王妃となったアンゼリカ

わらびもち

文字の大きさ
57 / 109

ハウンド伯爵家では①

しおりを挟む
 ハウンド伯爵家では当主が今後の事について頭を悩ませていた。。

「なんでまたあの家が関わってくるんだ……。もう二度と関わりたくないと思っていたのに……!」
 
 今から遡ること数時間前、突然娘が上等な二頭立ての馬車に送られてきた。
 驚くことにそれにはグリフォン公爵家の家紋が施されており、それを見た瞬間卒倒しそうになった。

『主人の命令により、こちらのお嬢様をお送りさせていただきました』

 豪奢な馬車から降りてきたのはお仕着せを身に纏った侍女だった。
 
 その無表情な顔は伯爵がこの世で最も苦手とするを彷彿させ、背筋がゾワリと粟立つ。

 無表情な侍女に手を引かれて降りてきた娘はこれまた一目で高価だと分かるドレスを纏っており、何が何だか分からない状況に伯爵は声も出なかった。

『こちらのお嬢様が、やむを得ず制圧させて頂きましたところ服が破れてしまいました。ですので、それを哀れに思った主人がお嬢様にご自分の着替えを差し上げましたの。これは返さなくてもよろしいと申しておりました』

 凶器を持って暴れていた、と聞いた瞬間伯爵の喉がヒュッと鳴った。
 
 他家で凶器を持って暴れるなどもってのほかだ。しかもこちらよりも格上の公爵家。いくら元婚約者の家とはいえ、とうに縁は切れているのだ。切れていなくとも不味い状況ではあるが。

 しかも、娘が着ているドレスはどう見ても若い女性向けのもの。となると、侍女の言う“主人”とはグリフォン公爵家の令嬢を指す。

 伯爵が最も苦手としている人物、グリフォン公爵令嬢アンゼリカまでもが関わっていると知り、気を失いそうになった。

 慌てて侍女に深く礼を言い、後で正式にグリフォン公爵家へ伺わせて頂くと主人への言伝を頼んだ。

 のに、どうしてこうなるんだと気が遠くなる。だが現実逃避している場合ではない。どうしてサラマンドラ家でそんな真似をしたのか娘を問いただすと「あの女が悪いのよ!」と顔面蒼白で涙を零しながら喚いた。

 どうやら娘はサラマンドラ公子との婚約解消に納得がいかなかったので、このような騒動を起こしたようだ。

 伯爵は娘の余りにも愚かで短絡的な思考に頭痛を覚え、衝動のまま頬に平手打ちをかました。父親に殴られてショックを受けた娘は「ひどい、お父様……!」と子供のように泣きじゃくった。泣きたいのはこちらの方である。

『この愚か者が……! サラマンドラ家に凶器を持ち込んだ挙句に暴れただと!? お前はこの家を潰したいのか!!』

『家を潰す!? どうしてそんな話になるのよ! 私はただ、レイモンド様との仲を邪魔するミラージュを排除しようとしただけよ!』

『サラマンドラ嬢を排除だと!? お前は自分が何を言っているか分かっているのか!!』

 娘がいささか我欲の強い性質を持っていることは知っていた。
 だが、意味の分からない思考で元婚約者の妹に危害を加えようとするほどだとは理解していなかった。

 知っていたのなら、初めから公爵家と婚約などさせなかったのに……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...