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第一章 ー魔王と出会い編ー
第7話 ―王女と医者―
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王女フィリオナは1人の初老の男性を前に
その透き通るような肌を晒していた。
白い口髭を蓄えたその男は彼女の呼吸や体温、心音を確認した後顔をしかめる。
「どうですか、ホーミン先生」
「………」
男ーホーミンは医者である。
この世界において治癒や治療といった魔術というものは存在しない。
一部特殊な薬草などあるが基本的には本人による自然回復が一般的だ。
そのため医者という存在は必要不可欠だ。
病の原因や怪我の程度、その治療法を熟知している医者はどこに行っても重宝され腕が確かな者なら王宮のお抱えとなることも珍しくない。
フィリオナ王女から先生と呼ばれたホーミンもそんな王宮お抱え医者の1人である。
彼はフィリオナ王女が生まれる前よりずっと以前からこのファーニア国に仕えている。
「先生、どうなのですか?」
「残念ですが、私の見立てでは陛下と同じ症状かと思われます」
「そう、ですか…」
侍女と共に服を直したフィリオナは出来るだけ感情を込めずに相槌を打つ。
その顔色は優れない。
ひと月前、体調不良を訴えた父親が悪化の一途を辿り、一昨日から体も起こせないほど衰弱してしまった。
ホーミン医師の診断でも原因は不明。
当然治療する方法もわかっていない。
「つまり私もお父様と同じように倒れてしまうのですね」
「いいえ、姫様!お父上共々必ず治して見せます!」
医者は力強く励ましてはいるが既に1ヶ月以上結果の出ていない自分の父親の姿を思い浮かべると期待は出来ない。
「わかりました、ホーミン先生。宜しくお願いします」
「お任せください」
力強く頷いてはいるが肝心の表情は若干青くなっている。
国王に続いてただ1人の王位継承権を持つ王女まで倒れてしまえば国家存亡の危機である。
「では、私は陛下の容態を診ますのでこれにて失礼します。」
ホーミンを見送った後、フィリオナは侍女を追い出し独りになる。
「もう時間が、ないのね……」
フィリオナは元々体が弱い。
特に心臓が弱くホーミンにより激しい運動は禁止されていた。
その他、多大な緊張を強いるような行為も禁止されており、本来であれば王女として多くの公務を行わなければならないのだが王によりそちらも止められていた。
結果、その容姿の評判と相まって『深窓の姫君』として有名になっている。
彼女は考える。
身体の丈夫な父親ですらひと月で倒れてしまったのだ。
体の弱い自分などひと月は持たないだろう。
残り少ない時間をどうすればよいか。
どうすれば父の愛したこの国を残すことが出来るだろうか。
そして……
「ミリアは淋しがるでしょうね。」
誰よりも自分を気遣ってくれる友人の姿を思い浮かべてフィリオナは苦笑いを浮かべる。
死が目の前に迫っている。
今にも泣きだしそうな笑顔だが彼女が涙を零すことはない。
フィリオナは王女なのだ。
既に父は倒れ自分もいつ倒れてもおかしくない。
だからこそ国のために残された時間で出来ることをしなければ。
幼い頃から自分の体調のせいで迷惑をかけてきた家臣達のためにも王族としてやれるこやらなければ。
泣き言は最期でいいのだ。
彼女は自身を奮い立たせる。
まずはこの事をミリアやこの国の主要な人物に伝えなければならない。
また、同時に王族の次期国王候補を決めなければならない。
そしてふと、大臣から打診されている白竜帝国への嫁入り話を思い出す。
その話を聞いた当初は「そんな話を受ける気はない」と突っぱねたが、
先行きの見えない自分にとっては都合の良い話かもしれない。
形だけでも婚約を結び、自分に何かあれば其方からも援助してもらえるかも知れない。
他国への侵略を続ける白竜帝国ではあるがそれだけに彼の国は大国だ。
今の所、属国が帝国の悪政に苦しんでいるという話も聞かない。
既に同盟を行っているナーストリア連合国からの非難は免れないが、彼らの多くは帝国との最前線に立ちたくないための同盟だ。
いずれにせよ戦火の最前線に並ぶのであれば大国の側につくことが民にとって悪いことには思えなかった。
また国内での婚姻を選べない理由はもう一つあった。
彼女の父であるファーニア国王は国内の有力貴族からの交際申込みを全て断っているからだ。
これは親バカをこじらせた結果であるが、フィリオナと年の近い男貴族やその血縁者はすでに一度断られているため『王家が危ない』からといって素直に受け入れることは彼等のプライドや外聞が許さないのである。
もちろん『今なら自分も王族になれる』とすり寄ってくる者もいるが逆にそういった者達に王家を継がせる訳にはいかないのだ。
ならばいっそ国外の者に、とフィリオナが考えるのも無理はなかった。
ただ…
婚約はできても結婚は出来ない。
ましてや世継ぎを産むことなど不可能だろう。
そんな彼女の結婚話を承けてくれる都合のよい者がいるかと言われれば…それはやはり皆無だろう。
