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不機嫌の原因
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治療と着替えを済ませたセレスタンを、私はそのまま帰らせた。
何か言いたげな彼を制し「しばらくはこちらに来なくて結構です。その分を勉強時間に充ててください」と穏やかな口調で告げた。
これは『治める領地に興味も持てない無能はいらない。その空っぽな頭に知識を詰め込むまで顔見せんな!』という意味なのだが、彼には伝わるだろうか。
冷や汗を垂らし「あ、ああ……すまない」と言っていたし、おそらくは理解したと見える。
しばらくあのムカツク顔を見なくていい。
そう考えると心がすごく穏やかになり、夏の空のように晴れ晴れしい気持ちで一杯になった。
ああ、私はあの男にこんなにもストレスを感じていたのか。
嫌いな男と交流するということは心身に負担をかけるものなのだな、と自覚した。
「さて……今日の映像を確認しましょうか」
クローゼットを開け、鏡に触れて呪文を唱える。
するとそこには慌てふためき本棚を叩く男の姿が映った。
「ぷっ……くくっ、焦ってる、焦ってる……」
あの日の翌日、私は隠し扉の存在は伏せたまま、従僕に本棚の補強を命じた。
グラグラして危ないから本棚を動かないようにして、と言えば従僕は大工を呼びつけ、床にしっかりと固定してくれた。
勿論その際、見つからないようこっそりとトンカチを拝借し、スイッチを壊すことも忘れずに。
これで隠し扉は完全に使用できないものとなった。
しかし、そんなことを知らないセレスタンはいつものように愛しのアンヌマリーと逢瀬を楽しもうと、隠し扉を開けようとする。だがいつもの場所にあるスイッチは破壊されており、本棚事態もガッチリ固定されているので動かせない。
焦ったセレスタンは誰かを呼びに行こうとドア付近に向かうも、流石にそれを知られてはマズイと思ったのか立ち止まる。そのまま右往左往して、考え抜いた結果が本棚を物理で動かすということなのか、押したり叩いたりを繰り返している。
「ふっ……やだ、ちょっと……無理、お腹痛い……!」
そんな非力な力でどうにかなるわけもないのに、本人は必死で本棚をどうにかしようと頑張っている。
その姿は実に滑稽で、いつもの貴公子然とした様子からは想像もできない。
どれだけイチャつきたかったんだよ、と思わずツッコミを入れてしまいそうなほど必死だ。
この姿をこいつの親にでも見せてやりたい、きっと絶望するだろう。
「まあ、それは無理なんだけどね……」
魔法道具の存在を知っていいのは王族だけ。
他に知られることは許されない。
なので、前世のように「この映像が証拠です!」と提出し、あちら有責で婚約破棄なんてことも出来ないのだ。
だがそれでも構わない。だって王家の権力でそんなものどうとでもなる。
「結局時間いっぱい本棚を動かそうと頑張っていたのね……。だからあんなに草臥れた様子だったんだ……ふふっ、面白い」
小説に書かれていた彼等の逢瀬のパターンはこうだ。
まずセレスタンが応接室に入り、案内した侍女がお茶を運ぶ。
そしてその侍女が部屋から出ていったのを確認し、隠し扉のスイッチを作動させ、扉の外に待機していたアンヌマリーを招き入れるといった流れ。
ちなみに出る時はこの逆の手順だ。こうすることにより、彼等が二人でいるところを見られることはない。
では何故記憶を取り戻す前のフランチェスカが彼等の逢瀬を見てしまったかというと、セレスタンを驚かせようとこっそり応接室の扉を開けてしまったからだ。ちなみに彼等はフランチェスカが見てしまったことに気付いていない。
いくら隠し扉があろうとも、応接室の扉は普通に開けられるのだから意味がないのに。
それとも扉は必ずノックした後に開けられるという貴族の常識が前提にあるからだろうか。何にしても、もう使われることもないのだからどうでもいいが。
「さてと、これで二人はもうこの応接室で逢引できないわね。それにしばらくは彼も王宮に来ないだろうし……どうなるかしら?」
あの二人は会えない時間を我慢するだろうか?
それとも会いたい気持ちを我慢できず、こっそりどこかで逢瀬を交わすだろうか?
