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第一章 ー魔王と出会い編ー
第26話 ―将軍と王子―
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戦況は相変わらず拮抗していた。
戦い始めて既に数時間。
ファーニア王国軍も帝国軍も兵士達を交代させながら戦線を維持していた。
特に疲労が激しいのはファーニア王国の魔術師部隊である。
元々人数が多くない上に、彼等が足止めしなくてはならない帝国の重装歩兵の数は膨大だ。
いくら休憩を挟んでいるとはいえ魔力が尽きて倒れる術者も出て来ている。
ファーニア王国軍の指揮官であるルウ将軍はそれらを瞬時に察知し予備戦力をあてがっていたがそれも限界になりつつある。
もしその拮抗が崩れるとすると後は敵の物資切れとこちらの援軍を期待しての篭城戦だ。
帝国軍に援軍予定がある現状としてはどこまで保つかわからないが。
ルウ将軍は自らも武勇に優れる猛者ではあるが、この戦いでは指揮官なので自ら打って出るようなことはしない。
指揮官自らが戦うのは撤退時の殿かフィリオナを自らの手で守らなければならなくなった時ぐらいだろう。
将軍が自分で戦うというのはそういうことなのだ。
よくある武勇伝のように自ら打って出るような人物ではそもそも将軍になど成れはしない。
ルウ将軍は砦中央にある見晴らし台から眼下の戦場を見渡す。
「……?」
ふと階下から慌ただしい足音が聞こえてくる。
どうやらこの見張り台の階段を駆け上がっているようだ。
「…緊急の伝令か?」
数秒後、ルウ将軍の予想は大きく外れた。
「姫様っ!?」
彼の目の前に現れたのはドレスの裾を持ち上げ、戦の前よりさらに顔色を悪くしたフィリオナだった。
ルウ将軍は慌てて周囲を見回し、敵兵に気付かれていないか、攻撃されていないかを確認した。
「姫様、なぜこのような所に…いえ、問答は後にしましょう。敵兵に気づかれる前に早くお下がりください。」
「待って…お話が、あり…ます」
片手を胸におき苦しさを紛らわしたフィリオナは何とか呼吸を整えた。
そんな彼女の肩に見慣れぬ鴉が止まっているがルウ将軍は敢えて尋ねたりはしなかった。
「敵の増援はありません。おそらく補給も。もう少し堪えれば戦況は有利になるはずです」
「な…っ!本当ですか、それは」
何よりも嬉しい吉報である。
これが事実ならファーニア王国の勝利はほぼ確実になるだろう。
「間違いありません。斥候部隊をお願いしたミリアからの報告です」
ルウ将軍も親衛隊隊長であるミリアのことは当然知っている。
女の身でありながら鍛え抜いた技術と身のこなしを持つ実力者である。
何より彼女の忠誠心の高さは多くの兵に見習って欲しいと思える人物だ。
そんな彼女が王女に対して一大事であるこの場面で虚偽や誤報の類を持ってくるとは思えなかった。
「わかりました。何よりの朗報をありがとうございます。それでは階下へ…」
すぐに避難させようとするルウ将軍を遮ってフィリオナは見張り台
「それでこの話を私から皆に伝えたいのです。自分の口から」
「それは…」
この見張り台から叫べば確かに皆に届くだろう。
いざとなれば近くにいる魔術師を一人呼びつけて声を風に乗せてもらえばいい。
だがそれは同時に敵に王女の存在を知られることになる。
見張り台に強襲することは不可能だが、フィリオナに執着している敵の首謀者であるダザライ王子がどんな行動にでるか予測がつかない。
「ルウ将軍、これは私のワガママで始まった戦争です。私に出来ることは応援することと祈ることぐらい。祈ることは先程までずっとやってきました。ですので今度は皆さんを応援させていただけませんか?」
「王族から命令ではなく『お願い』とは………陛下が姫様を大事にされるのもわかる気がしますな」
