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第一章 ー魔王と出会い編ー
第1話 ―魔王と門番―
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この世界はアジールニカ大陸という一枚の大きな陸地とそれ以外は海で構成されている。
大陸周囲にいくつかの小さな島もあるが、それらも全てアジールニカ大陸である。
その形は大きな円の上部を別の円で切り取ったような三日月形だ。
アジールニカという名前がついてはいるが、ただ一つしかない大陸のためその名前が呼ばれることは少ない。
そのアジールニカ大陸は現在大きく4つの地域に分かれている。
大陸の北西部から大陸中央部までを治める人族の大国『白竜帝国』。
大陸東部を治める人族の『ナーストリア連合国』。
南西部に位置する人族未踏の地、魔族領。
南東部の森に住んでいるエルフの王国。
魔王ラースとその従者であるクロウは現在ナーストリア連合国の内、大陸中央部に近いファーニアという国の王都に着ていた。
ナーストリア連合国とはその名の通り、いくつかの国で構成されている。
武力による領地拡大を続ける白竜帝国に対抗するために十年前に設立された国々だ。
ファーニア王国は当時から現在に至るまで白竜帝国との国境線に位置しているため真っ先に連合国へ参加を表明した国の一つだ。
その王都となれば頑強な城壁に四方を囲まれその門は衛兵達に守られている。
ラースはそのうちの1つで…
「だから金ならあると言ってる」
「黙れ!お前みたいな怪しいヤツを一般人などと一緒にできるか!」
門番に捕まっていた。
「事情なら先程から説明しているだろうが。事故で川に流され気がついたらこんな状態だったと」
「だとしたもその手足はなんだ!その鳥も一緒に流されたとでも言う気か?」
門番に見つかった後からずっとこの調子が続いている。
ラースの見た目はかなり怪しい。
右腕と左足は真っ黒な肌になっており、逃亡と川に流されたせいで服もボロボロである。
本人は気付いていないが彼の右目も眼球は黒に、瞳は朱に変わっていた。
さらには肩に留まっているクロウの存在が彼の怪しさを一層引き立てていた。
「もしや魔族の間者ではないだろうな?」
「阿呆か。こんな怪しさ満点で一発で通報されるような間者がいるか」
ラースの言葉は正論なのだが、門番であるこの衛兵には怪しいヤツが誤魔化そうとしている、としか聞こえなかった。
「とにかく!貴様のような身分証も持たない怪しいヤツは拘留してじっくりと調べさせてもらう!」
「それは流石に横暴だろう!」
街に入ること自体は強行しようと思えばできなくはない。
だがラース達の目的はあくまで休養なのだ。
何か犯罪行為をやらかして街にいる間中衛兵との追いかけっこは勘弁したい。
そこまでされるくらいであれば一度引いて出直すか、他の街へ行った方がよいかもしれない。
普通ならそう考えるところだがラースは引かない。
捕まえようとする門番の手をスルリと避ける。
「逃げるな!このッ」
器用に避け続けるラースに痺れを切らした門番が腰に差した剣の柄に手をかけた瞬間ーー
「これは何の騒ぎだ?」
1人の女性が近付いてくる。
ショートの赤毛に頑強さより動きやすさを重視した軽鎧を着ている。所々に薔薇の意匠が施されており門番の皮鎧とは階級の違いを如実に顕している。
門番は慌てて姿勢を正した。
「ミ、ミリア様!これは、その、違うのです。こちらの怪しい者が…」
「俺様は怪しくない!」
門番の説明を聞きつつミリアと呼ばれた女騎士はラースを見る。
つり上がった目にへの字に結ばれた口。
それなりに美形と見えなくもないが締まりのない表情が全て台無しにしている。
あれは女を品定めしている目だ。
女だてらに騎士をやっているとこういった視線に晒されることは少なくない。
騎士になるための鍛錬で引き締まった体にミリアのような整った顔立ちであれば嫌でも人の目を惹く。
彼女はそういった視線に慣れていた。
