにやってくるのが見えた。ワゴンの上には上質な茶器と様々な菓子を盛ったケーキスタンドが載っている。
「ねえ……マーサは? マーサはどこにいるの?」
お茶の用意を始める侍女にジュリアーナはマーサの所在を尋ねた。
もしかしたら先ほどまでの光景は自分が見ていた白昼夢かもしれない。
マーサが自分の命と引き換えにジュリアーナを過去に飛ばしたなんて、そんな荒唐無稽なことが現実に起こるわけがない。
そう、きっとあれは夢だ。マーサが自分の傍にいないだなんてことがあるはずない。
またあの優しい笑みで、優しい声で名を呼んでくれる。
ジュリアーナはそうであってほしい、と切望したが現実はどこまでも残酷だった。
「おいたわしい……姫様は未だマーサ様がお亡くなりになった現実を受け入れらぬようですね。無理もありません、姫様はマーサ様を頼りにしていらっしゃいましたもの」
悲し気に眉を寄せる侍女の言葉にジュリアーナは頭をガツンと殴られたような心地を覚えた。
「マーサが亡くなった……? 嘘よ……そんな……」
「……いえ、悲しいですが本当でございます。流行り病により先日儚くなられて葬儀まで済んだことをお忘れですか?」
「流行り病ですって……?」
マーサが流行り病で亡くなったという発言にジュリアーナはひどく驚いた。
ジュリアーナが知る限りマーサは風邪ひとつ引いたことがなく、病に倒れたなどという記憶も無い。
だが侍女の言葉は嘘偽りを述べているようにも思えず、困惑していると不意に侍女が「まあ……!」と驚きの声をあげた。
「姫様、その手と首の傷はどうされたのです!?」
「え? 傷?」
侍女が慌てて手鏡を持ってきてジュリアーナの姿を映すと、確かに首と手に生々しい傷が出来ていた。まるでたった今何か固くて鋭い物で引っ掻いたような傷が……。
「すぐに手当て致しましょう! 嫁入り前のお体に傷が残っては大変です。すぐに侍医を呼んで参りますのでしばしお待ちください」
そう言って侍女は急いで部屋を後にした。
残されたジュリアーナは茫然となりながらも首元の生々しい傷を同じように傷ついた指でなぞる。
「これ……あのネックレスを外そうとした時の……」
薄っすらと血が滲む傷をなぞりながらジュリアーナはあの出来事が夢などではなく実際に起こったことだと悟る。
馬鹿な男に騙された自分をマーサが命を懸けて救ってくれたという、悪夢のような出来事が現実に起こったのだと。
「……っ!! マーサ……! マーサ……ごめん、ごめんね……わたくしのせいで……」
愚かにもあんな男を信じたばかりに大切な人を失ってしまった。
耐えがたい現実が重くのしかかり心が潰れてしまいそうだ。
どうしてあんな男の口車に乗ってしまったのだろう。
自分が騙されたりなんてしなければ、せめてもっと警戒して騎士の一人くらい連れて行けば違った。マーサを失わずに済んだかもしれないのに……。
涙が溢れて止まらない。己の愚かさが憎くてたまらない。
嗚咽を漏らし泣きじゃくっていると侍医を連れた侍女が部屋へと戻って来た。
「姫様! 大丈夫でございますか!?」
ジュリアーナが涙を零す姿を見て慌てた侍女はすぐに侍医に診察するよう頼む。
事情を知らない侍女は傷が痛む故そこまで泣いているのかと勘違いしたようだ。
侍医はジュリアーナの傷を消毒し、傷薬を塗布する。
「何かアクセサリーのようなもので肌を擦りましたか?」という医師の質問にまた涙が溢れた。
「姫様!? 傷が痛むのですか? それにしてもこのような痛々しい傷がつくとは……。まさか誰かが姫様の御身に無礼を働こうと……!?」
まさかジュリアーナ自身がそうしたなどと思いもしない侍女はよからぬ輩が姫に無礼を働こうとして出来た傷かと疑う。それに対しジュリアーナは「大丈夫、少しネックレスと引っ掛けてしまっただけよ」と首を振る。
信じたくないがあの出来事は実際にあったことなのだと傷がそれを証明している。
マーサが己の命と引き換えに過去に戻してくれたのだと。
気づけばジュリアーナは王宮にある私室の中にいた。
慣れ親しんだ部屋の光景に自然と心が落ち着く。
「失礼いたします。お茶の用意が整いました」
