58 / 84
トム
しおりを挟む
「ルイ様、少々お聞きしたいことがございます……」
ヨーク公爵家の従僕を務める昔馴染みのトムにそう告げられ、そのただならぬ様子にルイは訝しんだ。
「トム? 顔色が悪いぞ、どうしたんだ?」
人払いを済ませた部屋でルイはそう切り出した。
するとトムは冷や汗を流し、搾り取るような声を出す。
「姫様の新居に男女二人組の侵入者が現れたと耳にしました……。その侵入者の正体は分かったのですか?」
「ああ、男の侵入者はハッキリしたが女の方はまだ分かっていない」
「そう……ですか。実は……その女の方に心当たりがありまして……」
青褪めた顔でトムはルイを見つめ、意を決したように呟いた。
「もしかしたら……ジェーンがその侵入者かもしれないのです」
「ジェーンが? どうしてそう思うんだ?」
消去法でジェーンしか該当者がいないと判断したルイと違い、トムは何かを知っている。
そう確信したルイはトムの発言を促した。
「それは……僕がジェーンに姫様の新居の住所を教えてしまったからです……! しつこく迫られて、つい言ってしまって……本当に申し訳ございません!」
「住所を? そうだったのか……」
王女が治める領地の場所すら知らないセレスタンがどうして新居の場所を知ったのか。
今のトムの発言でルイはそれを理解した。
(なるほど、ジェーンが新居の場所をセレスタン様に教えたのか……)
「トム、とんでもないことをしてくれたものだな」
ルイの叱責にトムは体をビクッと大きく震わせた。
「も、申し訳ございません……! どうか解雇だけは、解雇だけはご勘弁を……!」
内部情報を漏らした使用人など何処にも雇ってもらえない。
それを理解しているからこそトムは必死に縋りついた。
「それなら一つ頼みたいことがある。それを聞いてくれるのなら、君がジェーンに情報を漏らしたことを黙っておいてやろう」
「あ、ありがとうございます……! 解雇を免れるのなら何でもします!」
「そうか、ではジェーンからセレスタン様の居場所を聞き出してくれ」
「はい……? え? セレスタン様の居場所? ジェーンはセレスタン様が何処にいらっしゃるかを知っているのですか?」
「おそらくな。私はセレスタン様を逃がした犯人がジェーンだと疑っている。だがいくら問い詰めようと”知らない”としか答えない。そこで君に彼の人の居場所を聞き出してほしい」
「ええ!? ジェーンがセレスタン様を……? そんな、あいつはそんなことまで……」
まさかそんな犯罪めいたことにまで手を染めるとは。
トムはひどく衝撃を受け言葉を失う。
「驚くのも無理はない。私も最初は信じたくなかったよ……。何でそんな犯罪めいたことをしてしまったんだか……」
「ルイ様……おそらくですが、ジェーンは貴方と姫様の仲を邪魔するためにそのようなことに手を染めたのかと。ジェーンは昔から貴方のことを好いておりましたので……」
「……それは知っていた。だが私はヨーク公爵家の利益となる相手と結婚をすると決めていたしな。どうあってもジェーンを選ぶことはない。それを理解しているものかと……」
「いえ、ジェーンはそういう暗黙の了解を理解する能力は低いかと。とはいえ、使用人の身で仕える主人と結ばれるなんて無謀だと普通は分かるものです」
「その普通が分かっていなかったわけだな……」
なんとなくそうではないかと思っていたが、ジェーンがやらかした原因が自分にあった。
ルイはそれを自覚し、もっと早い段階で突き放しておけばよかったと悔やむ。
「ルイ様が落ち込むことはありません。ジェーンが身勝手な想いを暴走させただけですから」
「うん……ありがとう、トム」
「いえ、必ずジェーンから情報を引き出して参りますので、お任せください」
恭しく礼をとるトムにルイは力なく笑った。
ヨーク公爵家の従僕を務める昔馴染みのトムにそう告げられ、そのただならぬ様子にルイは訝しんだ。
「トム? 顔色が悪いぞ、どうしたんだ?」
人払いを済ませた部屋でルイはそう切り出した。
するとトムは冷や汗を流し、搾り取るような声を出す。
「姫様の新居に男女二人組の侵入者が現れたと耳にしました……。その侵入者の正体は分かったのですか?」
「ああ、男の侵入者はハッキリしたが女の方はまだ分かっていない」
「そう……ですか。実は……その女の方に心当たりがありまして……」
青褪めた顔でトムはルイを見つめ、意を決したように呟いた。
「もしかしたら……ジェーンがその侵入者かもしれないのです」
「ジェーンが? どうしてそう思うんだ?」
消去法でジェーンしか該当者がいないと判断したルイと違い、トムは何かを知っている。
そう確信したルイはトムの発言を促した。
「それは……僕がジェーンに姫様の新居の住所を教えてしまったからです……! しつこく迫られて、つい言ってしまって……本当に申し訳ございません!」
「住所を? そうだったのか……」
王女が治める領地の場所すら知らないセレスタンがどうして新居の場所を知ったのか。
今のトムの発言でルイはそれを理解した。
(なるほど、ジェーンが新居の場所をセレスタン様に教えたのか……)
「トム、とんでもないことをしてくれたものだな」
ルイの叱責にトムは体をビクッと大きく震わせた。
「も、申し訳ございません……! どうか解雇だけは、解雇だけはご勘弁を……!」
内部情報を漏らした使用人など何処にも雇ってもらえない。
それを理解しているからこそトムは必死に縋りついた。
「それなら一つ頼みたいことがある。それを聞いてくれるのなら、君がジェーンに情報を漏らしたことを黙っておいてやろう」
「あ、ありがとうございます……! 解雇を免れるのなら何でもします!」
「そうか、ではジェーンからセレスタン様の居場所を聞き出してくれ」
「はい……? え? セレスタン様の居場所? ジェーンはセレスタン様が何処にいらっしゃるかを知っているのですか?」
「おそらくな。私はセレスタン様を逃がした犯人がジェーンだと疑っている。だがいくら問い詰めようと”知らない”としか答えない。そこで君に彼の人の居場所を聞き出してほしい」
「ええ!? ジェーンがセレスタン様を……? そんな、あいつはそんなことまで……」
まさかそんな犯罪めいたことにまで手を染めるとは。
トムはひどく衝撃を受け言葉を失う。
「驚くのも無理はない。私も最初は信じたくなかったよ……。何でそんな犯罪めいたことをしてしまったんだか……」
「ルイ様……おそらくですが、ジェーンは貴方と姫様の仲を邪魔するためにそのようなことに手を染めたのかと。ジェーンは昔から貴方のことを好いておりましたので……」
「……それは知っていた。だが私はヨーク公爵家の利益となる相手と結婚をすると決めていたしな。どうあってもジェーンを選ぶことはない。それを理解しているものかと……」
「いえ、ジェーンはそういう暗黙の了解を理解する能力は低いかと。とはいえ、使用人の身で仕える主人と結ばれるなんて無謀だと普通は分かるものです」
「その普通が分かっていなかったわけだな……」
なんとなくそうではないかと思っていたが、ジェーンがやらかした原因が自分にあった。
ルイはそれを自覚し、もっと早い段階で突き放しておけばよかったと悔やむ。
「ルイ様が落ち込むことはありません。ジェーンが身勝手な想いを暴走させただけですから」
「うん……ありがとう、トム」
「いえ、必ずジェーンから情報を引き出して参りますので、お任せください」
恭しく礼をとるトムにルイは力なく笑った。
658
あなたにおすすめの小説
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる