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王太子の襲来②
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「この世は殿下の都合がいいように回っていないのですよ。臣下も臣下の家も貴方の望みを叶えるために存在するわけではない。貴方はそれが分かっていません」
「な……! 無礼だぞ!!」
「私が無礼なのであれば、殿下は失礼ですね。一度捨てた婚約者にみっともなく縋りつき、今の婚約者すら捨てようとしている。そんなことを続けていればいつかはご自分が捨てられてしまうという危機感はないのですか?」
「捨てられるだと!? 私が誰に捨てられるというんだ!」
「貴方のお父君、国王陛下にですよ。サラマンドラ家のみならず、グリフォン公爵家とも縁を切った殿下をそのままにしておくことなど出来ないでしょう?」
「は……? それはどういう意味だ?」
「殿下から王太子の座を剥奪する可能性は高い、ということですよ。流石に二公爵家を敵に回した王子を次代の王に据えるなど無理ですから」
「私から王太子の座を剥奪するだと!? はっ! 何を馬鹿なことを……私以外に王太子が務まる者などいない! 何故なら私は国王より生まれた由緒正しき王子なのだぞ!」
「……本気で仰っているのですか、それ?」
この王子は国王の子というだけで王位を継げるのだと信じ切っている。
このぶんだと何の為に王位継承権があるのかも理解していないだろう。
(どういった教育を受ければこんな勘違いが出来る? 最高峰の教育を受けているであろう殿下がどうしてこんな阿呆な思考をしているんだ……?)
いくら国王の子といえども、二公爵家と敵対するような愚王子を玉座に据えてしまえば内乱が起きてもおかしくない。どうしてこの王太子はそれが理解できないのか、レイモンドは不思議で仕方なかった。
「何の後ろ盾もなく王になれると本気で思っていらっしゃるのですか?」
「何を言う! 後ろ盾にはサラマンドラ家がなればよいだろう? ミラージュが王妃になるのだから、その生家が後ろ盾を担うのは当然だ!」
堂々巡りの会話にレイモンドは頭を抱えた。
この王太子は自分がこの世で最も価値のある存在だと本気で思っているようだ。だから何をしても周囲は自分の為に動いてくれるものだと信じ込んでいる。
ここまで独善的で歪んだ性格なのは生まれつきか、もしくは幼少期に誰かがそう育てたのか。それは分からないが、このままいけばこの王太子は確実に自滅するであろうことは分かる。
「ミラージュを再度貴方の婚約者になどさせません。ですから当家が後ろ盾になることもありません。分かったならさっさとお帰りください」
こちらが真面目に話をしたとしても、この王太子は聞かないし理解しようともしない。妹はこんな猿よりも話が通じない男と婚約していたのか、と考えると胸が締め付けられる。
「このまま帰れるわけがないだろう!? いいからさっさとミラージュに会わせろ! 彼女は私を愛していた! きっと私からの申し出に涙を流して喜んでくれるはずだ!」
「無理です。駄目です。会わせません。だいたい、グリフォン公爵令嬢と婚約したままの状態で再婚約の話などしても無駄でしょう?」
だから諦めてさっさと帰れ、という意味で言ったのに、頭にお花畑が咲き乱れている王太子はそれを曲解した。
「分かった……。ならばアンゼリカとの婚約を破棄すればよいのだな?」
「は……?」
どうしてそうなるのかが理解できない。
先程それをすれば廃嫡になると忠告したのにもう忘れたのか?
「ですから、殿下……それをなさればご自身に不利が……」
そこまで言いかけてレイモンドの頭にある考えがよぎった。
(まてよ……。もし、王太子が婚約破棄をすれば、アンゼリカ嬢は婚約者がいない状態に……?)
初めて愛おしいと感じた少女。
王太子の婚約者だからと諦めていた彼女が、自由の身となれば……。
「それではアンゼリカと婚約を破棄したらミラージュを迎えに来るからな!」
「あ……、お、お待ちを……」
邪な考えが頭を占めている隙に王太子が意気揚々と去ってしまった。
帰ってくれる分にはいいのだが、グリフォン公爵令嬢と婚約破棄をすればミラージュと再婚約を結べると勘違いしているのはいただけない。
「まあ、いいか……。何と言われようともミラージュを馬鹿に嫁がせる気はないし……」
以前の自分であったのなら『それで国の為になるのなら』と妹を無理にでも王太子と再婚約を結ばせていたかもしれない。王太子が二公爵家に見放されては国が荒れるという考えのもと、妹の気持ちも尊厳も見ないふりをして。
だが、今は違う。あの少女に一喝されてから考えが変わった。
もっと強く出てもいいのだと、いや、公爵家として強く出ねば駄目なのだと。
サラマンドラ家の嫡子として、家と妹を守るために強くあらねばならないと。
そう気付かせてくれた彼女を特別に想うことは自然なことであって、彼女を妻にしたいと願うことも自然なことだ。
王太子が彼女に婚約破棄をすれば王家は大変なことになるだろうが、それよりも彼女が自由の身になってほしいと願う気持ちの方が強い。
「一応、彼女には伝えておくか……」
彼女に関わることだ。報告だけはしておいた方がいい。
そう考えたレイモンドは愛しい少女に向けた手紙にペンを走らせた。
「な……! 無礼だぞ!!」
「私が無礼なのであれば、殿下は失礼ですね。一度捨てた婚約者にみっともなく縋りつき、今の婚約者すら捨てようとしている。そんなことを続けていればいつかはご自分が捨てられてしまうという危機感はないのですか?」
「捨てられるだと!? 私が誰に捨てられるというんだ!」
「貴方のお父君、国王陛下にですよ。サラマンドラ家のみならず、グリフォン公爵家とも縁を切った殿下をそのままにしておくことなど出来ないでしょう?」
「は……? それはどういう意味だ?」
「殿下から王太子の座を剥奪する可能性は高い、ということですよ。流石に二公爵家を敵に回した王子を次代の王に据えるなど無理ですから」
「私から王太子の座を剥奪するだと!? はっ! 何を馬鹿なことを……私以外に王太子が務まる者などいない! 何故なら私は国王より生まれた由緒正しき王子なのだぞ!」
「……本気で仰っているのですか、それ?」
この王子は国王の子というだけで王位を継げるのだと信じ切っている。
このぶんだと何の為に王位継承権があるのかも理解していないだろう。
(どういった教育を受ければこんな勘違いが出来る? 最高峰の教育を受けているであろう殿下がどうしてこんな阿呆な思考をしているんだ……?)
