やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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ダニエルの失言

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「ええ、の模様替えです。壁紙や家具の新調には時間がかかりますのでそろそろ進めておきたいなと」

「お、女主人の部屋の模様替えですか……? いや、それは……」

 冷や汗をかくダニエルにジュリアーナはわざと不思議そうに「どうなさいましたか?」と問いかける。

「い、いや……その、あの部屋は亡き母が使っていたままの状態にしておりまして……」

「まあ、そうなのですね……」

 驚いた顔を見せながらもジュリアーナは内心「嘘つき」とダニエルを罵った。
 亡き母が使っていた状態のままにしてあるなんて嘘だ。
 あの部屋はとっくにアニーのものとなっており、ダニエルの母親の遺品は一つも置いていない。内装は全てアニー好みの派手な物で設えてあるらしい。

 多分そうだろうなと予想はしていたが、改めてルナからその報告を受けた時は心の底から呆れてしまった。あの男はジュリアーナを本邸に迎える気が皆無なのだと。

 当主が当たり前のように当主専用の部屋を使うように、当主の妻となった女性は女主人の部屋を当たり前のように使う権利がある。代替わりするたびに内装を新調するのも当たり前の習慣だ。

 、もうとっくにダニエルの方から部屋の模様替えの話を出されているはずだ。それが未だに無いうえに、この焦った反応は彼にジュリアーナを迎える気などさらさら無いことが伺える。

 本当に、どこまでもこちらを馬鹿にしていて腹が立つ。

「オーガスタ卿はお母様の遺品をそのままにしておきたいのですか? それでしたら無理強いはよくありませんね……」

 ジュリアーナが諦めたような言葉を零すとダニエルは安堵の表情を見せる。
 しかし、次の言葉でまた焦り始めた。

「よろしければ一度見せて頂けるかしら? それによっては新調せずそのまま使用することも考えますので……」

「えっ……? い、いや……それは……」

 見られてしまえば母親の遺品でないことがバレてしまうことを恐れているのだろう。
 ルナからの報告によると今の若い女の子が好むような内装らしい。
 しかも最近購入した新品の家具まであるらしく、それを追及されたら困るはず。上手い返しも出来ないのだから。

「あ……その、埃が凄いと思いますので、また後日でもよろしいでしょうか……?」

「あら……お掃除されていないの? でしたら明日改めてでもよろしくてよ」

「明日!? いや……申し訳ございませんが、明日には難しいかと」

「まあ……そうなのですか。では、いつならよろしいので?」

「ええっと……それは今お約束できないのでまた日を改めて……」

「お掃除にそんなお時間が必要なのですか……?」

 どうして一つの部屋の掃除にそこまで時間がかかるのかと胡乱な目を向ければダニエルはだらだらと額から冷や汗を流した。常識的に考えて埃を綺麗にするだけの作業に何故そこまで日数をかけるのかと疑問を抱くのは当たり前だ。貴族家には掃除専門のメイドがいるもので、一部屋の掃除にそこまで時間をかけるというのはそれだけ彼女達が無能ということになってしまう。

「人手が足りていないのでしたらお掃除専門のメイドを派遣しましょうか……?」

 暗に「お前のところのメイド、部屋の誇りを取る作業すら出来ないの? 使えな~い! うちの優秀なメイド貸してあげようか?」と言っているのだが、頭の回転が鈍い彼は嫌味すら分かっていないようだった。相変わらず煮え切らない態度で「いえ、それは大丈夫です」と裏の意味も気づかず答えている。

「では、それはまた改めてになりますね。輿入れの日取りも模様替えが終わり次第改めて決めることに致しましょう」

「えっ? いえ、輿入れはすぐにでもして頂いたほうが……」

「え? 部屋の準備より先に輿入れを……? それですと、わたくしはどの部屋を使えばよろしいの?」

「あ、それはこちらで準備いたしますのでご安心ください」

「はい? そちらで準備? わたくしが住む部屋をわたくしが準備できないとおっしゃるの……?」

 何を馬鹿なことを、と言わんばかりに呆れた顔をしてみせた。
 ダニエルは自分の発言がおかしいことに気づいたのか「いや、その、違……」と焦りだす。

「はあ……発言をお許しください、殿下。女主人の部屋は既にのでいつでもご覧いただけます。ダニエル卿に伝えるのを失念していたようで申し訳ございません」

 心底呆れた様子のラティーシャ夫人がジュリアーナにそう告げる。
 するとダニエルの顔色が青から赤に見る見るうちに変わっていった。

「あの部屋を清掃しただと!? 叔母上、どういうことだ? どうしてそんな勝手な真似を……!」

「どうして? おかしなことをおっしゃいますのね。王女殿下をお迎えするにあたりまして邸内で清掃していない箇所があるなど恥にございます。それにのことでそこまで言われる筋合いは一切ございません」

 毅然とした態度のラティーシャ夫人に思わず拍手を送りたくなった。
 彼女の言う事はどこも間違っていない。
 客人……しかも王族を迎えるにあたって邸内に清掃が行き届いていない箇所があるなど家の恥だ。それこそ社交界で“掃除も行き届かないほど人手が足りていない”=“貧乏”と揶揄されてしまうほどの恥。オーガスタ家の恥とならないようラティーシャ夫人が配慮したことに文句を言われる筋合いは全く無いし、ダニエルが文句を言う理由は無い。

 夫人の「埃を取る程度」という発言に噛みつけばそれだけがバレてしまいかねないのだが、興奮したダニエルはそれに気づいていないようだ。ジュリアーナも真相を知っているから敢えて黙っているのだが、知らなければ何をそんなに焦っているのかと疑問を抱いたことだろう。

 そのまま黙って二人のやり取りを眺めていると、興奮して我を忘れたダニエルから爆弾発言が飛び出した。
 
「ふざけるな! 埃を取っただけなんて嘘だろう!? まさか家具も壁紙も取ってしまったんじゃないだろうな? あれは全部わざわざ隣国から取り寄せ……」

 途中で自分の失言に気がついたダニエルはハッとなり慌てて己の口を手で塞ぐ。

 だが、時すでに遅し。
 その場の空気は氷点下まで下がっていた。

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