初恋が綺麗に終わらない

わらびもち

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この馬鹿!

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「そうなのか……? 僕はビビ嬢がそう言うからてっきりそうなのかと……」

 エーミールがビビの方に顔を向けると、彼女はビクッと体を震わせた。

「わ、わたし……貴族になってまだ日が浅いから、その……勘違いしてました。憧れの方と踊れる、と聞いたから、てっきりそうなのかと……」

「日が浅い? ランカ男爵家は昔からある家なのに? 最近になって爵位を得た新興貴族というわけではないでしょう?」

「あ……私は、元々市井で暮らしていたんです。お母さんと暮らしていたんですが、流行り病で亡くなってしまって……それで男爵だっていうお父さんに引き取られて……」

「まあ……それはご愁傷様です。ということは、貴女はランカ男爵夫人の娘ではないということかしら?」

「あ、はい、そうです。私のお母さんはお父さんの愛人でしたので」

 それを聞いてベロニカは頭を抱えたくなった。

 つまり目の前の少女は平民からいきなり貴族になり、碌にマナーも身に着けていないまま社交界デビューを果たしたというわけか。

 なんて残酷なことを……。その一言に尽きる。
 ランカ男爵はどうして引き取った娘にきちんと教育を施さなかったのだろう。

 どうにかなるとでも思ったのか知らないが、浅慮にも程がある。

 そのせいでランカ男爵家は今まさに破滅の一歩を踏み出しているのだから。

「……エーミール様、今日はどうやってここまで来ましたか?」

「え? どうって……馬車で来たが……」

「そうですか、それはコンラッド家の紋付の馬車で? そしてランカ男爵令嬢とどこで合流しましたか?」

「どこでって、ビビ嬢の家まで迎えに行ったに決まっているだろう? それに馬車は我が家の紋付馬車だ。それがどうしたというんだ?」

 やっぱりこの人は何にも分かっていなかった……。

 ベロニカは頭が痛くなるのをこらえ、二人を見据えた。
 どちらが悪いのかと問えば、それはやはりエーミールなのだろう。

 彼はどうやら人としての常識だけでなく、貴族としての常識も弁えていないようだ。
 だから自分の行動がどれだけビビの立場を危うくしているのかを全く理解していない。

「……エーミール様、急ぎ邸に帰った方がよろしいかと思われます」

「それは嫌だっ! だってまだベロニカと仲直りだって済んでいないんだぞ!?」

「仲が直ることなど有り得ません。こうしてどこぞの令嬢を連れてきている時点で無理です。しかも同じ馬車に乗ってきたなんて……非常識にも程がありますわ」

「だって本人の口から直接説明してもらった方が早いだろう!? 社交界デビューだから仕方ないって……」

「まあそれは間違っていたわけですけどね。だいたい、他所の女性を優先しては駄目だと言われているにも関わらず、その女性を連れてくること自体がおかしいですわよ」

「でもっ! ビビ嬢も誤解を解きたいと……」

 エーミールから懇願するような視線を向けられ、ビビは嬉しそうな表情を見せた。
 ベロニカはそれを見て彼女はエーミールに気があるのかと悟る。

(そういえばさっき“憧れの人と踊れる”と言っていたものね。つまりは彼女にとってエーミール様がその憧れの人にあたると……)

 うんざりとしているベロニカに、ビビが意気揚々と語り始めた。

「エーミール様は悪くないんです! 私が勘違いをしてしまったから……。憧れの人と踊れるって勘違いして舞い上がっちゃって、婚約者がいると知らなくて、私……」

「はあ……。ランカ男爵令嬢はエーミール様に気があるということですのね?」

「ええっ!? い、いえ、それは、その……」

 チラチラとエーミールを見ながらビビは頬を真っ赤に染めた。
 わざとらしくあざとい行動にベロニカは呆れてしまう。

「つまり貴方がたは本日わたくしに『デビュタントだし、記念にダンスをしただけだから、怒らないでね』と言いにきたというわけですね? 敢えて言わせていただきます……馬―――――鹿っじゃないですか!? そんなくっだらない言い訳の為にわざわざ邸まで押しかけたと? もう一度言いますね、この……馬鹿共が!! そんな弁解にもなってない事を言われて『なら仕方ないね』と返す奴がどこにいるって言うんですか? ちょっとは考えて喋りなさいよ、この馬鹿っ!!」

 淑女の仮面などかなぐり捨てたベロニカのあけすけな物言いに馬鹿二人は唖然とした。
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