逃げたヒロインと逃げられなかった王子様

わらびもち

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ヒロインですら距離を置く

 実はミアはいわゆる転生者で、この世界が乙女ゲームで自分はヒロインであることに気付き、攻略対象者であるメインヒーローのギルベルトに近づいたのだ。

 ゲームでのクローディアは所謂悪役令嬢ポジションだった。
 ギルベルトのことを幼い頃からずっと愛しており、彼の妻になりたいあまりに家の権力に物を言わせて婚約者の地位を勝ち取っていた。
 
 それから事あるごとに人目も気にせずベタベタしてくるクローディアにギルベルトは心身共に疲れ果て、ヒロインに癒されていくという王道ストーリーである。

 舞踏会で婚約破棄を告げられたクローディアは怒り狂ってヒロインにつかみかかるが、それをギルベルトが庇い、二人は結ばれるという王道の結末だ。

 だが、目の前にいるクローディアは別のベクトルで怒り狂っている。

 ミアは予想外の展開にどうしていいか分からない。

「え、えーっと……クローディア様は、ギル様のことが好きです……よね?」

 さきほど気持ち悪いを連呼していた悪役令嬢様に対して、ミアは阿呆な発言をかましてしまった。

 どう考えても火に油を注ぐ発言だったが、『クローディアはギルベルトを好き』の前提が崩れてしまうと攻略も成り立たないので彼女も必死だったのだ。

「はあああああ!? どこを見ればそういう考えに至るのよ! 夜会に堂々と婚約者以外の女を腕にぶら下げて現れるような浮気最低クズ野郎のどこを好きになればいいって言うのよ!?」

「あ、はい……そうですよね。すみませんでした……」

 クローディアの気迫にミアは思わず謝ってしまった。

 この心からの叫びは真実であるとしかいいようがない。
 一人の女性にここまで嫌われるとか、ギルベルトは一体何をしたのだろうか?

 ちら、とミアはギルベルトの方を見たが、彼は婚約者が自分を好きではなくむしろ毛嫌いしている事実に唖然としていた。

「大体ねぇ、こいつに婚約者らしいことなんて一度もされたことないのよ!? 定例のお茶会はすっぽかすし、我が家を訪れたことも一度もないし、贈り物も手紙も貰ったことないし、夜会でのエスコートすらされたことないわ! むしろ婚約していたことすら忘れかけていたくらいよ! これでどうやって好きになれっていうの? 好きになる要素ゼロどころかむしろマイナスよね? そう思うでしょう!?」

「あ、はい……。仰る通りで……」

 もはやヒロイン固有の舌ったらずな喋り方すらできず、ミアはただ悪役令嬢様の怒りが過ぎ去るのを待つしかなかった。
 
 それにしてもギルベルトの行為は最低すぎる。
 まともな神経の持ち主なら決してやらないことだ。
 クローディアが嫌うのも無理はない。

(おかしいわね……? ゲームではギル様は悪役令嬢に対して婚約者としての最低限の義務は果たしていたはずなのに……。 バグ? バグなの? そうでなきゃメインヒーローがクズとか洒落にならないんだけど。どうしようこの状況……)

 ミアがギルベルトの方を見ると、彼はすでに魂が抜けたように呆けて阿呆面を晒していた。

 いくら自分がデタラメを吹き込んだとはいえ、塩対応どころか何の対応もしてこなかったくせに婚約者クローディアに好かれていると思えることが気持ち悪い。

 ミアはギルベルトの腕につかまるのをやめ、そっと距離を置いた。

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