フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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崩壊の兆し②

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「疲れた~……。やっとお邸が見えてきたわ……」

 見慣れた邸の外観が目に入り、ジェーンは安堵の息を吐く。

「ん……? あれ? そういえばアタシ以外がセレスタン様の部屋に食事を運んだりしたら……マズくない!? 逃げ出したことがバレちゃう……!!」

 考えの足りないジェーンは失念していた。
 自分以外が空となった部屋に入ればセレスタンがいないことが発覚してしまう。

「マズい……さっさと帰らないと……!!」

 すでに日は沈みかけており、もうすぐ夜になってしまう。
 セレスタンの夕食を運ぶ係を他の誰かに任せるわけにはいかない、とジェーンは疲れているのも忘れて走り出した。



「はあ……よかった、間に合ったわ」

 なんとか夜になる前に帰ってこれたと安堵するジェーンだが、すぐに邸の異様な空気に気付く。

(え? 何? 何なの……!?)

 別邸の周辺を沢山の騎士が徘徊している。
 彼等に何かを探すような素振りにジェーンはゾッと血の気が引いた。

「あ、いた! おい、嬢ちゃん、ちょっとこっちへ来てくれ!」

 唖然とするジェーンの手をいきなり掴み、物陰に連れ込んだのはセレスタンの部屋の前を警備している騎士だった。

「痛っ!? ちょっと何なのよ、いきなり!」

「すまん、こっちも急いでいるんだ! セレスタン様が部屋からいなくなったんだよ!」

 騎士の発言にジェーンは驚き、喉をヒュッと鳴らす。

「い、いなくなったって……どういうこと?」

 必死に平静を装うジェーンだが、その顔色は悪く脂汗が流れている。しかし、騎士もかなり焦っているのかジェーンの不自然な様子に気付きもしなかった。

「どういうことか俺の方が聞きたいよ! 部屋中探しても何処にもいないんだ! 昼に食事を運んだ時は中にいたよな!?」

「も、もちろんいたわよ! アタシ……ちゃんと見たもの!!」

「そうだよな!? じゃあ、逃げたのはその後か……。ああもう……本当に面倒ばかり起こしてくれる!」

 頭を掻き毟り怒りを露わにする騎士とは反対に、ジェーンはその場で固まって動けなかった。

「今は騎士が総出で捜索に当たっているが……見つからなければ見張りの俺達や嬢ちゃんが責任とらされる!」

「せ、責任って……まさか、クビ、とか……?」

「いや、真面目にやってったって言えばクビにはならないだろう……奥様も旦那様も甘いからな。だがサボったり、喋っていたことがバレたらクビになるかもしれねえ……! あんな馬鹿で我儘なボンボンのせいでクビなんて御免だ! 頼む嬢ちゃん、俺達がサボっていたことは黙っておいてくれ! 俺達も嬢ちゃんがセレスタン様といつも喋っていたことを黙っておいてやるから!」

「えっ!? え、ええ……分かったわ。アタシが黙っていれば、あなた達も黙ってくれるのね?」

「勿論だ、約束する。あんな男のために人生棒に振るなんて御免だからな。だいたい……平民に降ることが決まっているような奴が逃げたって、別にいいじゃねえか……。市井に行くのが早いか遅いかだろう? なあ、嬢ちゃんもそう思うよな?」

「へっ? う、うん……アタシもそう思うわ!」

「だろう? あんな奴の為に俺等が罰を受けるなんて冗談じゃねえっての……」

 ジェーンは騎士の反応に目を見開いて驚いた。
 てっきり”セレスタンを逃がしたのはお前のせいだ”と責められるのかと思いきや、隠蔽を持ちかけてくるなんて予想外だ。

 おそらく、この騎士はセレスタンが逃げたことを大騒ぎする必要がないと本気で思っているのだ。
 軟禁中の子息が逃げ出したなんて大ごとなのだが、どうせ市井に降る予定の奴だと見下している。

 この邸の使用人はどうも忠義心の薄い者が多い。
 主人への忠義よりも己の保身を図るような人間ばかりだ。

 だがそれはむしろジェーンにとっては好都合。これならば自分がセレスタンを逃がしたと気づかれないはず。

(そうよ……アタシが逃がしたっていう証拠は何処にもないんだから、知らないフリをすれば大丈夫よね)

「それじゃ話もついたことだし、行こうか」

「へ? 行くって何処に?」

「何処ってセレスタン様がいた部屋だよ」

「え? え……? どうして?」

「そこにデリック様とルイ様がいらっしゃるからだ。セレスタン様と関わった俺等に話を聞きたいと仰っている」

「え!? ルイが?」

 会いたくてたまらなかった愛しい人に会える。
 こんな状況にも関わらずジェーンの頭はルイ一色となった。

「……おいおい、仕える家の若様を呼び捨てにするのは不味いだろう。ちゃんと敬称をつけろよ」

「いいのよ、アタシとルイの仲だもの!」

 騎士の忠告を無視し、ジェーンは期待で胸を躍らせながら軽い足取りで部屋へと向かう。
 騒動の原因が自分にあるということすら忘れて……。
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