声のする方へと顔を向けると、王宮のお仕着せを身に纏った侍女がワゴンを押してこちらにやってくるのが見えた。ワゴンの上には上質な茶器と様々な菓子を盛ったケーキスタンドが載っている。
「ねえ……マーサは? マーサはどこにいるの?」
お茶の用意を始める侍女にジュリアーナはマーサの所在を尋ねた。
もしかしたら先ほどまでの光景は自分が見ていた白昼夢かもしれない。
マーサが自分の命と引き換えにジュリアーナを過去に飛ばしたなんて、そんな荒唐無稽なことが現実に起こるわけがない。
そう、きっとあれは夢だ。マーサが自分の傍にいないだなんてことがあるはずない。
またあの優しい笑みで、優しい声で名を呼んでくれる。
ジュリアーナはそうであってほしい、と切望したが現実はどこまでも残酷だった。
「おいたわしい……姫様は未だマーサ様がお亡くなりになった現実を受け入れらぬようですね。無理もありません、姫様はマーサ様を頼りにしていらっしゃいましたもの」
悲し気に眉を寄せる侍女の言葉にジュリアーナは頭をガツンと殴られたような心地を覚えた。
「マーサが亡くなった……? 嘘よ……そんな……」
「……いえ、悲しいですが本当でございます。流行り病により先日儚くなられて葬儀まで済んだことをお忘れですか?」
「流行り病ですって……?」
マーサが流行り病で亡くなったという発言にジュリアーナはひどく驚いた。
ジュリアーナが知る限りマーサは風邪ひとつ引いたことがなく、病に倒れたなどという記憶も無い。
だが侍女の言葉は嘘偽りを述べているようにも思えず、困惑していると不意に侍女が「まあ……!」と驚きの声をあげた。
「姫様、その手と首の傷はどうされたのです!?」
「え? 傷?」
侍女が慌てて手鏡を持ってきてジュリアーナの姿を映すと、確かに首と手に生々しい傷が出来ていた。まるでたった今何か固くて鋭い物で引っ掻いたような傷が……。
「すぐに手当て致しましょう! 嫁入り前のお体に傷が残っては大変です。すぐに侍医を呼んで参りますのでしばしお待ちください」
そう言って侍女は急いで部屋を後にした。
残されたジュリアーナは茫然となりながらも首元の生々しい傷を同じように傷ついた指でなぞる。
「これ……あのネックレスを外そうとした時の……」
薄っすらと血が滲む傷をなぞりながらジュリアーナはあの出来事が夢などではなく実際に起こったことだと悟る。
馬鹿な男に騙された自分をマーサが命を懸けて救ってくれたという、悪夢のような出来事が現実に起こったのだと。
「……っ!! マーサ……! マーサ……ごめん、ごめんね……わたくしのせいで……」
愚かにもあんな男を信じたばかりに大切な人を失ってしまった。
耐えがたい現実が重くのしかかり心が潰れてしまいそうだ。
どうしてあんな男の口車に乗ってしまったのだろう。
自分が騙されたりなんてしなければ、せめてもっと警戒して騎士の一人くらい連れて行けば違った。マーサを失わずに済んだかもしれないのに……。
涙が溢れて止まらない。己の愚かさが憎くてたまらない。
嗚咽を漏らし泣きじゃくっていると侍医を連れた侍女が部屋へと戻って来た。
「姫様! 大丈夫でございますか!?」
ジュリアーナが涙を零す姿を見て慌てた侍女はすぐに侍医に診察するよう頼む。
事情を知らない侍女は傷が痛む故そこまで泣いているのかと勘違いしたようだ。
侍医はジュリアーナの傷を消毒し、傷薬を塗布する。
「何かアクセサリーのようなもので肌を擦りましたか?」という医師の質問にまた涙が溢れた。
「姫様!? 傷が痛むのですか? それにしてもこのような痛々しい傷がつくとは……。まさか誰かが姫様の御身に無礼を働こうと……!?」
まさかジュリアーナ自身がそうしたなどと思いもしない侍女はよからぬ輩が姫に無礼を働こうとして出来た傷かと疑う。それに対しジュリアーナは「大丈夫、少しネックレスと引っ掛けてしまっただけよ」と首を振る。
信じたくないがあの出来事は実際にあったことなのだと傷がそれを証明している。
マーサが己の命と引き換えに過去に戻してくれたのだと。
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