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気になる言葉
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聴取の内容はエーミールとの婚約に至った経緯から、彼にされた仕打ち、そして婚約破棄に至るまでの経緯と、様々だった。
キアラが質問し、ベロニカがそれに答えるといった形式を繰り替えすうち、ベロニカの顔に明らかな疲労の色が見えてきた。
「ベロニカ様、少し休憩いたしましょう」
「ええ……そうしてくれると助かるわ。ごめんなさいね、気を遣わせてしまって……」
「いいえ、とんでもございません! このような慣れぬ作業、疲れて当然にございます! 只今お茶と菓子をご用意いたしますので、それでお疲れを癒してください」
そう言うとキアラは部屋の外にいる女官に言付けし、お茶の準備を頼む。
そしてティーセットが乗ったワゴンを部屋の外で女官から受け取り、キアラ自らテーブルにセッティングをしだした。
「あら、キアラがお茶の準備をするの? 女官ではなく?」
「ええ、聴取の間は私以外がベロニカ様の部屋に入ることは禁じられておりますので。それに私は昔給仕を経験しておりますので、お茶の用意はお手の物です」
慣れた手つきでキアラは紅茶を淹れ、お茶請けの菓子をテーブルへと置いた。
「いい香り……。よければキアラもご一緒しましょう」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……」
互いにテーブルを囲み、お茶を飲んだ。
品のよい仕草でお茶のカップを傾けるキアラに、ベロニカはまたエーミールの面影を見た。
(また……。なんで? なんでキアラとエーミール様が重なるの……?)
実はエーミールに未練でもあったのだろうか?
そんな思い違いをしてしまいそうになるほどキアラと彼は似通っている。
「あの……ベロニカ様……」
「はいっ!? な、なにかしら……?」
不躾に姿を眺めてしまったことが知られてしまった、と焦るベロニカにキアラは俯きつつポツリと呟いた。
「ベロニカ様は……大丈夫だったのですか……?」
「えっ? 何が?」
「ええと……その、コンラッド侯爵子息のことが……です」
キアラの質問の意味が分からずベロニカは首を傾げた。
大丈夫か、と問われると何一つ大丈夫じゃないと答えたいのだが、多分キアラはそういうことが聞きたいのではないのだろう。
「コンラッド侯爵子息は……聞けば聞くほどお嬢様にそっくりです。男を魅了し骨抜きにする……あの淫魔に……」
「え……淫魔……?」
何だか物凄い単語がキアラの口から飛び出してきた。
唖然とするベロニカにハッとなったキアラは慌てて口を噤んだ。
「あっ……! 申し訳ございません! 私ったら余計なことを……。どうぞ、お忘れくださいませ……!」
(いや、それは無理でしょう!? こんな気になる単語を出されて忘れろとか無理! 何なの淫魔って? それを聞かないとわたくし今夜寝られないわよ!?)
気になる単語だけ出して忘れろとは酷な話だ。
そんなの耳にしたら最後まで聞きたくなる、とベロニカはキアラに懇願して続きを離させようとした。
「まあ……そんなこと言わないでほしいわ。わたくしはこれからしばらく娯楽一つない状況で過ごさねばならないのよ? 貴女とのお喋りだけが唯一の楽しみなの」
「そ、それは……確かに。ですが……これは外に漏らすと不味いことですし……」
「それならば大丈夫よ。だって最初に“ここで見聞きしたことは外に漏らさない”という誓約書に署名をしたもの。この部屋で話すのなら、貴女の話もその対象になるわ。外に漏らせばわたくしは王家から罰せられてしまうのよ? だから大丈夫よ」
ベロニカの必死な懇願に押され、キアラは「そう……ですね。では……」と顔を上げる。
「しばし私の昔話にお付き合いください。私は王宮へ上がる前はコンラッド侯爵家の領地にある村に住んでおりました……」
始まったキアラの昔話にベロニカはそっと耳を傾けるのだった。
キアラが質問し、ベロニカがそれに答えるといった形式を繰り替えすうち、ベロニカの顔に明らかな疲労の色が見えてきた。
「ベロニカ様、少し休憩いたしましょう」
「ええ……そうしてくれると助かるわ。ごめんなさいね、気を遣わせてしまって……」
「いいえ、とんでもございません! このような慣れぬ作業、疲れて当然にございます! 只今お茶と菓子をご用意いたしますので、それでお疲れを癒してください」
そう言うとキアラは部屋の外にいる女官に言付けし、お茶の準備を頼む。
そしてティーセットが乗ったワゴンを部屋の外で女官から受け取り、キアラ自らテーブルにセッティングをしだした。
「あら、キアラがお茶の準備をするの? 女官ではなく?」
「ええ、聴取の間は私以外がベロニカ様の部屋に入ることは禁じられておりますので。それに私は昔給仕を経験しておりますので、お茶の用意はお手の物です」
慣れた手つきでキアラは紅茶を淹れ、お茶請けの菓子をテーブルへと置いた。
「いい香り……。よければキアラもご一緒しましょう」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……」
互いにテーブルを囲み、お茶を飲んだ。
品のよい仕草でお茶のカップを傾けるキアラに、ベロニカはまたエーミールの面影を見た。
(また……。なんで? なんでキアラとエーミール様が重なるの……?)
実はエーミールに未練でもあったのだろうか?
そんな思い違いをしてしまいそうになるほどキアラと彼は似通っている。
「あの……ベロニカ様……」
「はいっ!? な、なにかしら……?」
不躾に姿を眺めてしまったことが知られてしまった、と焦るベロニカにキアラは俯きつつポツリと呟いた。
「ベロニカ様は……大丈夫だったのですか……?」
「えっ? 何が?」
「ええと……その、コンラッド侯爵子息のことが……です」
キアラの質問の意味が分からずベロニカは首を傾げた。
大丈夫か、と問われると何一つ大丈夫じゃないと答えたいのだが、多分キアラはそういうことが聞きたいのではないのだろう。
「コンラッド侯爵子息は……聞けば聞くほどお嬢様にそっくりです。男を魅了し骨抜きにする……あの淫魔に……」
「え……淫魔……?」
何だか物凄い単語がキアラの口から飛び出してきた。
唖然とするベロニカにハッとなったキアラは慌てて口を噤んだ。
「あっ……! 申し訳ございません! 私ったら余計なことを……。どうぞ、お忘れくださいませ……!」
(いや、それは無理でしょう!? こんな気になる単語を出されて忘れろとか無理! 何なの淫魔って? それを聞かないとわたくし今夜寝られないわよ!?)
気になる単語だけ出して忘れろとは酷な話だ。
そんなの耳にしたら最後まで聞きたくなる、とベロニカはキアラに懇願して続きを離させようとした。
「まあ……そんなこと言わないでほしいわ。わたくしはこれからしばらく娯楽一つない状況で過ごさねばならないのよ? 貴女とのお喋りだけが唯一の楽しみなの」
「そ、それは……確かに。ですが……これは外に漏らすと不味いことですし……」
「それならば大丈夫よ。だって最初に“ここで見聞きしたことは外に漏らさない”という誓約書に署名をしたもの。この部屋で話すのなら、貴女の話もその対象になるわ。外に漏らせばわたくしは王家から罰せられてしまうのよ? だから大丈夫よ」
ベロニカの必死な懇願に押され、キアラは「そう……ですね。では……」と顔を上げる。
「しばし私の昔話にお付き合いください。私は王宮へ上がる前はコンラッド侯爵家の領地にある村に住んでおりました……」
始まったキアラの昔話にベロニカはそっと耳を傾けるのだった。
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