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罠②
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窓から入る月光が暗い部屋を明るく照らす。
今宵は満月。無垢な白い光が地上を煌々と照らし、燭台に火を灯さずとも周囲がはっきりと見える。
時刻はすでに夜半を過ぎ、部屋の中には一人の若い女性が眠りについていた。
女性が持つ眩い銀糸の髪は月明りに照らされ更に神秘性を増し、シーツの海へと放たれている。
月の女神が舞い降りたかと思うほど美しく、触れることすら躊躇うほど神々しい。
「ふん、呑気なものだ」
静かな部屋に不躾な声が響き、汚らわしい手が神聖な輝きを放つ髪を荒々しく掴む。
「フランチェスカ、今からこの私がお前に情けをかけてやる。光栄だと咽び泣くがいいぞ……」
乱暴な手つきで銀の髪を上にあげ、声の主がその顔を拝もうとしたその瞬間だった。
「は……? え? ど、どういうことだ!?」
掴んだ髪のみがするりと持ち上がり、だらんと垂れ下がる。
声の主は抵抗なく抜けた銀の髪に慌てふためくが、次の瞬間腹にいきなり拳が飛んできた。
「ぐわっ……! な、なんだ……なにが……」
腹の痛みに前のめりになりながらも、声の主は事態を把握しようと顔をあげる。
するとそこには銀の髪の姫、フランチェスカではない人物がこちらを見据えていた。
「……とんだ下衆ですね、セレスタン様。女性にこんな無礼を働こうとするなんて……軽蔑しますよ」
「お前っ……ルイか!? どうしてここに?」
「どうしても何も、フランに薄汚い手を近づけさせないためですよ。……それにしてもまさか髪を掴んで持ち上げるなんて……紳士としてあるまじき行為です」
金の髪を持つ少年、ルイは侮蔑の表情を声の主に向けた。
その殺意の籠った青い瞳に声の主である男、セレスタンは腰を抜かして後ずさる。
「フランチェスカに近づけない為だと!? ど、どうしてお前がそれを……」
「どうして貴方がしようとしていることを、私が知っているか……そんなの、教えてもらったからに決まっているじゃないですか」
「は? 教えてもらった、だと……?」
それを聞いたセレスタンは視線を自分の足元の方へと向ける。
その視線の意味に気付いたルイは「違いますよ」とセレスタンの考えを否定した。
「床下にいる貴方の共犯者から教えてもらったのではありません」
「なっ……!?」
ジェーンがルイに情報を漏らしたと疑ったセレスタンだが、その考えは即座に打ち砕かれた。
おまけに床下にジェーンが潜んでいることも見破られ、混乱のあまりに一瞬思考が停止する。
「あ、先に言っておきますが逃げようとしても無駄ですよ? 邸の入り口と隠し扉の入り口の前には帯剣した王宮の騎士が数名おります。ついでに言うと邸の周囲も張っておりますので、実質逃げ場などありません」
「はあ? 王宮の騎士だと……?」
「はい。ここまで言えば分かるのではないですか? 私に貴方がしようとしていることを教えてくれた人物が誰かを……」
不敵に笑うルイを見てセレスタンは冷や汗を流した。
「ま、まさか……、そんな、どうして……」
セレスタンが唖然と呟くいた瞬間、ギイッと音を立てて寝室の扉が開いた。
「御機嫌よう、セレスタン様。今宵はいい夜ですわね……」
堂々とした威厳のある佇まい、月光に照らされ神秘的に輝く美貌。
国の頂点たる一族の姫、フランチェスカが数多の侍女を引き連れ悠然と微笑んでいた。
今宵は満月。無垢な白い光が地上を煌々と照らし、燭台に火を灯さずとも周囲がはっきりと見える。
時刻はすでに夜半を過ぎ、部屋の中には一人の若い女性が眠りについていた。
女性が持つ眩い銀糸の髪は月明りに照らされ更に神秘性を増し、シーツの海へと放たれている。
月の女神が舞い降りたかと思うほど美しく、触れることすら躊躇うほど神々しい。
「ふん、呑気なものだ」
静かな部屋に不躾な声が響き、汚らわしい手が神聖な輝きを放つ髪を荒々しく掴む。
「フランチェスカ、今からこの私がお前に情けをかけてやる。光栄だと咽び泣くがいいぞ……」
乱暴な手つきで銀の髪を上にあげ、声の主がその顔を拝もうとしたその瞬間だった。
「は……? え? ど、どういうことだ!?」
掴んだ髪のみがするりと持ち上がり、だらんと垂れ下がる。
声の主は抵抗なく抜けた銀の髪に慌てふためくが、次の瞬間腹にいきなり拳が飛んできた。
「ぐわっ……! な、なんだ……なにが……」
腹の痛みに前のめりになりながらも、声の主は事態を把握しようと顔をあげる。
するとそこには銀の髪の姫、フランチェスカではない人物がこちらを見据えていた。
「……とんだ下衆ですね、セレスタン様。女性にこんな無礼を働こうとするなんて……軽蔑しますよ」
「お前っ……ルイか!? どうしてここに?」
「どうしても何も、フランに薄汚い手を近づけさせないためですよ。……それにしてもまさか髪を掴んで持ち上げるなんて……紳士としてあるまじき行為です」
金の髪を持つ少年、ルイは侮蔑の表情を声の主に向けた。
その殺意の籠った青い瞳に声の主である男、セレスタンは腰を抜かして後ずさる。
「フランチェスカに近づけない為だと!? ど、どうしてお前がそれを……」
「どうして貴方がしようとしていることを、私が知っているか……そんなの、教えてもらったからに決まっているじゃないですか」
「は? 教えてもらった、だと……?」
それを聞いたセレスタンは視線を自分の足元の方へと向ける。
その視線の意味に気付いたルイは「違いますよ」とセレスタンの考えを否定した。
「床下にいる貴方の共犯者から教えてもらったのではありません」
「なっ……!?」
ジェーンがルイに情報を漏らしたと疑ったセレスタンだが、その考えは即座に打ち砕かれた。
おまけに床下にジェーンが潜んでいることも見破られ、混乱のあまりに一瞬思考が停止する。
「あ、先に言っておきますが逃げようとしても無駄ですよ? 邸の入り口と隠し扉の入り口の前には帯剣した王宮の騎士が数名おります。ついでに言うと邸の周囲も張っておりますので、実質逃げ場などありません」
「はあ? 王宮の騎士だと……?」
「はい。ここまで言えば分かるのではないですか? 私に貴方がしようとしていることを教えてくれた人物が誰かを……」
不敵に笑うルイを見てセレスタンは冷や汗を流した。
「ま、まさか……、そんな、どうして……」
セレスタンが唖然と呟くいた瞬間、ギイッと音を立てて寝室の扉が開いた。
「御機嫌よう、セレスタン様。今宵はいい夜ですわね……」
堂々とした威厳のある佇まい、月光に照らされ神秘的に輝く美貌。
国の頂点たる一族の姫、フランチェスカが数多の侍女を引き連れ悠然と微笑んでいた。
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