ルウ将軍はその巨体に似合わない柔らかい笑みを浮かべると、フィリオナを見張り台の前面に誘導した。
「どうぞ、お好きなように声援をお送りください。皆、喜びましょう」
「ありがとう」
フィリオナは一度深呼吸をし、
『普通にお話しすれば後は私の魔術でお伝えします』
そう言うクロウに頷きを返してから口を開いた。
『皆様、このような辛い戦場に怯むことなく立ち上がってくださった勇敢なファーニア王国の皆様。私はファーニア王国第一王女フィリオナでございます』
休憩中だった兵士達が顔を上げ、声の主を探し始めた。
『皆様と、皆様のように勇敢に働く王国の者達のおかげで敵の補給は絶たれました。増援も同様です』
兵士達から戸惑いと歓びの声があがる。
『敵は必ず退きます。いましばらくの辛抱です。辛く苦しい戦いですが、皆様の努力が身を結ぶのです』
兵士の誰かがフィリオナの姿を見つける。
そこから他の者達に伝わるまではあっという間だった。
『帝国軍の侵略は皆様にとって私にとって大事な家族を奪うものです。決して屈する訳にはいきません。皆様は大事な人の為に戦ってください。そしてご自身も大事にお守り下さい。私にとっては誰もが大切な国民の1人なのですから』
「姫サマー」
「おい、こっちをオレを見たんじゃないか?」
「んな訳あるか」
兵士達の喧騒を置き去りにフィリオナの祈りは続く。
『皆様に勝利を!』
「「「おぉーっ!」」」
フィリオナの声を聞いた全兵士が雄叫びを上げる。
その顔はそれまでジリ貧だったそれまでと異なり、やる気と希望に満ち溢れていた。
フィリオナは精一杯の笑顔で返すと更に歓声が沸き起こる。
「お疲れ様です、姫様」
「将軍も無理を聞いてくれてありがとうございます」
「さ、敵兵にもバレております。今一度砦の中へ」
「…はい」
正直、このままここで最後まで見届けたい思いはある。
だがそれでは邪魔になるだけであることは間違いない。
フィリオナは素直にルウ将軍の指示に従った。
フィリオナを見送ったルウ将軍は兵士達に向かって声を張り上げた。
「さぁ!ファーニア王国軍よ!姫様にこれ以上心労をかけるなよ!押し返せ!」
ーーーーーーーーー
「援軍が来ない…?」
「はっ、どうやら前線で戦っている兵士が聞いた敵の話では敵の別部隊によって撤退もしくは足止めをされていると推測されます」
「なるほど、補給部隊が遅れているのはそのせいか」
ファーブル砦から少し後方に陣を張っているダザライ王子は椅子に座ったまま悠々と部下の報告を受けていた。
ダザライ王子は自分の髪を手櫛で解きながら考える。
ファーニア王国の各領地から援軍が来ないのは確認している。
そちらに動きがあれば真っ先に報せが飛ぶように手配済みだ。
ファーニア王国で自由に動ける軍は王道守備兵のみ。
その兵力は現在自分の部隊と交戦中であり戦力的には互角である。
とするなら援軍が負ける要素は何一つ無いのである。
せいぜいが足止め程度だろう。
どのような方法を使っているかはわからないが5,000の兵を足止め出来るのであれば大したものだ。
ダザライ王子はそう読んでいた。
「それと、その話を敵兵に広めていたのがフィリオナ王女であるとの情報が入っております。」
「…なんだと?それは本当か!?」
「はい。複数人から確認が取れておりますので間違いないかと」
「わざわざ余に抱かれにくるとは…これは迎えに行ってやらねばなるまい」
ダザライ王子の口元に厭らしい笑みが浮かぶ。
「全部隊出るぞ!予備戦力も全てだ!」
「はっ」
後先など考えていない指示にもかかわらず周囲の部下達は一斉に頷いた。
「王子。援軍の件はいかがいたしましょう」
「ふん、ヅィールも存外使えないな。誰かいって確認させろ」
援軍任せていた自分の副官が既にラースの手により倒されているとは夢にも思わないダザライは悪態を付く。
