魔王と姫君

空原 らいあ

文字の大きさ
16 / 41
第一章 ー魔王と出会い編ー

第14話 ―魔王と大臣―

しおりを挟む
「ではご協力頂いている間、ミリアをラース様にお付け致します。それで如何でしょうか?」
「ほう」
「ひ、姫様っ!?」

これはフィリオナ以外の2人には意外な展開だった。
ミリアに至っては信じたくない一心でフィリオナに縋りついた。

「姫様!冗談にしては質が悪すぎます!このような男に操を捧げよと仰られるのですか!?」
「おぉー本人目の前によく言えるなー」
「うるさいっ!貴様に言われたくはないっ!!」
すさまじい剣幕に思わずラースも怯む。

「姫様!どうか、どうか間違いだと仰ってください!」
「いえ、ミリアにはラース様と一緒にホーミン先生のご家族を助けてあげてください。」
「そ、そんな…」

何より信頼し尽くしてきた主にこんな形で裏切られるとは…。

ミリアの心に容赦なく絶望が打ちつける。
そんな彼女を見透かしているようにフィリオナは言葉を続けた。

「私は何もラース様に身を捧げろと言っているのではありません。この件についてはラース様のお力を借りた方が素早く片づくでしょう。それが国のためになるのです。何よりこんなことは信頼しているミリアにしかお願いできません。…頼めませんか?」
流石にここまで言われてしまっては断ることは出来ない。
「……もし身の危険を感じた場合は返り討ちにしてよろしいのであれば」
「その場合は構いません。」

ミリアの説得が終わったフィリオナはラースに向き直る。

「ラース様、報酬はあくまで成功報酬であるとお考えください。」

それまでは手を出すなということらしい。

「いいだろう。受けてやる。そうと決まればさっさと行くぞ、ミリア」
「ま、待て。なぜ呼び捨てにしているんだ。」
「オレ様は魔王だぞ?つまり王様だ。偉いのだから当たり前だろうが」
「そんな屁理屈を…」

…二人が部屋から出て行くとフィリオナは大きめのため息を1つ漏らした。
これでホーミン先生を助けられればあらためて父様の治療を進めることが出来る。
もちろん自分の身体も。
あの2人が上手くやってくれれば、だが。
「それにしても……ラース様は一体何者なのでしょうか…?」

成り立ての魔王です、と答えるものはおらずフィリオナの疑問は深まるばかりだった。


ーーーーーーーーー
ーーーーーー

作戦は単純だ。
まずミリアが使用人に頼んでルザード大臣の居室を確認してもらう。
見張りの兵でもいい。
その際に姿を隠したラースが室内に侵入、そのまま隙を見つけて手掛かりを探す。
適当なタイミングでミリアが訪れ見つけた手掛かりとラースを回収する。

ルザードがいない夜間に訪れる案もあったのだが、もし見回りの兵に見つかった場合ミリアであっても言い逃れが出来ない。
なにせ自分より上の地位の者の執務室を漁ってるのだ。
見咎められたらミリアの方が謀反の恐れありと疑われてもおかしくない。

ミリアに頼まれたメイドがルザード大臣の執務室へと入る。
ラースとクロウもこっそりと続いた。

ルザード大臣は相変わらず机の書類に埋もれている。
国王の執務を一部代行しているのでそれなりに忙しそうではある。

「ミリア様より後ほどお尋ねするとの伝言をお預かりしました」
「ミリア隊長が?分かった。下がってよい」
「それと…この手紙をお預かりしております。」
「…?」
メイドが竜の刻印の付いた封書を差し出す。
「…分かった。」
ルザードが受け取るとメイドは頭を下げて退室していった。

竜の刻印ー白竜帝国の紋章だ。
「あのバカ王子め!ただのメイドを受け渡し役にしおって。バレたらどうしてくれる」

送り主である白竜帝国の王子に悪態をつく。
そうでなくともここ数日のルザードは苛立っていた。
というのもフィリオナ王女がここのところ食事を取らないため、毒の進行が予定より遅れているのである。
国王のように昏睡状態になれば後はこちらのいいように白竜帝国へ輿入れさせてしまえばいいのだ。
ミリア隊長に頼んだ説得など端から期待していない。

小石のようなものに魔力を通し、封蝋を溶かす。
この小石は魔術具だ。
魔力を通すことである程度の熱を発する。
城の文官にとっては必須アイテムの1つだ。

「さて、手紙の中身は…」
広げた手紙をラース達も盗み見る。

長ったらしい口上の後、
『フィリオナ王女の結婚はまだ進まないのか。
 何をやっている。
 結婚を認めさせられるのであれば王の分の解毒剤を渡す用意もある。
 上手く交渉に使え。
 なお、こちらは国境近くの平原にて演習を行う。私も暫くはそちらにいるので連絡は其方へするように。
        ーダザライ・C・ドラグーン』
と丁寧な署名入りの内容だった。

『ダザライは白竜帝国の第三王子です。上に二人の兄がいるので王位を継ぐ可能性は低いため白竜帝国の中でもかなり自由にやっているようです。しかしこの手のやり取りで署名を入れるとは…かなり頭は弱いようですね』
クロウの意見にはラースも頷く。
この手紙一つでダザライの関与は確定だ。

ルザードはさらに憤慨していた。
「こんな内容の為にどれだけリスクを犯す気なんだ!」

ルザードにとってもこの手紙は予定外だった。
そもそも白竜帝国とのやり取りは全て向こうの密偵を通してやり取りしている。
こういった手紙のやり取りは数度しているがこんなミスは今まで一度もなかった。
ということは今回の手紙はいつもと違うのだろう。
ひょっとしたらダザライ本人が届けにきたかもしれない。

「あと一歩だというのに…なぜ上手く行かん」

一通り嘆くと手紙を自分の机の引き出しに仕舞う。
直ぐにでも処分したかったが手元に火種がない。
ルザードがやむを得ず仕舞った鍵付きの引出の中に以前見たのと同じ質の悪い羊皮紙が混ざっているのをラースは見逃さなかった。

鍵付なら安全と踏んでいるのか。
それとも見つかっても惚けられるレベルの内容しか書かれていないのかはわからんが、あの中が怪しいな…。

他にも何かないかと部屋の中を見て回るが、ルザード本人がいる以上物を動かせば気付かれてしまうかもしれない。
それ以外大した収穫はなくラースは何もすることがなくなってしまった。
部屋の中にはルザードの書類整理の音しかしない。


………遅い。

まだ数分程度しか経っていないがラースは苛立っていた。
「ミリアは何をやっているのだ」
『ラース様、気付かれてしまいます。』

クロウが忠告するが、部屋に禿げた中年の男と2人きりという事実はあっという間にラースの精神力を削っていく。

「もうコイツを押さえて力ずくで吐かせた方が早いんじゃないか?」
『ラース様、その場合フィリオナ様からの報酬が出るか保証されません』
「オレ様は魔王なのだぞ?そんな報酬などと言わずとも手に入れることは出来る!」
『ですがこの話をそもそもお請けしたのは魔王様自身です』
「ぐぬぬ…」

そんなやり取りから更に数分……

「…ダメだ。もう我慢出来ん。取り敢えずこのオッサンを縛って出るぞ」
『畏まりました』
我慢の限界を迎えたラースがルザードの後頭部に向かって拳を振り上げたと同時に、
コンコンと部屋の扉がノックされた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...