いくら国王の子といえども、二公爵家と敵対するような愚王子を玉座に据えてしまえば内乱が起きてもおかしくない。どうしてこの王太子はそれが理解できないのか、レイモンドは不思議で仕方なかった。
「何の後ろ盾もなく王になれると本気で思っていらっしゃるのですか?」
「何を言う! 後ろ盾にはサラマンドラ家がなればよいだろう? ミラージュが王妃になるのだから、その生家が後ろ盾を担うのは当然だ!」
堂々巡りの会話にレイモンドは頭を抱えた。
この王太子は自分がこの世で最も価値のある存在だと本気で思っているようだ。だから何をしても周囲は自分の為に動いてくれるものだと信じ込んでいる。
ここまで独善的で歪んだ性格なのは生まれつきか、もしくは幼少期に誰かがそう育てたのか。それは分からないが、このままいけばこの王太子は確実に自滅するであろうことは分かる。
「ミラージュを再度貴方の婚約者になどさせません。ですから当家が後ろ盾になることもありません。分かったならさっさとお帰りください」
こちらが真面目に話をしたとしても、この王太子は聞かないし理解しようともしない。妹はこんな猿よりも話が通じない男と婚約していたのか、と考えると胸が締め付けられる。
「このまま帰れるわけがないだろう!? いいからさっさとミラージュに会わせろ! 彼女は私を愛していた! きっと私からの申し出に涙を流して喜んでくれるはずだ!」
「無理です。駄目です。会わせません。だいたい、グリフォン公爵令嬢と婚約したままの状態で再婚約の話などしても無駄でしょう?」
だから諦めてさっさと帰れ、という意味で言ったのに、頭にお花畑が咲き乱れている王太子はそれを曲解した。
「分かった……。ならばアンゼリカとの婚約を破棄すればよいのだな?」
「は……?」
どうしてそうなるのかが理解できない。
先程それをすれば廃嫡になると忠告したのにもう忘れたのか?
「ですから、殿下……それをなさればご自身に不利が……」
そこまで言いかけてレイモンドの頭にある考えがよぎった。
(まてよ……。もし、王太子が婚約破棄をすれば、アンゼリカ嬢は婚約者がいない状態に……?)
初めて愛おしいと感じた少女。
王太子の婚約者だからと諦めていた彼女が、自由の身となれば……。
「それではアンゼリカと婚約を破棄したらミラージュを迎えに来るからな!」
「あ……、お、お待ちを……」
邪な考えが頭を占めている隙に王太子が意気揚々と去ってしまった。
帰ってくれる分にはいいのだが、グリフォン公爵令嬢と婚約破棄をすればミラージュと再婚約を結べると勘違いしているのはいただけない。
「まあ、いいか……。何と言われようともミラージュを馬鹿に嫁がせる気はないし……」
以前の自分であったのなら『それで国の為になるのなら』と妹を無理にでも王太子と再婚約を結ばせていたかもしれない。王太子が二公爵家に見放されては国が荒れるという考えのもと、妹の気持ちも尊厳も見ないふりをして。
だが、今は違う。あの少女に一喝されてから考えが変わった。
もっと強く出てもいいのだと、いや、公爵家として強く出ねば駄目なのだと。
サラマンドラ家の嫡子として、家と妹を守るために強くあらねばならないと。
そう気付かせてくれた彼女を特別に想うことは自然なことであって、彼女を妻にしたいと願うことも自然なことだ。
王太子が彼女に婚約破棄をすれば王家は大変なことになるだろうが、それよりも彼女が自由の身になってほしいと願う気持ちの方が強い。
「一応、彼女には伝えておくか……」
彼女に関わることだ。報告だけはしておいた方がいい。
そう考えたレイモンドは愛しい少女に向けた手紙にペンを走らせた。
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