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恐ろしい少女
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ハウンド伯爵がどうしてここまでアンゼリカを敬遠するのかというと、それは伯爵家が所有する店をかなり強引なやり方で買収されたからである。
そこは王都の中心街にある高級菓子屋で、王侯貴族御用達の有名店であった。
伯爵ご自慢の店だったのだが、ある日いきなりアンゼリカによって買収の話を持ち掛けられたのである。
伯爵は当然断った。だが、何の策もなく交渉に臨むようなアンゼリカではない。
彼女は悪魔のように微笑み、とんでもない爆弾を投下した。
『わたくしの提案を受け入れてくださるのでしたら……こちらを全て無かったことに出来ますよ?』
彼女が伯爵へと差し出したのは伯爵家の脱税の証拠。
そこには先代の頃より長年続けてきた不正の証が綺麗に纏められてあった。
しかもどこから仕入れたのか過去に伯爵自身が提出した納税に関する書類までもが添付されている。
『………………っ!!? ど、どこからこれを……?』
『それは秘密です。ですが、これを王家へと提出しましたら……どうなるかしら?』
『どっ……どうなるって……そんなの……!!』
爵位剥奪は免れないどころか、下手すると一族全員流刑の罰を下されるかもしれない。それを想像した伯爵は全身から冷や汗が湧き出た。
『ちなみに、代金はこのくらい支払わせて頂きます』
『こんなに……!? いや……これくらい資金があるなら何もあの店にこだわらなくとも、新しく店を出せばよろしいのでは?』
アンゼリカが提示した金額は新たに店を数件出せそうなほど高額だった。
これだけあるのなら、何も店を買収しなくとも自分で店を出した方が早い。
『それでは意味がありませんの。あの店だから欲しいのですよ……』
ゾクリと背中が粟立つほどの妖艶な笑み。
自分の娘よりも年若い少女が放つ色香は恐ろしいまでに魅力的だった。
恐怖すら覚えるほどに……。
『それで、どうしますか? わたくしにあの店を売るか、売らないか……この場で決めてくださいな』
悪魔のような少女の囁きに伯爵は苦渋の決断を下す。
こんな脅迫まがいの交渉では頷く以外に選択肢などない。
こうして伯爵は王都の菓子店を手放した。
『では、これで売買成立ですね。伯爵家の脱税の証拠は綺麗さっぱり消しておきますので、どうぞご安心を』
そう言ってアンゼリカは本当に脱税の証拠を消してしまった。
これならばたとえ王家の監査が入ろうとも脱税があったことすらみつけられないだろう。
だが、逆に言えば証拠は全てアンゼリカが握っていることになる。
伯爵は一生逆らえないほどの弱みを握られたことに恐怖した。
これ以降、伯爵にとってアンゼリカ及びグリフォン公爵家は恐怖の対象となる。
こんな恐ろしい少女が王妃となるのか、と考えるとゾッとした。
だがそれと同時にこれくらい強かでえげつない方が王妃となるに相応しいのではないかとも思った。
今の王太子は救いようがないほどの愚か者だという噂が社交界に出回っている。
実際、身分・家柄共に申し分のないサラマンドラ家の令嬢を捨てて下位貴族の令嬢に夢中になっているというではないか。しかもそれはこの恐ろしい少女と婚約してからも変わらないのだとか。
自分が王太子の立場であったのなら、この少女が恐ろしくてそんな真似など出来るわけもない。だって何をされるか分からないから。
そんな簡単なことすら分からないなんて、あの王太子が即位したらこの国は大丈夫だろうかと伯爵は漠然とした不安を感じた。それはもしかしたら王家もそれを感じているからこそ、こんな魔王みたいな少女を王太子の婚約者に選んだのではないか。彼女であれば大抵の苦難は簡単にこなせてしまえるだろう。
でも、こんな恐ろしい女を妻にするなど自分なら御免だ、と伯爵は少しだけ王太子に同情するのであった。
そこは王都の中心街にある高級菓子屋で、王侯貴族御用達の有名店であった。
伯爵ご自慢の店だったのだが、ある日いきなりアンゼリカによって買収の話を持ち掛けられたのである。
伯爵は当然断った。だが、何の策もなく交渉に臨むようなアンゼリカではない。
彼女は悪魔のように微笑み、とんでもない爆弾を投下した。
『わたくしの提案を受け入れてくださるのでしたら……こちらを全て無かったことに出来ますよ?』
彼女が伯爵へと差し出したのは伯爵家の脱税の証拠。
そこには先代の頃より長年続けてきた不正の証が綺麗に纏められてあった。
しかもどこから仕入れたのか過去に伯爵自身が提出した納税に関する書類までもが添付されている。
『………………っ!!? ど、どこからこれを……?』
『それは秘密です。ですが、これを王家へと提出しましたら……どうなるかしら?』
『どっ……どうなるって……そんなの……!!』
爵位剥奪は免れないどころか、下手すると一族全員流刑の罰を下されるかもしれない。それを想像した伯爵は全身から冷や汗が湧き出た。
『ちなみに、代金はこのくらい支払わせて頂きます』
『こんなに……!? いや……これくらい資金があるなら何もあの店にこだわらなくとも、新しく店を出せばよろしいのでは?』
アンゼリカが提示した金額は新たに店を数件出せそうなほど高額だった。
これだけあるのなら、何も店を買収しなくとも自分で店を出した方が早い。
『それでは意味がありませんの。あの店だから欲しいのですよ……』
ゾクリと背中が粟立つほどの妖艶な笑み。
自分の娘よりも年若い少女が放つ色香は恐ろしいまでに魅力的だった。
恐怖すら覚えるほどに……。
『それで、どうしますか? わたくしにあの店を売るか、売らないか……この場で決めてくださいな』
悪魔のような少女の囁きに伯爵は苦渋の決断を下す。
こんな脅迫まがいの交渉では頷く以外に選択肢などない。
こうして伯爵は王都の菓子店を手放した。
『では、これで売買成立ですね。伯爵家の脱税の証拠は綺麗さっぱり消しておきますので、どうぞご安心を』
そう言ってアンゼリカは本当に脱税の証拠を消してしまった。
これならばたとえ王家の監査が入ろうとも脱税があったことすらみつけられないだろう。
だが、逆に言えば証拠は全てアンゼリカが握っていることになる。
伯爵は一生逆らえないほどの弱みを握られたことに恐怖した。
これ以降、伯爵にとってアンゼリカ及びグリフォン公爵家は恐怖の対象となる。
こんな恐ろしい少女が王妃となるのか、と考えるとゾッとした。
だがそれと同時にこれくらい強かでえげつない方が王妃となるに相応しいのではないかとも思った。
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自分が王太子の立場であったのなら、この少女が恐ろしくてそんな真似など出来るわけもない。だって何をされるか分からないから。
そんな簡単なことすら分からないなんて、あの王太子が即位したらこの国は大丈夫だろうかと伯爵は漠然とした不安を感じた。それはもしかしたら王家もそれを感じているからこそ、こんな魔王みたいな少女を王太子の婚約者に選んだのではないか。彼女であれば大抵の苦難は簡単にこなせてしまえるだろう。
でも、こんな恐ろしい女を妻にするなど自分なら御免だ、と伯爵は少しだけ王太子に同情するのであった。
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