逃げたヒロインと逃げられなかった王子様

わらびもち

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自業自得な末路

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「よう来てくれたなクローディア」

「本日はお招きいただきありがとうございます、王妃殿下。お待たせしてしまって申し訳ございません」

 本日クローディアは王妃ジュリアーナに呼ばれて登城していた。
 だというのに途中であの頭お花畑王子に捕まってしまい無駄に時間を浪費した挙句、予定時間を過ぎてしまった。  

 あの男、もう土下座で詫びればいいのにとクローディアは心の中で悪態をついた。

「よいよい、来る途中アレに捕まっておったのだろう? なら其方のせいではあるまいよ。それにしても長年にわたりあのような阿呆の婚約者を務めさせてしまったこと、妾からも詫びさせてくれ。其方には本当に迷惑をかけた」

「いいえ、とんでもございません。すべては国の為にございます。……この結果はご満足いただけたでしょうか?」

「もちろんよ、大変満足しておる。其方のおかげであの金食い虫の側妃と愚息に一泡吹かせてやれたわ。ほんに其方とミュラー公爵家には感謝してもしきれぬ。長年苦労をかけてすまなかった」

 クローディアもミュラー公爵家もあの阿呆王子ギルベルトとの婚約なぞいつでも破棄できた。
 それを今の今まで継続し続けてきたのはのためである。

「ほんに長かったのう……。 陛下があの忌々しい小娘を側妃として召し上げてから十数年以上経った。しかしどれだけ月日が経とうとも、妾の怒りはずっと燻り続けて消えることはなかったわ。妾より先にあの小娘側妃と子を成した挙句、その子を王太子にするなぞ……。全くどこまでも馬鹿にしてくれる……」

 王妃の父である侯爵は数十年前の戦で国に貢献し、英雄とまで謳われた人物である。
 先代国王がその功績を称え、英雄の血を王家に入れたいと望んだ。なので侯爵の娘であるジュリアーナを息子の妃に迎え入れ、ゆくゆくはその間にできた王子を世継ぎとするはずだった。

 しかし、先代亡き後即位した現国王陛下が側妃可愛さにギルベルトを王太子にすると宣言してしまったのだ。

「先代国王が崩御されてすぐに陛下はあの小娘を側妃に召し上げたのよ。しかもすでに腹には子が宿っておった。おまけに生まれた子を王太子にしたいなどと世迷言をはいたうえに、妾や大臣達の反対を押し切ってまで其方との婚約を結びよった……。当然、巻き込まれたミュラー公爵の怒りは凄まじくての……謀反一歩手前まできておったわ」

「はい、父からその話は聞いております。それを止めてくださったのが王妃様なのですよね?」

 国王の暴挙にミュラー公爵は激怒し危うく挙兵するところだった。
 無理もない、娘をギルベルトと婚約させてしまえば彼が王太子となってしまうし、それは先代国王の遺志に反する。先代国王に忠誠を誓っていた父にはそれが我慢できなかったのだろう。

「そうだ。妾が怒り狂うミュラー公爵にを持ち掛けたのよ」
 
 王妃の計画とは、万が一ギルベルトに瑕疵があって婚約を破棄した場合は国王にが課される、というものだった。

「アレがクローディアを長年にわたり蔑ろにしていた時点で充分瑕疵だったのだがな。今回、公衆の面前で婚約破棄などという阿呆なことをしてくれたおかげですんなり罰を下すことができたよ。 ……ようやっと我が子が日の目を見るのじゃな、長かったわ」

 国王に課された罰とは『速やかに第二王子ルードヴィヒに玉座を譲ること』だった。 
 
 ギルベルトを廃太子にしても、己の欲望優先の暗愚国王がいつまでも国の頂点にいては意味がない。
 いつまた私欲で暴走し、ルードヴィヒが王になる道に支障をきたすとも限らない。

 多くの貴族は先王の遺志である『英雄の血を継ぐ第二王子を世継ぎとすること』を望んでいる。
 なのに国王はそれを全く理解していない。


「アレも陛下も流石は親子じゃ、よう似ておる。どちらも己の欲望優先で周囲を省みないせいで敵を作りやすいわ。 陛下はな、先代が崩御されてすぐに廃止されていた側妃制度を復活させてしもうたのじゃ。あの小娘を娶りたいがためにな。そのせいで側妃一人の予算を捻出するために国民の税収を上げざるを得なかった。おかげで民の不満は膨れてしもうたわ。しかもあの小娘は欲のままにドレスやアクセサリーを欲しがり、陛下はそれを簡単に了承してしまう。妾はいつ民の暴動が起きるか心配で仕方なかったというに、当の本人達はのうのうとしおって……」

「今回のことでその側妃制度が撤廃され、税を下げられそうでよかったですよね」

 王妃とミュラー公爵が前々から準備していたおかげで、物凄い早さで法律の見直しが行われた。
 まず初めに税金の無駄遣いである側妃制度が撤廃され、それに伴ってギルベルトの母の側妃は強制的に国王と離縁させられたのだ。

「あの金食い虫一人の一年分の予算で王都中の平民の一年分の生活費になるからな。正妃である妾よりも金を使っていることに苦言を呈したが、最終的に陛下が了承してしまうからどうにもならなかった。本当にいつ各地で暴動が起きないかひやひやしておったわ……」

 国王が側妃可愛さに税金を湯水の如く使うせいで我が国は貧困化していく一方だった。

 それがようやく食い止められる、クローディアの婚約破棄をもって。

「陛下はこの件に納得しておりますか?」

「完全には納得しておらんだろうよ。だがどうしようもないな。すでに退位は確定されておるしの。そしてあの金食い虫の側妃は離縁のうえギルベルトとともに辺境の地へ押し込め二度と表舞台には出さぬ」

 辺境の地へ押し込めるとは言えど、おそらく側妃もギルベルトも王宮を出た後すぐに始末されるだろう。
 王籍を抜けた王族など生かしておくだけで厄介だし、王妃の十数年分の怒りはそうでもしないと収まらない。

(……馬鹿な王子様ギルベルト……自分の欲ばかり押し通そうとするからこうなるのよ)

 もしギルベルトが最初からクローディアを大切にし、共に歩んでいけばこうはならなかったろう。
 だがそれを初めから拒否したのはギルベルト本人だ。
 クローディアは彼の処遇に対し、かわいそうだとは少しも思わない。
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