魔王と姫君

空原 らいあ

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第一章 ー魔王と出会い編ー

第4話 ―魔王と魔法―

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『……少し魔法について説明致します。』


そもそも魔法とは所作である。
膨大な魔力をもつ者が何か行動しようとしたときに漏れ出る魔力に対して周囲にいる微小な精霊達が手を貸すことで発生する事象のことを指す。

つまり本来魔法とは詠唱など不要ということになる。

呪文や魔術陣などは魔法に対して効果を限定するために付与される枷なのだ。
それらは多くの場面で使用者や周囲に対する安全策として利用されるが、枷は枷である以上どうしても消費する魔力に対して効率が悪くなってしまう。
結果、人族の行使する魔法は効果を発揮する段階でその効果を大きく減衰してしまう。

『魔王様のお力は純粋な欲望を糧に膨大な魔力を操ることが出来ますのでそういった枷を受けずに純粋な望みを叶える力としての行使が可能なはずです』

魔法のこととなるとやはり饒舌になるクロウの説明をラースは「へー」「ほー」「ふーん」と聞き流していた。
人族にとっては数世代先を行く魔法理論なのだがラースにとって辛うじて理解できたのは最後のセリフのみだった。

「つまり俺様が望めば、その望んだ魔法が出来るということか?」
『そうです。特に魔力から体組織造り直している手足とその右目は魔法が発現し易いはずです』
「なる程。早速何か試してみるか」
『それがよろしいかと。まずは指先などの一点に魔力を集中してください』

ラースは右腕を前に突きだし意識を集中してみる。
それが魔力なのかはよくわからないが何かが指先に集まり熱を持ち始める。

「お、おぉお…なんか出来そうな感じだな」
『それをそのままに火をイメージして下さい』
「むむむ…」

クロウの言葉に従いラースが火のイメージを思い浮かべた途端、ボワリとラースの
手首までが炎に包まれる。
突然のことにラースは慌てて手を振り回す。
「おわぁーーー!」
『それが魔法です』
「そんなんはいいから助け……あれ?熱く、ない」

顔などは炎の熱を感じるが肝心の右手は一切熱さを感じなかった。
触覚としては機能しているのか炎が生む上昇気流を風として感じる。
ややくすぐったかった。

『それが魔王様のもう1つの力、魔甲です』
「マコウ?」
『簡単にいえば魔力の塊です。耐熱耐水耐圧性に優れ、並みの物理攻撃では歯が立ちません。魔力の塊ですので体から離れなければある程度形を変えられます。』
「おぉ!これはもう向かうところ敵無しじゃないか!」
『いえ、生身の部分を攻撃されれば傷を負いますし、膨大とはいえ魔力にも限度がありますので、魔力の扱いにも慣れていない現状では慢心しないほうがよろしいかと思います。』
「むむ…」

そう言われてもこれほどの力を手に入れたならちょっとは調子に乗りたいのが男の性である。
ラースは明日色々と試してみることを心に誓う。

「…で話を戻そう。侵入するための魔法だが透明は難しいか?」
『難しいと思われます。透明という現象をどうすればできるか想像が出来ますか?』
「それは、こう、誰にも見えない状態のことだろう?」
『それは透明になった結果の話です。質問を変えましょう。水は透明という状態ですがどうして透明なのか説明できますか?』

この問いかけにラースは何も答えられない。
おそらくこの世界では答えられる知識を持った人間はいないだろう。
理解できないことは魔法としてのイメージが難しいのだ。

「だが、お前の偽装の魔法は俺様の姿を変えていたのだろう?あれと何が違うのだ??」
『あれは正確には認識阻害の魔法なのです。物理現象ではなく人族の精神に働きかける魔法です』
「ほう!そんなことまで出来るのか!」
『魔王様には使えません』
「…おい」
『精神に関わる魔法は魔族の一部の人間しか使用できません。』
「そうか…。で、なぜ偽装の魔法ではダメなのだ?」
『音や声、また熱といったものを遮断できる訳ではありません。物音一つで気づかれる可能性があります。また一度気づかれた場合、五月雨式に他の人間にも気付かれる可能性が高いのです』

足音や人が動くことで発生する僅かな風。
そういった『人の気配』で気づかれる可能性があるということだ。
そしてふと気付く。

「…逆にそれらをどうにかできれば人に気付かれずに侵入できると言うことだな?」

ラースはいつものイヤらしい笑みを浮かべた。
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