だが今はそちらよりもフィリオナだ。
「迎えに行くぞ、花嫁よ」
戦い始めて既に数時間。
ファーニア王国軍も帝国軍も兵士達を交代させながら戦線を維持していた。
特に疲労が激しいのはファーニア王国の魔術師部隊である。
元々人数が多くない上に、彼等が足止めしなくてはならない帝国の重装歩兵の数は膨大だ。
いくら休憩を挟んでいるとはいえ魔力が尽きて倒れる術者も出て来ている。
ファーニア王国軍の指揮官であるルウ将軍はそれらを瞬時に察知し予備戦力をあてがっていたがそれも限界になりつつある。
もしその拮抗が崩れるとすると後は敵の物資切れとこちらの援軍を期待しての篭城戦だ。
帝国軍に援軍予定がある現状としてはどこまで保つかわからないが。
ルウ将軍は自らも武勇に優れる猛者ではあるが、この戦いでは指揮官なので自ら打って出るようなことはしない。
指揮官自らが戦うのは撤退時の殿かフィリオナを自らの手で守らなければならなくなった時ぐらいだろう。
将軍が自分で戦うというのはそういうことなのだ。
よくある武勇伝のように自ら打って出るような人物ではそもそも将軍になど成れはしない。
ルウ将軍は砦中央にある見晴らし台から眼下の戦場を見渡す。
「……?」
ふと階下から慌ただしい足音が聞こえてくる。
どうやらこの見張り台の階段を駆け上がっているようだ。
「…緊急の伝令か?」
数秒後、ルウ将軍の予想は大きく外れた。
「姫様っ!?」
彼の目の前に現れたのはドレスの裾を持ち上げ、戦の前よりさらに顔色を悪くしたフィリオナだった。
ルウ将軍は慌てて周囲を見回し、敵兵に気付かれていないか、攻撃されていないかを確認した。
「姫様、なぜこのような所に…いえ、問答は後にしましょう。敵兵に気づかれる前に早くお下がりください。」
「待って…お話が、あり…ます」
片手を胸におき苦しさを紛らわしたフィリオナは何とか呼吸を整えた。
そんな彼女の肩に見慣れぬ鴉が止まっているがルウ将軍は敢えて尋ねたりはしなかった。
「敵の増援はありません。おそらく補給も。もう少し堪えれば戦況は有利になるはずです」
「な…っ!本当ですか、それは」
何よりも嬉しい吉報である。
これが事実ならファーニア王国の勝利はほぼ確実になるだろう。
「間違いありません。斥候部隊をお願いしたミリアからの報告です」
ルウ将軍も親衛隊隊長であるミリアのことは当然知っている。
女の身でありながら鍛え抜いた技術と身のこなしを持つ実力者である。
何より彼女の忠誠心の高さは多くの兵に見習って欲しいと思える人物だ。
そんな彼女が王女に対して一大事であるこの場面で虚偽や誤報の類を持ってくるとは思えなかった。
「わかりました。何よりの朗報をありがとうございます。それでは階下へ…」
すぐに避難させようとするルウ将軍を遮ってフィリオナは見張り台
「それでこの話を私から皆に伝えたいのです。自分の口から」
「それは…」
この見張り台から叫べば確かに皆に届くだろう。
いざとなれば近くにいる魔術師を一人呼びつけて声を風に乗せてもらえばいい。
だがそれは同時に敵に王女の存在を知られることになる。
見張り台に強襲することは不可能だが、フィリオナに執着している敵の首謀者であるダザライ王子がどんな行動にでるか予測がつかない。
「ルウ将軍、これは私のワガママで始まった戦争です。私に出来ることは応援することと祈ることぐらい。祈ることは先程までずっとやってきました。ですので今度は皆さんを応援させていただけませんか?」
「王族から命令ではなく『お願い』とは………陛下が姫様を大事にされるのもわかる気がしますな」
ルウ将軍はその巨体に似合わない柔らかい笑みを浮かべると、フィリオナを見張り台の前面に誘導した。
「どうぞ、お好きなように声援をお送りください。皆、喜びましょう」
「ありがとう」
フィリオナは一度深呼吸をし、
『普通にお話しすれば後は私の魔術でお伝えします』
そう言うクロウに頷きを返してから口を開いた。
『皆様、このような辛い戦場に怯むことなく立ち上がってくださった勇敢なファーニア王国の皆様。私はファーニア王国第一王女フィリオナでございます』
休憩中だった兵士達が顔を上げ、声の主を探し始めた。
『皆様と、皆様のように勇敢に働く王国の者達のおかげで敵の補給は絶たれました。増援も同様です』
兵士達から戸惑いと歓びの声があがる。
『敵は必ず退きます。いましばらくの辛抱です。辛く苦しい戦いですが、皆様の努力が身を結ぶのです』
兵士の誰かがフィリオナの姿を見つける。
そこから他の者達に伝わるまではあっという間だった。
『帝国軍の侵略は皆様にとって私にとって大事な家族を奪うものです。決して屈する訳にはいきません。皆様は大事な人の為に戦ってください。そしてご自身も大事にお守り下さい。私にとっては誰もが大切な国民の1人なのですから』
「姫サマー」
「おい、こっちをオレを見たんじゃないか?」
「んな訳あるか」
兵士達の喧騒を置き去りにフィリオナの祈りは続く。
『皆様に勝利を!』
「「「おぉーっ!」」」
フィリオナの声を聞いた全兵士が雄叫びを上げる。
その顔はそれまでジリ貧だったそれまでと異なり、やる気と希望に満ち溢れていた。
フィリオナは精一杯の笑顔で返すと更に歓声が沸き起こる。
「お疲れ様です、姫様」
「将軍も無理を聞いてくれてありがとうございます」
「さ、敵兵にもバレております。今一度砦の中へ」
「…はい」
正直、このままここで最後まで見届けたい思いはある。
だがそれでは邪魔になるだけであることは間違いない。
フィリオナは素直にルウ将軍の指示に従った。
フィリオナを見送ったルウ将軍は兵士達に向かって声を張り上げた。
「さぁ!ファーニア王国軍よ!姫様にこれ以上心労をかけるなよ!押し返せ!」
ーーーーーーーーー
「援軍が来ない…?」
「はっ、どうやら前線で戦っている兵士が聞いた敵の話では敵の別部隊によって撤退もしくは足止めをされていると推測されます」
「なるほど、補給部隊が遅れているのはそのせいか」
ファーブル砦から少し後方に陣を張っているダザライ王子は椅子に座ったまま悠々と部下の報告を受けていた。
ダザライ王子は自分の髪を手櫛で解きながら考える。
ファーニア王国の各領地から援軍が来ないのは確認している。
そちらに動きがあれば真っ先に報せが飛ぶように手配済みだ。
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その兵力は現在自分の部隊と交戦中であり戦力的には互角である。
とするなら援軍が負ける要素は何一つ無いのである。
せいぜいが足止め程度だろう。
どのような方法を使っているかはわからないが5,000の兵を足止め出来るのであれば大したものだ。
ダザライ王子はそう読んでいた。
「それと、その話を敵兵に広めていたのがフィリオナ王女であるとの情報が入っております。」
「…なんだと?それは本当か!?」
「はい。複数人から確認が取れておりますので間違いないかと」
「わざわざ余に抱かれにくるとは…これは迎えに行ってやらねばなるまい」
ダザライ王子の口元に厭らしい笑みが浮かぶ。
「全部隊出るぞ!予備戦力も全てだ!」
「はっ」
後先など考えていない指示にもかかわらず周囲の部下達は一斉に頷いた。
「王子。援軍の件はいかがいたしましょう」
「ふん、ヅィールも存外使えないな。誰かいって確認させろ」
援軍任せていた自分の副官が既にラースの手により倒されているとは夢にも思わないダザライは悪態を付く。
だが今はそちらよりもフィリオナだ。
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