フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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誘導

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「セレスタンの浮気相手が共犯者である可能性は薄いようだ」

 報告書を手にしたデリックは落胆したように呟いた。

「奴の浮気相手は王宮を追い出された後、生家へと戻ったのだがそのまま娼館に売られたそうだ」

 話を黙って聞いていたルイは”娼館”という単語にひどく驚いた。

「え? 確か貴族令嬢でしたよね? それなのに娼館に……?」

「どうやらこの女は昔、当主である姉の夫を奪ったらしい。それを恨んだ姉が出戻った妹に報復したということだ」

「姉の夫を……? なるほど、元々奪い癖がある人だったのですね。それで報復として娼婦に落とされたと」

「そういうことだ。人から奪いたがるほどの男好きにはピッタリの末路だな。だが、娼婦となると自由に動くのは難しい。彼女達は商品だからな、基本は店にいて客をとらねばならない」

「つまりその女性がこの邸に来ることはほぼ不可能ということですね?」

「ああ、そうだ。しかしそうなると誰が共犯者なのか見当もつかない。話にあったエメラルドのブローチを身に着けた女というのは一体……」

「義兄さん、それなのですが……」

 ルイはデリックに共犯者の正体についての考えを告げる。
 すると彼は眉をしかめ、怪訝な表情を浮かべた。

「あの下女が共犯者だと? 馬鹿な……セレスタンに協力して何の得になるというんだ。それとも脅されているのか?」

「はっきりとした理由は不明です。ですが、セレスタン様の浮気相手が共犯者でないとすれば、残る容疑者はその下女……ジェーンしかおりません」

「お前どうして下女の名を知っている? もしや……その下女はお前が連れてきた使用人の一人か?」

 ルイが頷くとデリックは顎に手をかけ「そういえば」と呟く。

「もしやその女は以前姫様に無礼を働いた侍女か? 母上が激怒して下女に降格させたという……」

「はい、そうです」

「そうか……下女に降格ではなく解雇にすべきだったな。やはり母上は甘い」

 デリックが深くため息をついたその時、扉を叩く音が部屋に響いた。

「失礼します。ルイ様、急ぎでお伝えしたいことがございます」

 ルイはデリックに目配せし、入室の許可をしてもいいかを確認する。
 デリックが扉の外に向かって「入れ」と告げると、下男の服を身に着けたトムが扉を開けて入ってきた。

「お話し中申し訳ございません。ルイ様、例の者に動きがありました」

「本当か!? その者は今何処へ?」

「はい、邸の外に向かいました。今は監視の者がそれを追っています」

「そうか……! これでやっと……」

 感極まったようにルイは拳を握り、デリックの方へ顔を向ける。

「義兄さん、上手くいけばセレスタン様の居場所が分かるかもしれません」

「……どういうことだ?」

「実はここにいるトムに協力してもらい、ジェーンが自らセレスタン様の元へと行くよう誘導したのです。もしジェーンがセレスタン様の共犯者であるのなら、彼の居場所を知るのは彼女のみ。なのでジェーンに監視を付け、邸の外に出るようであれば追跡するように命じました」

「なるほど……共犯者であれば必ず接触するはずだしな。それにしてもどうやって誘導をした?」

「ここにいるトムは元々従僕の職に就いているのですが、今だけは下男の服を着させてジェーンの近くに置きました。そうすれば彼女は自分の仕事をトムに押し付け、その隙にセレスタン様の元に向かうと思ったからです。そして今回狙い通りとなりました。そうだろう、トム?」

 ルイに話を振られたトムは恭しく頭を下げて肯定の意を示す。
 下男の服を身に着けているが、お辞儀の仕方は礼儀作法を学んだ者のそれだった。

「はい、私がジェーンに『下男に降格した』と告げると、彼女は嬉々として自らの仕事を押し付けました。そしてを聞かせたところ、驚愕した様子で邸の外へと向かいました」

「どうしようもない奴だな、自分の仕事を他人に押し付けて……。それでその情報とは何だ?」

「はい、週末に王女様のがあるというものです」

「前泊り……? ? 初めて聞いたぞ、そんな言葉は……」

 トムの口から告げられた言葉にデリックは訝し気な顔を見せた。
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