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第一章 ー魔王と出会い編ー
第2話 ―魔王と王都―
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町の中は王都と呼ばれるのに相応しいほどの喧噪に包まれている。
露店の呼び込みに行き交う人の足音。
賑やかな子供の声はラース達の脇を通り過ぎた家族連れのものだろう。
クロウはラースの肩に止まったままキョロキョロと頭だけを動かし辺りの様子を探っている。
「…何か珍しいものでもってあるのか?」
『いえ、人族の街を上空から眺める以外は初めてなもので』
「そうか。以前は魔王候補を探すだけでじっくり見たりはしなかったのか」
『はい。魔王候補となる死にかけの者を探して飛び回っていました』
死にかけの人を探して飛んでくる鴉。
端から見るとなかなかシュールな光景だ。
『それはそうと魔王様』
「なんだ」
『このような往来で話していて大丈夫ですか?私の声は他の人族には聞こえませんが』
「なんだ、と…」
どおりで先ほどからラース達の進む方向から人波が引いていくわけだ。
ボロボロのよくわからに恰好をしている怪しい青年というだけでなく、独りで鳥と会話する危ない奴に思われているに違いない。
「ぐっ…」
人々の視線に一瞬怯んだラースだったが手遅れだと悟ると若干歩幅を広げて去っていくのだった。
…………………………………
…………………………
……………………
ボロボロの服を買い替え、安宿を確保したラースは久しぶりのベッドの上で寛いでいた。
流石に寝転んでいるラースの肩に留まることのできないクロウは今は窓の枠に留まっている。
「あー眠い。これで美女でも抱ければ最高なんだがなぁ」
『御寛ぎのところ申し訳ありません、ラース様。幾つか検討していただきたい事案があります』
クロウから話しかけてくることは珍しい。
出会ってからこの王都にたどり着くまで数日間一緒にいるのだが基本的にラースが話しかけると返事はするものの自分から話しかけることはなかった。
既に眠気に襲われているラースだったがこの無口な同行者が何を言い出すのか興味が沸いてきた。
「なんだ?」
『昼間ののとこですが、人族にとってはあまり目立つのじゃよろしくないということでよろしいですか?』
門でのことか。それともその後の通りでのことか。
はたまた場末のこの宿屋の主人にすらあからさまに
不審の目を向けられたことか。
…いずれもあまり良い目立ち方ではない。
「そうだな、今日のようなことは出来れば避けたい。」
ラースとしては目立つこと自体は嫌いではない。
自信過剰な彼は自分が目立ってしまうのは仕方ないと思っている。
だが同時にどうせ目立つのであれば人から賞賛と尊敬を
集める時だとも思っている。
『でしたら明日からは常に私をお連れください』
「今日も勝手に肩に留まっていただろうが」
クロウは首を左右に振った。
『いえ、今日はただ掴まっていただけですが明日からは偽装の魔法を行使致します』
「偽装か…なかなか良さそうな魔法だな」
よく分かっていないラースはとりあえず仰々しく頷いてみる。
「…………で、どんな魔法なんだ?」
『偽装は周囲の人間の認識をその人間が問題ない範囲で変更させます』
「そうか。」
ラースは再び頷き、
…………………。
そのまま固まった。
よくわかっていなかった。
「……つまり?」
『周囲の人間があ魔王様を見たときに手足の魔甲や黒い眼球を普通のものとして認識させることができます。』
「おぉ!そんなことができるのか」
ラースにとってこれはかなりの朗報だった。
魔王になったとはいえ、実感もあまりない現状ではいきなり人の生活から離れることはできない。
世の中の美女を自分のものにするという目的はあるがそのためにも初対面の相手に不審に思われるのは避けたかったのだ。
「それは助かるぞ。これで女の方から俺様に寄ってくるかもしれん」
『そうです。これで得体の知れない人族?から常に肩に鳥がいる青年になることができます』
「…そうだったな…お前は肩にいるんだったな…」
喜びの後の絶望だった。
ベッドに座っていなければラースはきっと膝から崩れ落ちていただろう。
『それから今後のことですが、休養のあとはどうされますか?』
「そうだな、折角魔王になったのだ。好き勝手させてもらうつもりだが……しばらくはこの王都にいるつもりだ。」
『……昼間の女騎士ですね』
「そうだ。あれはイイ女だった。是非ともモノにしたい」
門番の話では王女に仕える要職で目立つようだったから彼女の情報を集めるのは容易だろう。
問題はどうやって彼女と会うかという点だった。
「今日のように気紛れな巡回を待つか…それとも……」
城内の要職となれば城内に個室を持つか城の近くに自宅を構えるかと言ったところだろうとラースは当たりをつける。
「いずれにせよ、明日改めて住民に聞き込みだな」
『ラース様のお力を使えば直ぐに見つかるのではありませんか?』
クロウは魔王としての力ーつまり魔法を使えばよいと薦めるが、ラースは首を横に振り否定した。
「一発やってサヨナラするだけであればいいが、よい関係を続けるなら相手を知る必要がある。その過程も楽しむのがいい男と言うものだ。そして俺様はそのいい男だ」
夜這いに失敗して追われた男がいい男な訳はないが、少なくともラースはそれなりにミリアのことが気に入っているようだ。
クロウは抑揚のない声のまま自分が浅慮だったと謝罪した。
「よい。俺様は魔王なのだ。一般人に理解されるとは思わん。」
