やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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下手な誤魔化し

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「アニー……? え? どなたですか、それは?」

 驚愕した顔を装いジュリアーナが尋ねると、ダニエルは顔面蒼白のまま忙しなく目をきょろきょろと動かした。その姿が面白くてまたもや吹き出しそうになる。

「あ……その、アニーは……母、そう! 母親の名前です!」

「お母君の……? 確か先代オーガスタ辺境伯夫人は“マルグリット”というお名前でしたよね?」

 マルグリットとアニーでは一文字も掠っていない。愛称というのもかなり無理がある。
 
 ダニエルもまさかジュリアーナが母親の名を知っているとは思わなかったのだろう。
 咄嗟の言い訳が嘘だとバレたせいで顔にますます焦りの色が浮かんでいる。

「先ほどの発言から察するに、その“アニー”という方にこの邸の女主人の部屋を使用させているようですね……。女主人の部屋を使わせるということはその方とオーガスタ卿は親密な仲だと解釈してよろしいでしょうか……?」

 出来得る限りショックを受けて絶望した女の顔を装う。
 事前に知ったうえで驚いたフリをするというのは存外難しいものだな、とジュリアーナは場違いなことを心の中で呟いた。

「……っ!? 違います! そんな……貴女という婚約者がいながらそのようなことは決してございません!」

「でしたら何故女主人の部屋をその方に? もしや先ほど埃が凄いとおっしゃったのも、わたくしに別の女性が使用している女主人の部屋を見せない為に?」

「い、いや……そんな! 違います! 大丈夫です! 今すぐにでも部屋の中を案内できます!」

 もっと上手く誤魔化しなさいよ、と嘘の下手さに辟易しながら悲しそうな顔を作る。
 改めて思うがこの男は心の底から阿呆だ。こんな阿呆の稚拙な企てにしてやられた過去の自分が心底情けない。

「いえ……もう結構です。気分が悪いのでわたくしはこれで失礼します」

 食事の途中だが切り上げて椅子から立ち上がる。
 
 ダニエルは追いすがるように手を伸ばしたがジュリアーナの護衛によってそれは阻まれた。立ち去る時にさりげなくダニエルとラティーシャ夫人の様子を伺ったが、前者は顔面蒼白のまま絶句しており、後者は呆れた顔でため息をついていた。



「女主人の部屋を他所の女に宛がっていた!? なんという不誠実な方なのでしょう!」

「邸内に招き入れるような関係の女がいながら姫様に求婚するなど無礼にも程があります! 有り得ません!」

「ただでさえ無礼な言動が目立つというのに婚約中に不貞を働くなど最低です……許せません!」

 用意された客室に戻ると、それまで静かにしていた侍女達がこぞってダニエルを非難し始めた。彼女達にしてみれば仕える姫君が有り得ない侮辱を受けたのだ、とても許せるものじゃない。

 当のジュリアーナは侍女の言葉に悲し気に微笑みつつも心の中では別の事を考えていた。

(こんなに早くボロを出すなんて困るわ……。この程度じゃ婚約破棄して終わりじゃないの……)

 この滞在期間にダニエルを失脚させるを作るはずだったのに、ここで愛人の存在を暴露されては台無しだ。この程度では婚約破棄して終わりという呆気ない結果に終わってしまうではないか。

 しかも、よりにもよって侍女達もいる場で暴露したものだから誤魔化しようもない。
 ダニエルに愛人がいることを知っているのはジュリアーナと密偵達だけだ。専属の侍女達すら知らない。
 婚約者に愛人がいるということが暴露されてはそれを糾弾しないと不自然になる。
 なので仕方なくジュリアーナは婚約者に不貞を働かれてショックを受けた体を装うしかなかった。
 長引くと余計にボロを出しそうで不味いと思って中座したが、どうしたものか……と考えていると不意に部屋にノック音が鳴り響く。

 それまで怒り心頭だった侍女達がすぐに真顔となり扉の外へと向かう。

「姫様、お伝えしたいことがあるとオーガスタ家の執事が来ております」

「執事? そう……入ってもらって」

 執事が何の用だろう、と疑問に思ったが部屋へと入ってきた人物を見て驚愕した──。
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