結果として彼女は白竜帝国の申し出を承ける覚悟を決めつつあった。
その透き通るような肌を晒していた。
白い口髭を蓄えたその男は彼女の呼吸や体温、心音を確認した後顔をしかめる。
「どうですか、ホーミン先生」
「………」
男ーホーミンは医者である。
この世界において治癒や治療といった魔術というものは存在しない。
一部特殊な薬草などあるが基本的には本人による自然回復が一般的だ。
そのため医者という存在は必要不可欠だ。
病の原因や怪我の程度、その治療法を熟知している医者はどこに行っても重宝され腕が確かな者なら王宮のお抱えとなることも珍しくない。
フィリオナ王女から先生と呼ばれたホーミンもそんな王宮お抱え医者の1人である。
彼はフィリオナ王女が生まれる前よりずっと以前からこのファーニア国に仕えている。
「先生、どうなのですか?」
「残念ですが、私の見立てでは陛下と同じ症状かと思われます」
「そう、ですか…」
侍女と共に服を直したフィリオナは出来るだけ感情を込めずに相槌を打つ。
その顔色は優れない。
ひと月前、体調不良を訴えた父親が悪化の一途を辿り、一昨日から体も起こせないほど衰弱してしまった。
ホーミン医師の診断でも原因は不明。
当然治療する方法もわかっていない。
「つまり私もお父様と同じように倒れてしまうのですね」
「いいえ、姫様!お父上共々必ず治して見せます!」
医者は力強く励ましてはいるが既に1ヶ月以上結果の出ていない自分の父親の姿を思い浮かべると期待は出来ない。
「わかりました、ホーミン先生。宜しくお願いします」
「お任せください」
力強く頷いてはいるが肝心の表情は若干青くなっている。
国王に続いてただ1人の王位継承権を持つ王女まで倒れてしまえば国家存亡の危機である。
「では、私は陛下の容態を診ますのでこれにて失礼します。」
ホーミンを見送った後、フィリオナは侍女を追い出し独りになる。
「もう時間が、ないのね……」
フィリオナは元々体が弱い。
特に心臓が弱くホーミンにより激しい運動は禁止されていた。
その他、多大な緊張を強いるような行為も禁止されており、本来であれば王女として多くの公務を行わなければならないのだが王によりそちらも止められていた。
結果、その容姿の評判と相まって『深窓の姫君』として有名になっている。
彼女は考える。
身体の丈夫な父親ですらひと月で倒れてしまったのだ。
体の弱い自分などひと月は持たないだろう。
残り少ない時間をどうすればよいか。
どうすれば父の愛したこの国を残すことが出来るだろうか。
そして……
「ミリアは淋しがるでしょうね。」
誰よりも自分を気遣ってくれる友人の姿を思い浮かべてフィリオナは苦笑いを浮かべる。
死が目の前に迫っている。
今にも泣きだしそうな笑顔だが彼女が涙を零すことはない。
フィリオナは王女なのだ。
既に父は倒れ自分もいつ倒れてもおかしくない。
だからこそ国のために残された時間で出来ることをしなければ。
幼い頃から自分の体調のせいで迷惑をかけてきた家臣達のためにも王族としてやれるこやらなければ。
泣き言は最期でいいのだ。
彼女は自身を奮い立たせる。
まずはこの事をミリアやこの国の主要な人物に伝えなければならない。
また、同時に王族の次期国王候補を決めなければならない。
そしてふと、大臣から打診されている白竜帝国への嫁入り話を思い出す。
その話を聞いた当初は「そんな話を受ける気はない」と突っぱねたが、
先行きの見えない自分にとっては都合の良い話かもしれない。
形だけでも婚約を結び、自分に何かあれば其方からも援助してもらえるかも知れない。
他国への侵略を続ける白竜帝国ではあるがそれだけに彼の国は大国だ。
今の所、属国が帝国の悪政に苦しんでいるという話も聞かない。
既に同盟を行っているナーストリア連合国からの非難は免れないが、彼らの多くは帝国との最前線に立ちたくないための同盟だ。
いずれにせよ戦火の最前線に並ぶのであれば大国の側につくことが民にとって悪いことには思えなかった。
また国内での婚姻を選べない理由はもう一つあった。
彼女の父であるファーニア国王は国内の有力貴族からの交際申込みを全て断っているからだ。
これは親バカをこじらせた結果であるが、フィリオナと年の近い男貴族やその血縁者はすでに一度断られているため『王家が危ない』からといって素直に受け入れることは彼等のプライドや外聞が許さないのである。
もちろん『今なら自分も王族になれる』とすり寄ってくる者もいるが逆にそういった者達に王家を継がせる訳にはいかないのだ。
ならばいっそ国外の者に、とフィリオナが考えるのも無理はなかった。
ただ…
婚約はできても結婚は出来ない。
ましてや世継ぎを産むことなど不可能だろう。
そんな彼女の結婚話を承けてくれる都合のよい者がいるかと言われれば…それはやはり皆無だろう。
結果として彼女は白竜帝国の申し出を承ける覚悟を決めつつあった。
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