そういうと上機嫌に笑う。
どうやら『魔王』という自分に少しずつ自覚をつけてきたようだった。
露店の呼び込みに行き交う人の足音。
賑やかな子供の声はラース達の脇を通り過ぎた家族連れのものだろう。
クロウはラースの肩に止まったままキョロキョロと頭だけを動かし辺りの様子を探っている。
「…何か珍しいものでもってあるのか?」
『いえ、人族の街を上空から眺める以外は初めてなもので』
「そうか。以前は魔王候補を探すだけでじっくり見たりはしなかったのか」
『はい。魔王候補となる死にかけの者を探して飛び回っていました』
死にかけの人を探して飛んでくる鴉。
端から見るとなかなかシュールな光景だ。
『それはそうと魔王様』
「なんだ」
『このような往来で話していて大丈夫ですか?私の声は他の人族には聞こえませんが』
「なんだ、と…」
どおりで先ほどからラース達の進む方向から人波が引いていくわけだ。
ボロボロのよくわからに恰好をしている怪しい青年というだけでなく、独りで鳥と会話する危ない奴に思われているに違いない。
「ぐっ…」
人々の視線に一瞬怯んだラースだったが手遅れだと悟ると若干歩幅を広げて去っていくのだった。
…………………………………
…………………………
……………………
ボロボロの服を買い替え、安宿を確保したラースは久しぶりのベッドの上で寛いでいた。
流石に寝転んでいるラースの肩に留まることのできないクロウは今は窓の枠に留まっている。
「あー眠い。これで美女でも抱ければ最高なんだがなぁ」
『御寛ぎのところ申し訳ありません、ラース様。幾つか検討していただきたい事案があります』
クロウから話しかけてくることは珍しい。
出会ってからこの王都にたどり着くまで数日間一緒にいるのだが基本的にラースが話しかけると返事はするものの自分から話しかけることはなかった。
既に眠気に襲われているラースだったがこの無口な同行者が何を言い出すのか興味が沸いてきた。
「なんだ?」
『昼間ののとこですが、人族にとってはあまり目立つのじゃよろしくないということでよろしいですか?』
門でのことか。それともその後の通りでのことか。
はたまた場末のこの宿屋の主人にすらあからさまに
不審の目を向けられたことか。
…いずれもあまり良い目立ち方ではない。
「そうだな、今日のようなことは出来れば避けたい。」
ラースとしては目立つこと自体は嫌いではない。
自信過剰な彼は自分が目立ってしまうのは仕方ないと思っている。
だが同時にどうせ目立つのであれば人から賞賛と尊敬を
集める時だとも思っている。
『でしたら明日からは常に私をお連れください』
「今日も勝手に肩に留まっていただろうが」
クロウは首を左右に振った。
『いえ、今日はただ掴まっていただけですが明日からは偽装の魔法を行使致します』
「偽装か…なかなか良さそうな魔法だな」
よく分かっていないラースはとりあえず仰々しく頷いてみる。
「…………で、どんな魔法なんだ?」
『偽装は周囲の人間の認識をその人間が問題ない範囲で変更させます』
「そうか。」
ラースは再び頷き、
…………………。
そのまま固まった。
よくわかっていなかった。
「……つまり?」
『周囲の人間があ魔王様を見たときに手足の魔甲や黒い眼球を普通のものとして認識させることができます。』
「おぉ!そんなことができるのか」
ラースにとってこれはかなりの朗報だった。
魔王になったとはいえ、実感もあまりない現状ではいきなり人の生活から離れることはできない。
世の中の美女を自分のものにするという目的はあるがそのためにも初対面の相手に不審に思われるのは避けたかったのだ。
「それは助かるぞ。これで女の方から俺様に寄ってくるかもしれん」
『そうです。これで得体の知れない人族?から常に肩に鳥がいる青年になることができます』
「…そうだったな…お前は肩にいるんだったな…」
喜びの後の絶望だった。
ベッドに座っていなければラースはきっと膝から崩れ落ちていただろう。
『それから今後のことですが、休養のあとはどうされますか?』
「そうだな、折角魔王になったのだ。好き勝手させてもらうつもりだが……しばらくはこの王都にいるつもりだ。」
『……昼間の女騎士ですね』
「そうだ。あれはイイ女だった。是非ともモノにしたい」
門番の話では王女に仕える要職で目立つようだったから彼女の情報を集めるのは容易だろう。
問題はどうやって彼女と会うかという点だった。
「今日のように気紛れな巡回を待つか…それとも……」
城内の要職となれば城内に個室を持つか城の近くに自宅を構えるかと言ったところだろうとラースは当たりをつける。
「いずれにせよ、明日改めて住民に聞き込みだな」
『ラース様のお力を使えば直ぐに見つかるのではありませんか?』
クロウは魔王としての力ーつまり魔法を使えばよいと薦めるが、ラースは首を横に振り否定した。
「一発やってサヨナラするだけであればいいが、よい関係を続けるなら相手を知る必要がある。その過程も楽しむのがいい男と言うものだ。そして俺様はそのいい男だ」
夜這いに失敗して追われた男がいい男な訳はないが、少なくともラースはそれなりにミリアのことが気に入っているようだ。
クロウは抑揚のない声のまま自分が浅慮だったと謝罪した。
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そういうと上機嫌に笑う。
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