逃げたヒロインと逃げられなかった王子様

わらびもち

文字の大きさ
5 / 11

側近とは

しおりを挟む
「お前は……本当に愚かだな……。はぁ……その様子だとクローディア嬢に散々貶されたようだから余からはこれ以上責めるのは止めておく」

 夜会での一部始終を侍従から聞いた国王は、目の前でだらだらと涙を流して項垂れるギルベルトに対してため息をついた。本当なら激怒したいところだが、見ているこちらが恥ずかしくなるぐらい無様に泣いている相手に言うのは忍びない。それだけでも国王は息子が婚約者に随分辛辣な言葉をぶつけられたと理解した。

「まあ、自業自得だな。あれほど婚約者のクローディア嬢を大切にしろと言ったのに、散々蔑ろにした挙句に他の女に現を抜かすとはな。飽きれて物も言えぬわ。しかも贈り物一つしていないとは……さすがにそこまで屑だとは思わなかった。知らなんだ余にも責任はあるが、こういうことは最も近くにいる側近が気を利かせるべきではないのか? なぜお主はギルベルトの側近でありながら、気を利かせて代わりに贈らなかったのだ? それか余へ報告をしていればよかったのに、何故怠った?」

 ギルベルトの後ろに控える側近一号が王の言葉を受け小刻みに震えはじめる。
 確かに側近ならば気を利かせて主人の代わりに主人の名で婚約者に無難な贈り物をすべきではある。
 
 でも彼はそれをしなかった。
 なぜならギルベルトがクローディアを嫌っていたからだ。
 主人が嫌う相手は見下してもいいと勘違いしていた。

「お、恐れながら申し上げます……クローディア嬢は身分を笠に着てギルベルト殿下の婚約者の座を無理矢理もぎ取るような女性です。そんな人に気を遣う必要など……」

「当のクローディア嬢がギルベルトとの婚約は嫌で嫌で仕方なかった、王命で仕方なかった、と言っておったのにか? 余が公爵に何度も頼んでようやく結んだ婚約を台無しにしてくれよって……。クローディア嬢が言った通りお前達は本当に人の話を聞かず思い込みで行動をする阿呆だな。こんなことなら早々に側近を変え、ギルベルトには厳しい教育を施すべきだったな……。今更悔やんでももう遅いか。まあいい、ギルベルト、お前はしばらく謹慎だ。沙汰が下されるまでは部屋から一歩も出るな。そして側近のお前はクビだ。どこへなりとも好きに行くがいい」

「……畏まりました」

「そ、そんなっ!! 陛下、どうかご温情を……! 私はギルベルト殿下の為を思って……!!」

 国王からの命にギルベルトは項垂れながら了承し、側近一号は悲鳴を上げて抗議した。
 王城をクビになったところで行くあてなどない。
 実家に戻っても王太子の婚約破棄に加担した自分を家族は許さないだろう。

「お許しを……! これからは心を入れ替えますゆえ……!」

「見苦しいな。 衛兵、この男を城の外に捨ててこい」 

「そんなっ!! お、お許しを……お許しをっ……!!」

 衛兵二人によって両脇を抱えられ側近一号は無理矢理引きずられていく。
 主人の為にしてきたことなのに、当の主人はこちらを一瞥すらしない。
 
 彼は今更ながら後悔した。仕えるべき方を間違えたと。
 しかし今更悔やんだところでどうしようもなく、彼は衛兵の手によって城門の外へ放り出され二度と王城へは入れなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方のことなんて愛していませんよ?~ハーレム要員だと思われていた私は、ただのビジネスライクな婚約者でした~

キョウキョウ
恋愛
妹、幼馴染、同級生など数多くの令嬢たちと愛し合っているランベルト王子は、私の婚約者だった。 ある日、ランベルト王子から婚約者の立場をとある令嬢に譲ってくれとお願いされた。 その令嬢とは、新しく増えた愛人のことである。 婚約破棄の手続きを進めて、私はランベルト王子の婚約者ではなくなった。 婚約者じゃなくなったので、これからは他人として振る舞います。 だから今後も、私のことを愛人の1人として扱ったり、頼ったりするのは止めて下さい。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

「本当の自分になりたい」って婚約破棄しましたよね?今さら婚約し直すと思っているんですか?

水垣するめ
恋愛
「本当の自分を見て欲しい」と言って、ジョン王子はシャロンとの婚約を解消した。 王族としての務めを果たさずにそんなことを言い放ったジョン王子にシャロンは失望し、婚約解消を受け入れる。 しかし、ジョン王子はすぐに後悔することになる。 王妃教育を受けてきたシャロンは非の打ち所がない完璧な人物だったのだ。 ジョン王子はすぐに後悔して「婚約し直してくれ!」と頼むが、当然シャロンは受け入れるはずがなく……。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

処理中です...