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逃げられなかった王子様のその後、逃げたヒロインのその後
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それからしばらくして、ギルベルトと母の側妃は王籍を抜け辺境の地へと連れていかれた。
だが、到着してまもないうちに疫病にかかりあっけなくその命を落としてしまう。
その地方で疫病は流行っていないにもかかわらず、何故か彼等だけが罹患した。
そのことから『王妃の手の者に疫病にみせかけて毒殺された』という噂が一時期社交界で広まるが、すぐにそれも消えていった。
元王太子と元側妃の死、平民の間でもそれは新聞の片隅にひっそりと載るくらいの些細な事として片づけられた。
王籍を抜けた者の末路なんてそんなもので、時間とともに人々から忘れられてゆく。
だが、その記事が載った新聞を食い入るように眺める者がいた。
どこにでもいるような髪色をした彼女は、勤め先の宿屋の空き室で独り言を呟く。
「ええ!? 嘘……! ギル様死んじゃったの!? うっわ! これ絶対病死に見せかけて始末するってやつじゃんか!? ああ~……あの時急いで逃げて本当によかった……!!」
ギルベルトの浮気相手であるヒロインのミアはあの夜会の後急いで国を出て隣国まで逃げていた。
野生の勘でこのまま国にとどまると最悪殺されかねない危険性を感じ取ったからである。
それは正解で、あのままギルベルトの側にいたら連座で始末されていたかもしれない。
「いや、ほんっと危なかった……! あのままあの国に留まっていたら絶対に殺されていたよね!? ああ……逃げられてよかったー!!」
逃げる際にミアは目立つピンクの髪はよくある茶色に染め、名前も変えて隣国の宿屋で住み込みで働き始めた。
こういう手際の良さは前世の知識と平民という身軽さならではで、ミアは自分が貴族令嬢に転生しなくて助かったと神に感謝した。
「にしても後味悪いなぁ……。 私がギル様に近づかなきゃこんな結末は迎えなかったんじゃない……?」
ミアは特に王妃になりたいという願望はなかった。
ただゲームと同じ感覚でギルベルトに近づいて攻略してみただけである。
完全に遊び感覚で、別に彼のことが好きという感情はない。
そんな風にゲームのヒロイン感覚でいたミアだが、あの夜会で悪役令嬢クローディアが正論をズバズバ指摘してきたことがきっかけで我に返った。
ここはゲームの世界ではなく現実だ。このままでは自分は処罰されかねないと。
「うう……ごめんねギル様! でも私は死にたくないの! チヤホヤされなくてもいいから生きていたいの! そ、それに……もとはといえばギル様がクローディアを蔑ろにしたのが悪いのよね? 別に私はクローディアに冷たくしろだなんて言ってないし……。どうやら私と出会う前から酷い態度だったみたいだし……。私はちょっとしか悪くないわよ、うん」
ギルベルトは王子だから逃げられなかった。
いや、むしろ逃げるという選択肢すらなかったかもしれない。
それに、危険察知能力の低い彼は自分が始末されることなど少しも考えていなかっただろう。
だがミアは逃げることが出来た。
危険察知能力の高い彼女はすぐに行動を起こしたからこそこうして生きている。
ミアがクローディアからの恨みを一切買っていなかったおかげというのもあるが。
「そうよ、悪役令嬢様を怒らせたギル様が悪いのよ。なんかずっとモラハラしてたっぽいし、あの人が悪い。私は一応謝ったもの……」
罪悪感からミアはひたすらギルベルトが悪いと言い続けた。
自分が公爵令嬢に冤罪をふっかけたことが原因といえど、元々モラハラしていた彼が一番悪い。
きちんと婚約者と信頼関係を築いていれば、自分のようなぽっと出の女になびくことなどなかったはずだ。
そう自分に言い聞かせるかのように、消せない罪悪感を振り払うように彼を非難し続けた。
「そうよ、ギル様が悪い……私はちょっとしか悪くない……。だ、だから……王家やクローディアからの追手は来ないはず……。そうよね……?」
逃げたヒロインの問いかけに答える者は誰もいない。
彼女はこれからも決して消えることのない罪悪感に苛まされ、来るはずのない追手に怯え続ける……。
(了)
だが、到着してまもないうちに疫病にかかりあっけなくその命を落としてしまう。
その地方で疫病は流行っていないにもかかわらず、何故か彼等だけが罹患した。
そのことから『王妃の手の者に疫病にみせかけて毒殺された』という噂が一時期社交界で広まるが、すぐにそれも消えていった。
元王太子と元側妃の死、平民の間でもそれは新聞の片隅にひっそりと載るくらいの些細な事として片づけられた。
王籍を抜けた者の末路なんてそんなもので、時間とともに人々から忘れられてゆく。
だが、その記事が載った新聞を食い入るように眺める者がいた。
どこにでもいるような髪色をした彼女は、勤め先の宿屋の空き室で独り言を呟く。
「ええ!? 嘘……! ギル様死んじゃったの!? うっわ! これ絶対病死に見せかけて始末するってやつじゃんか!? ああ~……あの時急いで逃げて本当によかった……!!」
ギルベルトの浮気相手であるヒロインのミアはあの夜会の後急いで国を出て隣国まで逃げていた。
野生の勘でこのまま国にとどまると最悪殺されかねない危険性を感じ取ったからである。
それは正解で、あのままギルベルトの側にいたら連座で始末されていたかもしれない。
「いや、ほんっと危なかった……! あのままあの国に留まっていたら絶対に殺されていたよね!? ああ……逃げられてよかったー!!」
逃げる際にミアは目立つピンクの髪はよくある茶色に染め、名前も変えて隣国の宿屋で住み込みで働き始めた。
こういう手際の良さは前世の知識と平民という身軽さならではで、ミアは自分が貴族令嬢に転生しなくて助かったと神に感謝した。
「にしても後味悪いなぁ……。 私がギル様に近づかなきゃこんな結末は迎えなかったんじゃない……?」
ミアは特に王妃になりたいという願望はなかった。
ただゲームと同じ感覚でギルベルトに近づいて攻略してみただけである。
完全に遊び感覚で、別に彼のことが好きという感情はない。
そんな風にゲームのヒロイン感覚でいたミアだが、あの夜会で悪役令嬢クローディアが正論をズバズバ指摘してきたことがきっかけで我に返った。
ここはゲームの世界ではなく現実だ。このままでは自分は処罰されかねないと。
「うう……ごめんねギル様! でも私は死にたくないの! チヤホヤされなくてもいいから生きていたいの! そ、それに……もとはといえばギル様がクローディアを蔑ろにしたのが悪いのよね? 別に私はクローディアに冷たくしろだなんて言ってないし……。どうやら私と出会う前から酷い態度だったみたいだし……。私はちょっとしか悪くないわよ、うん」
ギルベルトは王子だから逃げられなかった。
いや、むしろ逃げるという選択肢すらなかったかもしれない。
それに、危険察知能力の低い彼は自分が始末されることなど少しも考えていなかっただろう。
だがミアは逃げることが出来た。
危険察知能力の高い彼女はすぐに行動を起こしたからこそこうして生きている。
ミアがクローディアからの恨みを一切買っていなかったおかげというのもあるが。
「そうよ、悪役令嬢様を怒らせたギル様が悪いのよ。なんかずっとモラハラしてたっぽいし、あの人が悪い。私は一応謝ったもの……」
罪悪感からミアはひたすらギルベルトが悪いと言い続けた。
自分が公爵令嬢に冤罪をふっかけたことが原因といえど、元々モラハラしていた彼が一番悪い。
きちんと婚約者と信頼関係を築いていれば、自分のようなぽっと出の女になびくことなどなかったはずだ。
そう自分に言い聞かせるかのように、消せない罪悪感を振り払うように彼を非難し続けた。
「そうよ、ギル様が悪い……私はちょっとしか悪くない……。だ、だから……王家やクローディアからの追手は来ないはず……。そうよね……?」
逃げたヒロインの問いかけに答える者は誰もいない。
彼女はこれからも決して消えることのない罪悪感に苛まされ、来るはずのない追手に怯え続ける……。
(了)
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