人目に触れたらもう終わりなのに……。
何か言いたげな彼を制し「しばらくはこちらに来なくて結構です。その分を勉強時間に充ててください」と穏やかな口調で告げた。
これは『治める領地に興味も持てない無能はいらない。その空っぽな頭に知識を詰め込むまで顔見せんな!』という意味なのだが、彼には伝わるだろうか。
冷や汗を垂らし「あ、ああ……すまない」と言っていたし、おそらくは理解したと見える。
しばらくあのムカツク顔を見なくていい。
そう考えると心がすごく穏やかになり、夏の空のように晴れ晴れしい気持ちで一杯になった。
ああ、私はあの男にこんなにもストレスを感じていたのか。
嫌いな男と交流するということは心身に負担をかけるものなのだな、と自覚した。
「さて……今日の映像を確認しましょうか」
クローゼットを開け、鏡に触れて呪文を唱える。
するとそこには慌てふためき本棚を叩く男の姿が映った。
「ぷっ……くくっ、焦ってる、焦ってる……」
あの日の翌日、私は隠し扉の存在は伏せたまま、従僕に本棚の補強を命じた。
グラグラして危ないから本棚を動かないようにして、と言えば従僕は大工を呼びつけ、床にしっかりと固定してくれた。
勿論その際、見つからないようこっそりとトンカチを拝借し、スイッチを壊すことも忘れずに。
これで隠し扉は完全に使用できないものとなった。
しかし、そんなことを知らないセレスタンはいつものように愛しのアンヌマリーと逢瀬を楽しもうと、隠し扉を開けようとする。だがいつもの場所にあるスイッチは破壊されており、本棚事態もガッチリ固定されているので動かせない。
焦ったセレスタンは誰かを呼びに行こうとドア付近に向かうも、流石にそれを知られてはマズイと思ったのか立ち止まる。そのまま右往左往して、考え抜いた結果が本棚を物理で動かすということなのか、押したり叩いたりを繰り返している。
「ふっ……やだ、ちょっと……無理、お腹痛い……!」
そんな非力な力でどうにかなるわけもないのに、本人は必死で本棚をどうにかしようと頑張っている。
その姿は実に滑稽で、いつもの貴公子然とした様子からは想像もできない。
どれだけイチャつきたかったんだよ、と思わずツッコミを入れてしまいそうなほど必死だ。
この姿をこいつの親にでも見せてやりたい、きっと絶望するだろう。
「まあ、それは無理なんだけどね……」
魔法道具の存在を知っていいのは王族だけ。
他に知られることは許されない。
なので、前世のように「この映像が証拠です!」と提出し、あちら有責で婚約破棄なんてことも出来ないのだ。
だがそれでも構わない。だって王家の権力でそんなものどうとでもなる。
「結局時間いっぱい本棚を動かそうと頑張っていたのね……。だからあんなに草臥れた様子だったんだ……ふふっ、面白い」
小説に書かれていた彼等の逢瀬のパターンはこうだ。
まずセレスタンが応接室に入り、案内した侍女がお茶を運ぶ。
そしてその侍女が部屋から出ていったのを確認し、隠し扉のスイッチを作動させ、扉の外に待機していたアンヌマリーを招き入れるといった流れ。
ちなみに出る時はこの逆の手順だ。こうすることにより、彼等が二人でいるところを見られることはない。
では何故記憶を取り戻す前のフランチェスカが彼等の逢瀬を見てしまったかというと、セレスタンを驚かせようとこっそり応接室の扉を開けてしまったからだ。ちなみに彼等はフランチェスカが見てしまったことに気付いていない。
いくら隠し扉があろうとも、応接室の扉は普通に開けられるのだから意味がないのに。
それとも扉は必ずノックした後に開けられるという貴族の常識が前提にあるからだろうか。何にしても、もう使われることもないのだからどうでもいいが。
「さてと、これで二人はもうこの応接室で逢引できないわね。それにしばらくは彼も王宮に来ないだろうし……どうなるかしら?」
あの二人は会えない時間を我慢するだろうか?
それとも会いたい気持ちを我慢できず、こっそりどこかで逢瀬を交わすだろうか?
人目に触れたらもう終わりなのに……。
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