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馬鹿がやらかした
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それはある日の夕方のことだった。
王城へ登城していた伯爵が血相を変えて帰宅し、玄関先で憎々し気に呟く。
「あの小僧がやらかしてくれたよ……。とんでもないことをな……」
「お父様? あの小僧とは……?」
常とは違う父親の様子にベロニカはおずおずと声をかける。
すると伯爵は大きなため息をついた。
「いまだお前と婚約関係にあるコンラッド家のエーミールだ……。あの小僧、よりにもよって帝国の皇女を孕ませたそうだ……」
「はっ…………?」
帝国の皇女を孕ませた? まだ婚約破棄の手続きが終わっていないのに?
「帝国の皇女様を……!? エーミール様は領地で謹慎していると聞きましたが……それがどうして帝国の皇女様とそんな関係に?」
「どうやら皇女はコンラッド家の領地近辺にある保養施設にお忍びで来ていたらしい。そこでエーミールと恋に落ち、そういう関係になったそうだ……」
「恋に落ちたって……わたくしとまだ婚約関係にあるのにですか!? それでは皇女様は他人の婚約者と不貞を犯したことになりますよね?」
エーミールが誰と恋に落ちようがベロニカにとってはどうでもいいことだが、それは婚約破棄が終わってからにしてほしかった。
他人の婚約者を盗る、という行為はこの国でも帝国でも忌避される行為だ。
相手が格下であろうと格上であろうとそれは変わらない。
帝国の皇女がそんな忌避されるべき行為をしたとなれば、それは皇女へのとんでもない醜聞となるし、ひいては帝国皇家への醜聞となってしまう。
「事実を知った帝国側が慌てて使者を寄こしてきてな。この醜聞が帝国で広まってしまえば皇家の求心力が下がり、最悪内部抗争に成りえると。なのでお前とエーミール殿との婚約を遡った日付で破棄したことにしてほしいと頼んできた。我が国に帝国の鉄を安く融通することを条件にな」
「帝国の鉄を!? え……そこまでするのですか!」
帝国の鉄は大陸一質がいいと言われている。
我が国でそれを仕入れる為に国王陛下自ら何度も交渉の席についていると聞くのに……こんな形でそれが実現していいのだろうか。
「陛下は何と仰っているのですか……?」
幾度も交渉しているにも関わらず帝国側は首を縦に振らない。
そんな交渉が、こんな形で結ばれることを国王はどう思っているのだろう。
「陛下は乗り気でいらっしゃる。経緯はどうあれ、帝国の鉄が手に入るならばそれでよいと」
いいんだ……。
国王が面子よりも合理性をとることにベロニカは驚いた。
「なら、お父様はなぜそんな青い顔をしていらっしゃるの……?」
婚約破棄を遡った日付で出来るかどうかは別として、国王も乗り気ならば特に問題はないように思える。
まあエーミールが皇女を孕ませてしまったことは不味いと思うが、帝国側はこちらに有利な条件を持ちかけてくれたわけだし……。
「婚約破棄を遡った日付で完成させるための手続きはな……私もそうだが、当事者であるお前が王宮で何日も聞き取り調査に付き合わなければならないんだ」
「え………………?」
王宮で何日も聞き取り調査? それって……まさか……
「お前も私もこれから登城し、手続きが終わるまで邸には帰れん。……王宮からの迎えもすでに来ている」
父の言葉に弾かれるように玄関の外を見れば、なんとそこには王家の紋章付きの馬車が数台停まっていた。
「……そういうわけだから、すぐに支度をなさい」
父の草臥れた姿の意味がやっと分かった。
なんであの男のやらかしの為に私達が王宮で缶詰めにならないといけないのか……。
こみ上げる怒りを抑えつつ、ベロニカと伯爵は渋々支度を始めるのだった。
王城へ登城していた伯爵が血相を変えて帰宅し、玄関先で憎々し気に呟く。
「あの小僧がやらかしてくれたよ……。とんでもないことをな……」
「お父様? あの小僧とは……?」
常とは違う父親の様子にベロニカはおずおずと声をかける。
すると伯爵は大きなため息をついた。
「いまだお前と婚約関係にあるコンラッド家のエーミールだ……。あの小僧、よりにもよって帝国の皇女を孕ませたそうだ……」
「はっ…………?」
帝国の皇女を孕ませた? まだ婚約破棄の手続きが終わっていないのに?
「帝国の皇女様を……!? エーミール様は領地で謹慎していると聞きましたが……それがどうして帝国の皇女様とそんな関係に?」
「どうやら皇女はコンラッド家の領地近辺にある保養施設にお忍びで来ていたらしい。そこでエーミールと恋に落ち、そういう関係になったそうだ……」
「恋に落ちたって……わたくしとまだ婚約関係にあるのにですか!? それでは皇女様は他人の婚約者と不貞を犯したことになりますよね?」
エーミールが誰と恋に落ちようがベロニカにとってはどうでもいいことだが、それは婚約破棄が終わってからにしてほしかった。
他人の婚約者を盗る、という行為はこの国でも帝国でも忌避される行為だ。
相手が格下であろうと格上であろうとそれは変わらない。
帝国の皇女がそんな忌避されるべき行為をしたとなれば、それは皇女へのとんでもない醜聞となるし、ひいては帝国皇家への醜聞となってしまう。
「事実を知った帝国側が慌てて使者を寄こしてきてな。この醜聞が帝国で広まってしまえば皇家の求心力が下がり、最悪内部抗争に成りえると。なのでお前とエーミール殿との婚約を遡った日付で破棄したことにしてほしいと頼んできた。我が国に帝国の鉄を安く融通することを条件にな」
「帝国の鉄を!? え……そこまでするのですか!」
帝国の鉄は大陸一質がいいと言われている。
我が国でそれを仕入れる為に国王陛下自ら何度も交渉の席についていると聞くのに……こんな形でそれが実現していいのだろうか。
「陛下は何と仰っているのですか……?」
幾度も交渉しているにも関わらず帝国側は首を縦に振らない。
そんな交渉が、こんな形で結ばれることを国王はどう思っているのだろう。
「陛下は乗り気でいらっしゃる。経緯はどうあれ、帝国の鉄が手に入るならばそれでよいと」
いいんだ……。
国王が面子よりも合理性をとることにベロニカは驚いた。
「なら、お父様はなぜそんな青い顔をしていらっしゃるの……?」
婚約破棄を遡った日付で出来るかどうかは別として、国王も乗り気ならば特に問題はないように思える。
まあエーミールが皇女を孕ませてしまったことは不味いと思うが、帝国側はこちらに有利な条件を持ちかけてくれたわけだし……。
「婚約破棄を遡った日付で完成させるための手続きはな……私もそうだが、当事者であるお前が王宮で何日も聞き取り調査に付き合わなければならないんだ」
「え………………?」
王宮で何日も聞き取り調査? それって……まさか……
「お前も私もこれから登城し、手続きが終わるまで邸には帰れん。……王宮からの迎えもすでに来ている」
父の言葉に弾かれるように玄関の外を見れば、なんとそこには王家の紋章付きの馬車が数台停まっていた。
「……そういうわけだから、すぐに支度をなさい」
父の草臥れた姿の意味がやっと分かった。
なんであの男のやらかしの為に私達が王宮で缶詰めにならないといけないのか……。
こみ上げる怒りを抑えつつ、ベロニカと伯爵は渋々支度を始めるのだった。
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