茶番には付き合っていられません

わらびもち

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閑話 ある男の独り言

 薄暗い室内に一人の男が酒を煽っていた。男はくすんだ金の髪を掻きむしり、しきりに何かを呟いている。

「嗚呼……ったく、あの馬鹿ボンボンが……。あそこまでお膳立てしてやったってのによぉ……しくじりやがって。……どこまでも使えない馬鹿だな」

 テーブルに用意された葡萄酒の瓶を掴み、グラスに注がずそのまま口をつける。
 音を立てて呑み下し、プハッと息を吐く様は豪快だが些か品性に欠ける。

「あ~……ワインも美味いっちゃ美味いが……やっぱりが飲みてぇよな。ツマミもな……こんなお上品な物じゃなくて、焼き鳥や枝豆が食いたいぜ……」

 金髪の男は不満そうな顔でテーブルに酒のお供として置かれたチーズやナッツ、チョコレートをぽいぽい口に放り投げた。

「でもまあ……あの馬鹿ボンボンが始末されるのはいい気味だな。あいつ、よりにもよってミシェルに興味を示しやがって……お前はフワフワ頭の貧乳でも愛でてろっつの! ミシェルの豊満な体はのもんだ。誰にも渡さねぇ……」

 再び酒瓶を口につけ、ごきゅごきゅと音を立てて中身を飲み干す。

「皇太子だか何だか知らねえけどよ……ポッと出のが俺のミシェルを奪おうなんざ冗談じゃねえ……! ったく……どいつもこいつも勝手な真似しやがって……たかが風情がよぉ……」

 部屋の中には彼以外誰もいない。つまりこれは独り言なのだろうが……いきなり彼は自分以外の誰かと話す素振りをし始めた。

「あ? なんだよ、お前あの馬鹿に未練でもあんのか? お前の子かどうかも分かんないんだぞ? ……あん? あれは間違いなく王家の血を継いでいるって? じゃあなんであんな残念な奴になっちまったんだよ?」

 男は自分の胸に手をあて何故かその部分に顔を向けて話しかけている。
 まるで自分の中にがいるかのように……。

「あれは完全に自業自得だろ。あの貧乳女に夢中になってミシェルを散々虐めまくった結果だろうが。そんでそれを止めなかったお前も同罪! あれほどに気を付けろって言ったのに、本当お前って不器用だよな? お前だって初恋の君に似たミシェルが欲しくてたまんなかったんだろう? だったらもっと上手くやれよ!」

 空になった酒瓶を床にドンと音を立てて乱暴に置くと、辺りが静寂に包まれた。

「お前はもう引っ込んでろ。これからは俺(・)が動く。お育ちがいいせいか、お前のやり方は回りくどいからな。早くしねえとミシェルがあの皇太子のものになっちまうぞ?」

 男は自分の胸に向かって「だよな?」と呟いた。

「長年狙ってきた女を奪われるのは屈辱だろう? 俺だってミシェルを狙ってた。俺とお前は同じ目的を持った同士だ。どちらが想いを遂げたとしても同じこと、体は一緒だからな」

 くくっ、と愉快そうに笑う男。彼は胸から手を離し、伸びた前髪を鬱陶しそうにかき上げた。

「安心しろ。この国の王はミシェルに産んでもらう。だからあの出来損ないのことはもう忘れろ。お前の血を継いでいるかどうかも分からんあの馬鹿のことはな……」

 男の不穏な言葉を聞く者は誰もいない。
 窓から覗く月だけが男の一人芝居を見つめていた。

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