フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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崩壊の兆し①

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 セレスタンとジェーンが王女の新居から邸へと戻る道中、いきなり馬車が故障し立往生を余儀なくされた。
 馬車はどうあっても動きそうになく、今から新しい馬車を調達し邸に戻れば夜になってしまう。
 いつも食事の時間にジェーンが騎士の気を逸らし、その間にセレスタンが部屋へと戻っている為、その時間を過ぎると次の食事の時間まで部屋へは戻れない。つまりは一晩を外で過ごすことになってしまうのだ。

 セレスタンが野宿を承諾するはずもなく、ジェーンは渋々宿をとるべく奔走した。

「セレスタン様~、宿が見つかりましたので移動しましょう」

「ふん、やっと見つかったのか。随分時間をかけたものだ」

「そんなの仕方ないじゃないですか~! セレスタン様が安宿じゃ嫌だって言うからでしょう? だからわざわざ遠くまで行って見つけてきたんですよ?」

「この私が安宿で一夜を過ごせと? ふざけているのか?」

 ふざけているのはどっちだよ!?

 ジェーンは喉元まで出かかった言葉を必死に飲み込んだ。
 ここで言い争いをして目立つのは非常に困る。

「……ああ、そうですね、すみませんでした。とりあえずそちらまで移動しましょう……。新しい馬車を借りてきましたので、そちらに乗って下さい」

 顔を逸らしつつ心の籠っていない謝罪をするジェーンを気にも留めず、セレスタンはさっさと故障した馬車を降りた。

「行先を告げておりますので、このまま向かってください。アタシは徒歩で邸まで帰りますので。それとこのブローチは預かっておいてください」

 ジェーンは胸元に光るエメラルドのブローチを外し、セレスタンに手渡す。
 それを渡されたセレスタンは不可解だとばかりに首を傾げた。

「どうせそのうちに行くのだから、まだお前が持っていて構わないが?」

「いや、馬鹿言わないでくださいよ……。こんな高価な物持って女一人で歩いていたら物盗りに狙われますって……」

「ふむ、それもそうか。なら私の方で預かっておこう」

 ジェーンからエメラルドのブローチを預かったセレスタンはそのまま新しい馬車に乗り、そのまま去って行った。
 残されたジェーンは深くため息をつき、壊れた馬車にもたれかかる。

「もう……ヤダ。あの人といるとすごく疲れる……」

 我儘で傲慢、おまけに謝罪も礼も決して言わない。
 こうしてセレスタンのために駆けずり回るジェーンに対し、労いの言葉一つかけやしない。
 ジェーンはそんなセレスタンと共にいることにすっかり嫌気が差し、このまま何処かに逃げてしまいたいと思うようになってしまった。

「お嬢ちゃん、そこにいると危ねえぞ」

「あ、すいません……」

 御者に注意され、ジェーンは馬車から体を離した。

「あー……車輪が駄目になってやがる。車体の下部分にも亀裂が入ってるし……これは修理に時間がかかりそうだ」

 車輪部分が外れて傾いた馬車を眺め、御者は途方に暮れる。
 美しかった車体には細かな傷が目立ち、悲壮感を漂わせていた。

「悪路ばかり走らされたからな……こうなるのも当然か。お嬢ちゃん、俺はもう今日限りでお前さん達とは手を切らせてもらう。悪いが今後は他を当たってくれ」

「えっ!? そ、そんな……困ります!」

「そうは言ってもなぁ……。お前さん達”訳あり”だろう? 道だってわざわざ舗装されていない所を指定して走らせるし……他人の目に触れないよう必死じゃねえか。よく分からんことに巻き込まれるのは御免なんだよ」

「そ、それは……でも、この馬車じゃないと……」

「だろうな、お前さん達のような”訳あり”を乗せる上等な造りの馬車なんて滅多にない。金払いがよかったから俺も安易に引き受けちまったよ。だがな、あの偉そうな坊ちゃんがやってるのはかなり危ないことなんだろう?」

「え……!? い、いや、その……それは……」

「いや、やっぱり言わなくていい。俺も面倒事に巻き込まれるのは御免だからお前さん達のことを誰にも口外するつもりはない。だがこれ以上関わるのは嫌なんだ。不味い事になる前にここで手を切らせてもらう」

「そんな……! けど、それじゃセレスタン様が……」

「あの偉そうな坊ちゃんが怒るかもしれないって? まあ、気位がすげえ高そうだから、その辺の馬車は嫌がりそうだよな。さっきお前さんが調達してきた馬車にも不満そうな顔をしていたし。でもな、それは俺には関係のない事だ。ただの客でしかないお前さん達の為に人生はかけられねえよ」

「そこを何とか……! お金ならもっと払いますから、お願い!」

「悪いがいくら金を積まれても無理なものは無理だ。俺くらいの年になるとな、引き際ってのが分かるんだよ。これ以上深入りすれば命すら危うくなるかもしれないってのがな。……お嬢ちゃんもな、悪い事は言わねえからあんな男との縁は切った方がいい。あれは関わる人間を不幸にするようなタイプの男だ。自分さえ良ければいいから無自覚に他人を不幸に落とす。さっさと逃げた方が身のためだぞ?」

「そ、そんなこと言われても……」

 中年の御者は年長者として年若いジェーンを諭そうとする。
 だがジェーンだってそれ位分かっているし、今更後にだって引けない。

「もうすぐ日も暮れるってのに、お嬢ちゃんみたいな若い女を平気で歩かせるような屑だぞ? 悪いことは言わない、さっさと離れた方が身のためだ」

「そんなの……分かっているわよ……」

 離れられるものならさっさと離れたい。
 でも、そんなことをすれば自分が共犯者であることが白日の下に晒されてしまう。

 今更手を引くなんてことは出来ない。
 ジェーンは自分に言い聞かせるように何度もそう心の中で呟いた。
 
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