16 / 57
また会えた
しおりを挟む
「人生を狂わせたなんて……そんな大袈裟な。それに、男爵家の令嬢が婚約者なんて、侯爵である父上がお許しにならないだろう……?」
ここであの方の名を出すのか、とベロニカは怒りを覚えた。
散々あの方の忠告を無視しておきながら、都合のいい時だけあの方の名を伝家の宝刀の如く振りかざすなんて……。
沸き上がる怒りのまま、ベロニカは手に持つ扇子を折れんばかりに握りしめる。
いっそこの衝動のまま、目の前の軽薄な男を引っぱたいてしまおうかと思ったその時だった。
「失礼する! エーミール……貴様はここでいったい何をしているんだ!!」
厳しくも威厳のある声と、険しくも整った顔。
ベロニカが最も会いたかった人、コンラッド侯爵が扉を開けてその姿を現した。
「父上!? どうしてここに……?」
「家令からお前が見知らぬ令嬢を連れて何処かに行ったと聞いてな。行き先を告げなかったので、もしやと思い来てみたが……お前はどこまでベロニカ嬢に迷惑をかけるつもりだ!!」
雷が落ちる、という表現がぴったりなほど怒鳴る侯爵に、エーミールもビビも震え上がった。
だがベロニカだけは最愛の人に会えた嬉しさで頬を赤らめる。
そんなベロニカの反応を『怖がらせてしまった』と勘違いした侯爵は慌てて彼女に謝罪した。
「あ、すまないベロニカ嬢……怖がらせてしまったな。それにいきなり押しかけてしまい、重ね重ね申し訳ない……」
「いいえ、謝らないでくださいませ侯爵閣下。わたくしを心配してくださる閣下のお気持ち、誠に嬉しく思います」
「なんと寛容な……。本当に出来た人だ、我が愚息とは大違いだな……」
頬を染め、瞳を潤ませ、愛しい人の顔を焼き付けんとばかりに見つめるベロニカの姿を侯爵は『怖かったが気丈に振る舞う健気な娘』と盛大な勘違いをした。
「本当に申し訳ない……。後日また改めて謝罪に伺うので、今日の所はこの馬鹿を連れて失礼させてもらってもよろしいか?」
え、また会ってくれるの?
「ええ、構いません。わざわざご足労いただきありがとうございました」
ここでベロニカは決して「謝罪は結構です」とは言わなかった。
本来ならば婚約破棄をする大嫌いな男の親になど二度と会いたくないのが普通だろう。
だが、ベロニカにとって侯爵は『大嫌いな男の父親』でなく『初恋の君』なのだ。
会いたいと願ってしまう気持ちは止められない。
引きずるようにエーミールを連行する侯爵の後ろ姿をベロニカは名残惜しく眺めていた。
視界にビビが慌てた様子で彼等についていくのが見え、ふと、あの子は今後どうなるだろうと考える。
(婚約者に、とは言ったものの……どうなるかしらね……)
男爵令嬢、しかも愛人との庶子。
侯爵家嫡男のエーミールの婚約者になるには身分も血筋も足りない。
おまけにランカ男爵家は特別裕福をいうわけでもなく、領地にこれといった特色もない。
利益のない婚約を結ぶ貴族なんているのだろうか。
ベロニカとエーミールの婚約も、エーミールの一目惚れといえども互いの家に利益があったからこそ結ばれたようなものなのに。
あんな男に惚れたばかりに可哀想、と思うがそれと同時に自業自得だろうとも思ってしまう。
夜会でエーミールをダンスに誘った時はまだ婚約者がいると知らなかったようだが、ベロニカの邸を訪ねた時点で理解していたはず。
その状態でノコノコとやってきた時点で彼女は“巻き込まれただけの哀れな少女”ではない。
彼女の未来は決して明るくないだろう。でも同情はしない。
エーミールには従順な女を装っていたが、あれは明らかにこちらを見下していた。
ああ、そういえば”そんなだから捨てられるのよ!”なんてふざけた台詞も吐いていたな。
彼がダンスの誘いを受けてくれたからか、それとも馬車で迎えにきたことで勘違いしたかは知らないが、自分を選んでくれたとでも思ったのだろうか。エーミールは彼女をそういう目で見てはなさそうだが。
彼女もエーミール同様、物事を深く考えない性質なのだろう。
未だ婚約破棄の手続きが済んでいない状態の彼と二人きりになり、しかもそれを目撃されたらどうなるかを考えないのだから。
(まあ、もう会わないし別にいいわね)
元婚約者が見知らぬ女を連れて突撃してくるのは、普通に考えれば嫌だし後味が悪いものだろう。
だがベロニカにとってはそんな阿呆二人よりも、もう会えないと思っていた初恋の人に会えた喜びの方が大きい。
あの人は改めて謝罪に来ると言っていた。
その時は目一杯着飾って、綺麗な自分を見て欲しい。
早速ドレスを選ばなきゃ、と浮かれた気分で部屋へと戻るベロニカの頭からは、エーミールとビビはすっかり消え去っていた。