「事情を聞く限問題なさそうだが…」
そうだろう、とラースは大きく頷く。
「申し訳ないがあと二点ほど質問させて欲しい。」
「うむ、いいだろう」
なぜか偉そうにふんぞり返っている。
この尊大な態度も門番を不審に思わせた要因の1つだとは彼には思いつきもしないだろう。
「1つ目は滞在理由だ。この王都に何しに来た?」
「療養だ。見ての通りボロボロなのでな」
おかしな理由ではない。
川に流されたのであれば身分証を持たないのもある意味仕方ない。
「ではもう一つの質問だが…」
ミリアの視線がクロウに移る。
クロウは先程からピクリとも身動きせずにラースの肩に留まっている。
剥製かと思えるほどだったが、よく見ると時折瞬きをしている。
「この辺りでは見ない鳥だな。どこから連れてきた?」
「さぁ?よくわからんが鳥は空を飛べるからな。案外近くに住んでるのかもしれないな」
「…そうか。長く手間取らせて申し訳ない。入国する事を許可しよう。」
あとを頼む、と告げるとミリアは街の中心部に向けて歩き出す。
直立不動のまま固まっている門番と
一緒にその後ろ姿を見送ると彼女は雑踏の中へと消えていった。
「…なかなかいい女だったな」
思わず口角が持ち上がる。
「はっ、ミリア様でもねらう気か?やめとけやめとけ」
ようやく緊張のとけた門番が鼻で笑う。
「いいかミリア様はーー」
曰く、あの若さでこの国の姫を守る親衛隊の隊長である。
曰く、剣の腕も確かで女の身でありながら王国の他の騎士団隊長達(もちろん男だ)にもひけ劣らない。
曰く、若さにあの美貌、地位もあって引く手数多にもかかわらず姫様に忠義を尽くす真の騎士であること。
曰く、隊長まで登りつめた今でもああやって自らの足で巡回し、下々を気遣う人格者である。
段々と私情が混じっている気がしないでもないが門番は延々と彼女を誉め讃える。
「ふぅーん…若い若いというが歳はいくつなんだ?」
「たしか18…いや19だったか?」
なるほど。確かにその年齢で隊長というのは確かに若い。
ラースは笑みを深くする。
悪くない。
悪くないぞ。
再び門番に止められそうな邪悪な笑みを浮かべ、ラースは王都の中へと足を踏み入れた。
大陸周囲にいくつかの小さな島もあるが、それらも全てアジールニカ大陸である。
その形は大きな円の上部を別の円で切り取ったような三日月形だ。
アジールニカという名前がついてはいるが、ただ一つしかない大陸のためその名前が呼ばれることは少ない。
そのアジールニカ大陸は現在大きく4つの地域に分かれている。
大陸の北西部から大陸中央部までを治める人族の大国『白竜帝国』。
大陸東部を治める人族の『ナーストリア連合国』。
南西部に位置する人族未踏の地、魔族領。
南東部の森に住んでいるエルフの王国。
魔王ラースとその従者であるクロウは現在ナーストリア連合国の内、大陸中央部に近いファーニアという国の王都に着ていた。
ナーストリア連合国とはその名の通り、いくつかの国で構成されている。
武力による領地拡大を続ける白竜帝国に対抗するために十年前に設立された国々だ。
ファーニア王国は当時から現在に至るまで白竜帝国との国境線に位置しているため真っ先に連合国へ参加を表明した国の一つだ。
その王都となれば頑強な城壁に四方を囲まれその門は衛兵達に守られている。
ラースはそのうちの1つで…
「だから金ならあると言ってる」
「黙れ!お前みたいな怪しいヤツを一般人などと一緒にできるか!」
門番に捕まっていた。
「事情なら先程から説明しているだろうが。事故で川に流され気がついたらこんな状態だったと」
「だとしたもその手足はなんだ!その鳥も一緒に流されたとでも言う気か?」
門番に見つかった後からずっとこの調子が続いている。
ラースの見た目はかなり怪しい。
右腕と左足は真っ黒な肌になっており、逃亡と川に流されたせいで服もボロボロである。
本人は気付いていないが彼の右目も眼球は黒に、瞳は朱に変わっていた。
さらには肩に留まっているクロウの存在が彼の怪しさを一層引き立てていた。
「もしや魔族の間者ではないだろうな?」
