茶番には付き合っていられません

わらびもち

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皇太子の爆弾発言

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 あの騒動の後しばらくして皇太子殿下が会場へとお見えになった。

 新しく皇太子に就任されたバーソロミュー殿下は精悍な顔立ちの美丈夫で、見るからに桁違いの気品と風格を備えていた。

(あの王太子とは雲泥の差……。いや、それは泥に失礼ね)

 大公殿下も王族ならでは気品を持ち合わせているが、皇太子殿下のそれは比べ物にならない。これこそが大国の王者に相応しい風格というものかと圧倒されてしまう。

「本日はご招待ありがとうございます。国王陛下、ならびにルノール大公殿下、そしてレディ・エルリアンにお会いできて誠に嬉しく思います」

 この場に王太子がいないことに全く触れないということは、皇太子殿下こちらの事情を知っているのだろう。説明するにしても「阿呆すぎて廃嫡となりました」などという国の恥を晒すことになるし丁度いい。

 先程まで死んだ魚のように意気消沈していた陛下と大公殿下だが、まるでそのような事が無かったかのように明るく外向きの笑顔で対応している。流石に引きずられても困るしね。

 それにしても会話の端々から皇太子殿下の器の大きさや聡明さがうかがえる。
 自国の王太子があんなどうしようもない奴だったせいか、これが本物の皇族というものかと感動を覚えてしまう。

 王太子も皇太子殿下のようにまともな方だったらな……と何とも言えない悲しさが胸に染みた。

「ところで……私が滞在している部屋も、この晩餐会も、そちらのレディ・エルリアンが手配してくださったとか」

 いきなり話を振られて驚いたが、王妃教育で鍛えられた淑女の仮面は揺るがない。
 平常心を保ち悠然と微笑んだ。

「ええ、お気に召してくださいましたでしょうか」

「それはもう、素晴らしい心遣いだと感動しております。私共が気持ちよく過ごせるようにと細部にまで気を配ってくださるレディの優しさに感謝を」

 称賛の言葉と共に妖艶な眼差しを向けてくる皇太子殿下。
 不意打ちに心臓がドクンと跳ね、思わず心の乱れを表情に出すところだった。

 色気が……色気がすごい……。
 
 語彙力が失われるほど悩ましい目で見つめられ、頬の熱さや胸の高鳴りが抑えられない。
 ここまで心を乱してくるとは流石は帝国の皇太子、男としての格が違う。

「レディ・エルリアンの優秀さは有名です。おまけに目も眩むほど美しい……。このように美貌と才知を兼ね備えた素晴らしい令嬢こそ。貴女を迎えられる男は大陸一の果報者でしょうね」

「ま、まあ……お褒めに預かり光栄にございます」

 過剰と言えるほどの称賛を浴びせてくる皇太子殿下。
 含みのある言い方がどうにも気になり素直に喜べない。

(帝国という発言が気になる……どうしてわざわざそんな言い方をしたのかしら? それに私がもう王妃にはならないと知っているはずなのに“妃に相応しい”だなんて……。それに、という言葉は……)

 大陸一とは帝国を指す言葉でもある。財力・軍事力・国の広さ、全てが大陸に存在する国の中でも一番を誇るから。

 そして“妃に相応しい”と“帝国でも”という言葉……穿った見方をすればまるで私がと言っているように聞こえる。

 さりげなく陛下と大公殿下の方に目を遣ると、二人共顔を強張らせていた。
 その表情から察するに二人は皇太子殿下の発言の意図を理解したのだと分かる。

(いや……うん、考えすぎよね。確かにミシェルはハイスペックな美少女だけど……この発言だけではただの仮説にすぎないし、もしかして他意はないのかもしれない)

 ミシェルは美貌・才能・家柄と全て非の打ち所がない。
 しかし、帝国よりも小国の公爵令嬢という身分はとても皇太子の隣に立つに相応しいとは言えない。

 ただの妄想に過ぎない、と私は考えないようにした。
 しかしその後も皇太子殿下は何かと私に話題を振り、そのどれもが何かを匂わせる内容だった。

 帝国の歴史や習慣、宮廷作法、産業、それらについて質問され、私が答える度に彼は惜しみない称賛をくれる。

「これは素晴らしい。自国だけでなく他国の事まで熟知しているとは、レディは稀にみる才媛だ」

「過分なお褒めをいただきまして身に余る光栄に存じます」

「そのように謙遜なさらずともよろしい。レディはとなっても問題がないほどの才をお持ちだ。それらは全て貴女が努力を重ねた結果でありましょう」

 出てしまった! 遂に皇太子殿下の口から“帝国の后”という決定打の言葉が出てしまった……! 
 いや、待て、まだ慌てるには早い。ギリギリただの思わせぶりというラインを抜けていないはず。

「こ、皇太子殿下……。帝国の后というと……もしや……」

 ああ……よりにもよってこんな場面でいらんこと言うジジイの悪癖が出てしまった!
 流せば済むもの……何律儀に拾って掘り下げようとしてんのよ!?

 心の中で“ジジイ”と罵ろうが一国の王であることは間違いない。
 いくら国力の差があろうと、この大陸では皇太子と国王では後者の身分の方が上とされる。

 身分が上の者への発言は撤回出来ない。例えば私が国王陛下に何かを発言して、それを後で「冗談でした」と撤回することは許されない。上の者への嘘はそれだけで罪になるから。

 つまり……つまりだ、ここで皇太子殿下がをしてしまえばもう戻れない。

 頼むからはぐらかして! 
 私のそんな必死の願いも空しく、次の瞬間皇太子殿下の形のいい唇から決定的な言葉が放たれてしまった。

「私はそちらのレディ・エルリアンと婚約を結びたいと願っております。これは勿論私の独断ではなく、父である皇帝陛下も同意されております。今日、実際に会ってみてその願いはますます強くなりました。レディ・エルリアン、どうぞ私の妻……ひいてはとなっていただきたい」

 皇太子殿下の良く通るいい声は部屋中に響いた。

 あまりの爆弾発言に彼と彼の従者達以外、つまりは我が国の人間は皆その場で岩のように固まってしまった────。
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