ここであの方の名を出すのか、とベロニカは怒りを覚えた。
散々あの方の忠告を無視しておきながら、都合のいい時だけあの方の名を伝家の宝刀の如く振りかざすなんて……。
沸き上がる怒りのまま、ベロニカは手に持つ扇子を折れんばかりに握りしめる。
いっそこの衝動のまま、目の前の軽薄な男を引っぱたいてしまおうかと思ったその時だった。
「失礼する! エーミール……貴様はここでいったい何をしているんだ!!」
厳しくも威厳のある声と、険しくも整った顔。
ベロニカが最も会いたかった人、コンラッド侯爵が扉を開けてその姿を現した。
「父上!? どうしてここに……?」
「家令からお前が見知らぬ令嬢を連れて何処かに行ったと聞いてな。行き先を告げなかったので、もしやと思い来てみたが……お前はどこまでベロニカ嬢に迷惑をかけるつもりだ!!」
雷が落ちる、という表現がぴったりなほど怒鳴る侯爵に、エーミールもビビも震え上がった。
だがベロニカだけは最愛の人に会えた嬉しさで頬を赤らめる。
そんなベロニカの反応を『怖がらせてしまった』と勘違いした侯爵は慌てて彼女に謝罪した。
「あ、すまないベロニカ嬢……怖がらせてしまったな。それにいきなり押しかけてしまい、重ね重ね申し訳ない……」
「いいえ、謝らないでくださいませ侯爵閣下。わたくしを心配してくださる閣下のお気持ち、誠に嬉しく思います」
「なんと寛容な……。本当に出来た人だ、我が愚息とは大違いだな……」
頬を染め、瞳を潤ませ、愛しい人の顔を焼き付けんとばかりに見つめるベロニカの姿を侯爵は『怖かったが気丈に振る舞う健気な娘』と盛大な勘違いをした。
「本当に申し訳ない……。後日また改めて謝罪に伺うので、今日の所はこの馬鹿を連れて失礼させてもらってもよろしいか?」
え、また会ってくれるの?
「ええ、構いません。わざわざご足労いただきありがとうございました」
ここでベロニカは決して「謝罪は結構です」とは言わなかった。
本来ならば婚約破棄をする大嫌いな男の親になど二度と会いたくないのが普通だろう。
だが、ベロニカにとって侯爵は『大嫌いな男の父親』でなく『初恋の君』なのだ。
会いたいと願ってしまう気持ちは止められない。
引きずるようにエーミールを連行する侯爵の後ろ姿をベロニカは名残惜しく眺めていた。
視界にビビが慌てた様子で彼等についていくのが見え、ふと、あの子は今後どうなるだろうと考える。
(婚約者に、とは言ったものの……どうなるかしらね……)
男爵令嬢、しかも愛人との庶子。
侯爵家嫡男のエーミールの婚約者になるには身分も血筋も足りない。
おまけにランカ男爵家は特別裕福をいうわけでもなく、領地にこれといった特色もない。
利益のない婚約を結ぶ貴族なんているのだろうか。
ベロニカとエーミールの婚約も、エーミールの一目惚れといえども互いの家に利益があったからこそ結ばれたようなものなのに。
あんな男に惚れたばかりに可哀想、と思うがそれと同時に自業自得だろうとも思ってしまう。
夜会でエーミールをダンスに誘った時はまだ婚約者がいると知らなかったようだが、ベロニカの邸を訪ねた時点で理解していたはず。
その状態でノコノコとやってきた時点で彼女は“巻き込まれただけの哀れな少女”ではない。
彼女の未来は決して明るくないだろう。でも同情はしない。
エーミールには従順な女を装っていたが、あれは明らかにこちらを見下していた。
ああ、そういえば”そんなだから捨てられるのよ!”なんてふざけた台詞も吐いていたな。
彼がダンスの誘いを受けてくれたからか、それとも馬車で迎えにきたことで勘違いしたかは知らないが、自分を選んでくれたとでも思ったのだろうか。エーミールは彼女をそういう目で見てはなさそうだが。
彼女もエーミール同様、物事を深く考えない性質なのだろう。
未だ婚約破棄の手続きが済んでいない状態の彼と二人きりになり、しかもそれを目撃されたらどうなるかを考えないのだから。
(まあ、もう会わないし別にいいわね)
元婚約者が見知らぬ女を連れて突撃してくるのは、普通に考えれば嫌だし後味が悪いものだろう。
だがベロニカにとってはそんな阿呆二人よりも、もう会えないと思っていた初恋の人に会えた喜びの方が大きい。
あの人は改めて謝罪に来ると言っていた。
その時は目一杯着飾って、綺麗な自分を見て欲しい。
早速ドレスを選ばなきゃ、と浮かれた気分で部屋へと戻るベロニカの頭からは、エーミールとビビはすっかり消え去っていた。
849
あなたにおすすめの小説
【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる