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脱走
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「何だって!? 義父上も義母上もしばらく隣国へ……?」
王宮から足早に邸へと戻ったルイは家令に当主夫妻の所在を尋ねた。
だが、運悪く二人は親戚の葬儀に出席するため今しがた邸を発ったらしい。
すぐにでもセレスタンの件を相談したいのに、どうしたものか……。
「おや? そんなところで何をしているんだ、ルイ」
「あ、デリック義兄さん……」
難しい顔で立ちすくむルイに声をかけたのは、ヨーク公爵家嫡男のデリックだった。
彼は昔からルイには友好的で、それこそ実の弟であるセレスタンよりも可愛がっている。
「義父上と義母上に相談したいことがあったのです。それも早急に……」
「そうなのか? 二人共最低一週間は戻ってこないと思うぞ」
「一週間もですか……!? そんな……どうしよう……」
青褪めるルイを見てデリックは只事ではないと判断した。
比較的冷静な義弟がここまで取り乱すのだから相当不味い事が起きたのだと。
「両親が不在の間は私にこの家の決定権が委ねられる。だから二人の代わりに私が聞こう」
「義兄さん……ありがとうございます」
「よし、では私の部屋に行こうか」
デリックの部屋に向かい、人払いを済ませるとルイが重々しい口調で話し始めた。
「実は……フランと私の新居に不審者が現れたのです。そして王宮の調査でそれがセレスタン様だと判明しました」
「は……? 何だって……!?」
どうして部屋に軟禁されているはずのセレスタンが王女の新居に現れたのか。
予想を超えた出来事にデリックは困惑を隠せない。
「……それが本当ならとんでもないことだぞ。王女の新居へ不法侵入だなんて……かなりの重罪だ。それにどうやって邸に侵入出来た? 警備の騎士位いるはずだろう?」
「いえそれが……フランの従者を装って堂々と侵入したらしいのです」
「姫様の従者を装ってだと?」
「はい。セレスタン様と共に邸に潜入した女がいるのですが、そいつがエメラルドのブローチを身に着けていた為にフランの侍女だと管理人が勘違いしたようです。フランの専属に選ばれた侍女は皆エメラルドのブローチを着けておりますので」
「ああ……確かにそう聞いたことがある。それにしても女の協力者か……まさかあいつの浮気相手がそうなのか?」
「ですが、外部の人間が軟禁されているセレスタン様に近づくことなど不可能では? 確か浮気相手は他家の令嬢なのですよね?」
「それもそうか……。だが、邸内でセレスタンに協力するような女などいるとは思えん。あいつは傲慢だから侍女にもメイドにも好かれていないしな」
「そうなのですね……。だとしたら、いったい誰がそんなことを……」
「まあ、そこはセレスタンに聞けばいい。それから二度と脱出できないよう別邸ではなく地下牢にでも繋いでおくか」
「え、地下牢に?」
廃籍予定とはいえセレスタンは未だこの家の子息である。
高貴な公爵子息を地下牢に繋ぐという行為にルイはひどく驚いた。
「むしろ最初からそうすればよかったんだ。そうすればこんなことも起きなかったのに……」
これ以上王家に不敬を働けばヨーク公爵家は終わりだ。
それを理解しているからこそデリックはセレスタンを切り捨てることに躊躇いがなかった。
「ところで、どうやってセレスタンは姫様の新居まで行けたのだろうな……」
「え? 馬車を使ったようですが……」
「ああ、違う。交通手段ではなく、あいつは姫様の領地の場所すら知らないんだ。だからどうやって知ったのかと……」
「セレスタン様はフランの婚約者だったのに、領地の場所すら知らなかったのですか……?」
「……あいつは自分が治めるべき領地にすら興味を示さなかったからな」
デリックの発言にルイはひどく驚いた。
将来自分が治めるであろう領地の場所も知ろうとしないなど有り得ない。
婿入り先で役に立つつもりはないと公言しているようなものだ。
「まあいい。そこも含めてセレスタンに聞く。とりあえずあいつは今すぐにでも地下牢に入れておくか」
デリックは従者を呼び、セレスタンを地下牢に繋ぐことを命じる。
命じられた従者は一瞬驚いたものの、当主代理である嫡男の命令に粛々と従った。
「全くあいつは問題ばかり起こして嫌になる! どうせ姫様の新居に行ったのも、やり直したいからだろうよ」
「え? やり直す、とは……?」
「もう一度姫様の婚約者の座に収まりたい、ということだよ。やり直す関係性すら築いていないというのに……図々しい奴だ」
「そんな……! フランに酷いことをしておきながら、どうして……」
「自己中心的なあいつのことだ。このまま廃籍されて平民に降るのが嫌なのだろうよ。やり直すことなど無理に決まっているだろうに、それすら理解できない愚かなあいつらしいな……」
あまりにも勝手なセレスタンの思考にルイは吐き気を催した。
自分から手放しておきながら、また縁を結びたいと考えるなど悍ましい。
どれだけ彼女を傷つければ気が済むのかと。
「失礼します! デリック様、セレスタン様が別邸から姿を消しました! 邸内のどこにも姿が見えません!」
慌てた様子で現れた従者が息を切らせながらそう告げる。
その報告を聞いたデリックは「何だと!?」と叫びながら部屋を出て行った。
青褪めた顔のルイと共に。
王宮から足早に邸へと戻ったルイは家令に当主夫妻の所在を尋ねた。
だが、運悪く二人は親戚の葬儀に出席するため今しがた邸を発ったらしい。
すぐにでもセレスタンの件を相談したいのに、どうしたものか……。
「おや? そんなところで何をしているんだ、ルイ」
「あ、デリック義兄さん……」
難しい顔で立ちすくむルイに声をかけたのは、ヨーク公爵家嫡男のデリックだった。
彼は昔からルイには友好的で、それこそ実の弟であるセレスタンよりも可愛がっている。
「義父上と義母上に相談したいことがあったのです。それも早急に……」
「そうなのか? 二人共最低一週間は戻ってこないと思うぞ」
「一週間もですか……!? そんな……どうしよう……」
青褪めるルイを見てデリックは只事ではないと判断した。
比較的冷静な義弟がここまで取り乱すのだから相当不味い事が起きたのだと。
「両親が不在の間は私にこの家の決定権が委ねられる。だから二人の代わりに私が聞こう」
「義兄さん……ありがとうございます」
「よし、では私の部屋に行こうか」
デリックの部屋に向かい、人払いを済ませるとルイが重々しい口調で話し始めた。
「実は……フランと私の新居に不審者が現れたのです。そして王宮の調査でそれがセレスタン様だと判明しました」
「は……? 何だって……!?」
どうして部屋に軟禁されているはずのセレスタンが王女の新居に現れたのか。
予想を超えた出来事にデリックは困惑を隠せない。
「……それが本当ならとんでもないことだぞ。王女の新居へ不法侵入だなんて……かなりの重罪だ。それにどうやって邸に侵入出来た? 警備の騎士位いるはずだろう?」
「いえそれが……フランの従者を装って堂々と侵入したらしいのです」
「姫様の従者を装ってだと?」
「はい。セレスタン様と共に邸に潜入した女がいるのですが、そいつがエメラルドのブローチを身に着けていた為にフランの侍女だと管理人が勘違いしたようです。フランの専属に選ばれた侍女は皆エメラルドのブローチを着けておりますので」
「ああ……確かにそう聞いたことがある。それにしても女の協力者か……まさかあいつの浮気相手がそうなのか?」
「ですが、外部の人間が軟禁されているセレスタン様に近づくことなど不可能では? 確か浮気相手は他家の令嬢なのですよね?」
「それもそうか……。だが、邸内でセレスタンに協力するような女などいるとは思えん。あいつは傲慢だから侍女にもメイドにも好かれていないしな」
「そうなのですね……。だとしたら、いったい誰がそんなことを……」
「まあ、そこはセレスタンに聞けばいい。それから二度と脱出できないよう別邸ではなく地下牢にでも繋いでおくか」
「え、地下牢に?」
廃籍予定とはいえセレスタンは未だこの家の子息である。
高貴な公爵子息を地下牢に繋ぐという行為にルイはひどく驚いた。
「むしろ最初からそうすればよかったんだ。そうすればこんなことも起きなかったのに……」
これ以上王家に不敬を働けばヨーク公爵家は終わりだ。
それを理解しているからこそデリックはセレスタンを切り捨てることに躊躇いがなかった。
「ところで、どうやってセレスタンは姫様の新居まで行けたのだろうな……」
「え? 馬車を使ったようですが……」
「ああ、違う。交通手段ではなく、あいつは姫様の領地の場所すら知らないんだ。だからどうやって知ったのかと……」
「セレスタン様はフランの婚約者だったのに、領地の場所すら知らなかったのですか……?」
「……あいつは自分が治めるべき領地にすら興味を示さなかったからな」
デリックの発言にルイはひどく驚いた。
将来自分が治めるであろう領地の場所も知ろうとしないなど有り得ない。
婿入り先で役に立つつもりはないと公言しているようなものだ。
「まあいい。そこも含めてセレスタンに聞く。とりあえずあいつは今すぐにでも地下牢に入れておくか」
デリックは従者を呼び、セレスタンを地下牢に繋ぐことを命じる。
命じられた従者は一瞬驚いたものの、当主代理である嫡男の命令に粛々と従った。
「全くあいつは問題ばかり起こして嫌になる! どうせ姫様の新居に行ったのも、やり直したいからだろうよ」
「え? やり直す、とは……?」
「もう一度姫様の婚約者の座に収まりたい、ということだよ。やり直す関係性すら築いていないというのに……図々しい奴だ」
「そんな……! フランに酷いことをしておきながら、どうして……」
「自己中心的なあいつのことだ。このまま廃籍されて平民に降るのが嫌なのだろうよ。やり直すことなど無理に決まっているだろうに、それすら理解できない愚かなあいつらしいな……」
あまりにも勝手なセレスタンの思考にルイは吐き気を催した。
自分から手放しておきながら、また縁を結びたいと考えるなど悍ましい。
どれだけ彼女を傷つければ気が済むのかと。
「失礼します! デリック様、セレスタン様が別邸から姿を消しました! 邸内のどこにも姿が見えません!」
慌てた様子で現れた従者が息を切らせながらそう告げる。
その報告を聞いたデリックは「何だと!?」と叫びながら部屋を出て行った。
青褪めた顔のルイと共に。
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