「阿呆か。こんな怪しさ満点で一発で通報されるような間者がいるか」
ラースの言葉は正論なのだが、門番であるこの衛兵には怪しいヤツが誤魔化そうとしている、としか聞こえなかった。
「とにかく!貴様のような身分証も持たない怪しいヤツは拘留してじっくりと調べさせてもらう!」
「それは流石に横暴だろう!」
街に入ること自体は強行しようと思えばできなくはない。
だがラース達の目的はあくまで休養なのだ。
何か犯罪行為をやらかして街にいる間中衛兵との追いかけっこは勘弁したい。
そこまでされるくらいであれば一度引いて出直すか、他の街へ行った方がよいかもしれない。
普通ならそう考えるところだがラースは引かない。
捕まえようとする門番の手をスルリと避ける。
「逃げるな!このッ」
器用に避け続けるラースに痺れを切らした門番が腰に差した剣の柄に手をかけた瞬間ーー
「これは何の騒ぎだ?」
1人の女性が近付いてくる。
ショートの赤毛に頑強さより動きやすさを重視した軽鎧を着ている。所々に薔薇の意匠が施されており門番の皮鎧とは階級の違いを如実に顕している。
門番は慌てて姿勢を正した。
「ミ、ミリア様!これは、その、違うのです。こちらの怪しい者が…」
「俺様は怪しくない!」
門番の説明を聞きつつミリアと呼ばれた女騎士はラースを見る。
つり上がった目にへの字に結ばれた口。
それなりに美形と見えなくもないが締まりのない表情が全て台無しにしている。
あれは女を品定めしている目だ。
女だてらに騎士をやっているとこういった視線に晒されることは少なくない。
騎士になるための鍛錬で引き締まった体にミリアのような整った顔立ちであれば嫌でも人の目を惹く。
彼女はそういった視線に慣れていた。
「事情を聞く限問題なさそうだが…」
そうだろう、とラースは大きく頷く。
「申し訳ないがあと二点ほど質問させて欲しい。」
「うむ、いいだろう」
なぜか偉そうにふんぞり返っている。
この尊大な態度も門番を不審に思わせた要因の1つだとは彼には思いつきもしないだろう。
「1つ目は滞在理由だ。この王都に何しに来た?」
「療養だ。見ての通りボロボロなのでな」
おかしな理由ではない。
川に流されたのであれば身分証を持たないのもある意味仕方ない。
「ではもう一つの質問だが…」
ミリアの視線がクロウに移る。
クロウは先程からピクリとも身動きせずにラースの肩に留まっている。
剥製かと思えるほどだったが、よく見ると時折瞬きをしている。
「この辺りでは見ない鳥だな。どこから連れてきた?」
「さぁ?よくわからんが鳥は空を飛べるからな。案外近くに住んでるのかもしれないな」
「…そうか。長く手間取らせて申し訳ない。入国する事を許可しよう。」
あとを頼む、と告げるとミリアは街の中心部に向けて歩き出す。
直立不動のまま固まっている門番と
一緒にその後ろ姿を見送ると彼女は雑踏の中へと消えていった。
「…なかなかいい女だったな」
思わず口角が持ち上がる。
「はっ、ミリア様でもねらう気か?やめとけやめとけ」
ようやく緊張のとけた門番が鼻で笑う。
「いいかミリア様はーー」
曰く、あの若さでこの国の姫を守る親衛隊の隊長である。
曰く、剣の腕も確かで女の身でありながら王国の他の騎士団隊長達(もちろん男だ)にもひけ劣らない。
曰く、若さにあの美貌、地位もあって引く手数多にもかかわらず姫様に忠義を尽くす真の騎士であること。
曰く、隊長まで登りつめた今でもああやって自らの足で巡回し、下々を気遣う人格者である。
段々と私情が混じっている気がしないでもないが門番は延々と彼女を誉め讃える。
「ふぅーん…若い若いというが歳はいくつなんだ?」
「たしか18…いや19だったか?」
なるほど。確かにその年齢で隊長というのは確かに若い。
ラースは笑みを深くする。
悪くない。
悪くないぞ。
再び門番に止められそうな邪悪な笑みを浮かべ、ラースは王都の中へと足を踏み入れた。
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