いいえ、望んでいません

わらびもち

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彼女と最低な男

「それで話を戻すんだけど、アタシはダニエルが母さんに仕送りをしてくれていると思ってたの。だってそういう約束だったし、ちゃんと家の住所も伝えたのよ?」

「その話の流れ……もしかして伯爵は貴女のお母さんに仕送りをしてなかった、ということになるのかしら?」

「そうなのよ! 虫の知らせっていうのかしら、夢に母さんが出てきてね。その姿がひどく衰弱してて……起きたらなんだかひどい胸騒ぎがしたの。それで居ても立っても居られなくて、馬車で母さんの家まで行ったのよ。そうしたら……」

「……倒れてたの?」

「うん、そう……。ひどく衰弱しててね……。病弱なのに無理して働いて、それで体を壊しちゃったみたい。近所のおばさんに怒られたよ。『どうして一度も様子を見に来なかったんだ!?』って。本当……その通りだよね、アタシはなんで一度も家に帰らなかったんだろう、情けないよ……」

 俯くマリアナにジュリエッタはどう声をかけたらいいか分からなかった。

 彼女は今、自分の行いを死ぬほど後悔している。
 ジュリエッタも大切な母がいるから気持ちはよく分かる。
 だからこそかける言葉が何も見つからない。

「それでもさ、ダニエルが仕送りをしてくれてたら、こうはならなかったのにって恨みが湧くんだよね……。様子を見に行かなかったアタシが悪いんだけど、どうしても許せない……!」

「そんなの当然よ! 伯爵はどうして貴女のお母さんに仕送りをしなかったの!?」

 あの伯爵は屑だがマリアナに対して金銭を惜しむことはしなかったはず。
 その証拠に彼女が望むままに様々な贈り物を貢いでいた。
 ならば彼女の母に金銭を送ることなど造作もないはずなのに。

「……あの人ね、アタシが聞いたらこう言ったのよ。『君の母親はもう亡くなっているだろう?』って……」

「はあぁん? 意味が分からないわ……!?」

 亡くなっているとはどういう意味か。
 マリアナの母親は病院に入院中、つまりは生きてるからこそ治療を受けているというのに。

「うん、アタシも意味が分からなかったわ。現在進行形で母さんは生きているのに何おかしなこと言ってんのよって頬を打ってやった。そしたらあいつ、オロオロしながらこう言ったのよ……。『母親とは自分を産んだ人間のことを言うのであって、育てた人間は乳母と言うんだぞ?』って」

「はあぁ? 頭おかしいんじゃないあの人? 何でそこで乳母が出てくるのよ? それに貴女がずっと“母さん”って言ってんじゃないの?」

「そうなのよ……! 何でそういう発想になったか知らないけど、アタシは母さんを“母親”だってずっと言ってんのによ!? その理屈ならアタシは“乳母に仕送りをしたい”って言わなきゃダメだったわけ?」

「いやそれもおかしいでしょ!? お母さんはお母さんであって、乳母じゃないんだし! それに乳母とも思っていないんだから! それ絶対あの伯爵がおかしいわよ! それに貴女は一言もお母さんを乳母だなんて言ってないんでしょう?」

「もちろんよ! なのにダニエルの思考がさっぱり分からないわ……。当然のように言うし、何が悪いか分からなくてキョトンとした顔するし……。怒りを通り越してもう、恐ろしいわ……」

 吐き捨てるようにそう言ったマリアナの顔は嫌悪に満ちていた。

 頭がおかしい男だとは思っていたがここまでとは。
 やはり結婚初日に新妻に向かってお飾り宣言をするような奴はろくでもない。

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