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第一章 ー魔王と出会い編ー
第25話 ―王女と戦場―
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フィリオナはファーブル砦の中央でただただ祈っていた。
兵士達の無事を。
自軍の勝利を。
もしそれが叶わないならせめて国民に火の粉がかからないよう自分がその身を差しだそうと考えていた。
そのため足手纏いにしかならないにも関わらず無理を言って前線まで連れてきてもらったのだ。
そのために絶対反対するだろうミリアとラースを離したのだ。
…ラースについては正規軍と一緒に動けないという理由もあるが。
「ラース、様…」
あの方はよくわからない。
突然現れたと思ったらあっという間に大臣の陰謀を暴き、ファーニア王国など関係ない立場の筈なのに危険な役割を今もこなしてくれている。
夜這いに来たただの不審者としてはおかしな行動が多すぎる。
本当にそのつもりがあるのならミリアも含めて無理に襲うことは出来ただろうに。
それをキス1つで命懸けの戦場に身を置いている。
あの方は……。
国に仕えているものからすれば王女の接吻など最高の名誉であるのだが、そもそも彼はファーニア王国に仕えているわけではない。
彼の話しぶりからしても絶対に抱くと宣言されている以上、キス程度で命を賭けるには割に合わない筈なのだ。
もっともラースとしては命懸けのつもりはない。一切無い。
危なくなったら逃げるつもりであるし、そもそも魔王となった自分が負けるとは考えていなかった。
ここに大きく齟齬が生まれている。
フィリオナの胸中にラースの存在が膨らみ始めた頃、1羽の鴉が砦に侵入した。
砦とは今は表で戦争中である。
兵士の出入りも激しく1羽の鳥に構っている余裕は砦を守る兵士達には無かった。
その鴉は迷うことなく砦中央部の一番守られている部屋の前まで行くと嘴でノックをした。
突然のノックにフィリオナはびくりと肩をすくめたが、意を決して扉へと向き直り声をかける。
大丈夫、外の争乱の声は途切れることなく聞こえている。
敵がここまで来ているわけではないはずだ。
「…どちら様ですか?」
「怪しまれますので出来れば早くいれていただけますかな、姫君」
無機質で畏まった口調、自分への呼称。
やり取りがそれ程多かった訳ではないが特徴的な喋り方をフィリオナは覚えていた。
「クロウ様!」
扉を開けるとともに1羽の鴉が舞い込んでくる。
クロウはグルリと部屋の中を一周した後、机の上に止まった。
「ご無事だったのですね!」
「勿論です。ラース様とミリア様も直にこの砦に着くはずです。ただ中にまで入ってこれるかあわかりませんが」
「2人とも無事なんですね」
フィリオナはほっと息を吐き出す。
自分からお願いしたこととは言え、2人が無事であることは何よりの朗報だ。
「それで、補給や援軍はどの程度の規模でしたか?」
「援軍については現在交戦中の部隊と同規模の約五千」
「ご、五千!?」
合計すると万の兵が押し寄せてきたことになる。
ダザライ王子のワガママの為に其処までするとは、完全に予想外だった。
「また十数騎という小規模ですが飛竜に乗った竜騎士もおりまして…」
フィリオナは目眩を覚える。
竜騎士と言えば帝国軍屈指の精鋭部隊であることはフィリオナでも知っている。
そうでなくとも飛竜という空中を飛び回る相手への攻撃困難窮める。
「よ、よく皆さんご無事でしたね」
「そこは魔王様ですから」
「それで、敵の援軍はいつ頃こちらに着ますか?」
「着ません」
「…はい?」
「援軍は着ませんよ」
フィリオナの大きな瞳がより大きく見開かれる。
全く理解出来ないといった表情にクロウが説明を追加する。
「追加の帝国軍はラース様と交戦。数時間前にその数を十分の一程度に減らして司令官含め後退から転進し逃亡。進んできた進路を戻っていきましたのでそのまま自国へ帰還するか国境の守備兵と戦闘と言ったところかと思われます」
「……」
フィリオナは息をするのを忘れるほど驚きに見舞われた。
脳内をいくつもの質問が飛び回り何から聞くべきか迷ったが、元々の質問に戻ることにした。
「増援は無いのですね?補給線はどうでしたか?」
「そちらは発見出来ておりません。我々と同時に出発した斥候からの信号もありませんでしたのでおそらく増援部隊の中に組み込まれていたのかと推察します」
「なるほど…これだけの規模に対して補給線を引いていないならあり得るかもしれませんね」
フィリオナはうなづくと同時に席を立った。
「どちらへ」
「ルウ将軍に伝言を」
「…でしたら姫君が直接赴かれるのが宜しいかと」
「それは…」
彼女としても直接戦っている兵士達に激を飛ばしたい思いはある。
だが危険な戦場に来ることを一番反対していたのはルウ将軍なのだ。
彼が表に出る際にもこの部屋から出ないよう厳重に注意されていた。
「砦上部の見晴らし台であれば大丈夫でしょう。既に敵は飛道具が尽きつつあります。不測の事態ならば私が対応しましょう」
そういうとクロウは翼をはためかせ、いつもラースにしているようにフィリオナの肩に止まる。
「…ありがとうございます」
「礼には及びませぬ。これも我が主の為故」
フィリオナは砦の見晴らし台へと駆け出した。
兵士達の無事を。
自軍の勝利を。
もしそれが叶わないならせめて国民に火の粉がかからないよう自分がその身を差しだそうと考えていた。
そのため足手纏いにしかならないにも関わらず無理を言って前線まで連れてきてもらったのだ。
そのために絶対反対するだろうミリアとラースを離したのだ。
…ラースについては正規軍と一緒に動けないという理由もあるが。
「ラース、様…」
あの方はよくわからない。
突然現れたと思ったらあっという間に大臣の陰謀を暴き、ファーニア王国など関係ない立場の筈なのに危険な役割を今もこなしてくれている。
夜這いに来たただの不審者としてはおかしな行動が多すぎる。
本当にそのつもりがあるのならミリアも含めて無理に襲うことは出来ただろうに。
それをキス1つで命懸けの戦場に身を置いている。
あの方は……。
国に仕えているものからすれば王女の接吻など最高の名誉であるのだが、そもそも彼はファーニア王国に仕えているわけではない。
彼の話しぶりからしても絶対に抱くと宣言されている以上、キス程度で命を賭けるには割に合わない筈なのだ。
もっともラースとしては命懸けのつもりはない。一切無い。
危なくなったら逃げるつもりであるし、そもそも魔王となった自分が負けるとは考えていなかった。
ここに大きく齟齬が生まれている。
フィリオナの胸中にラースの存在が膨らみ始めた頃、1羽の鴉が砦に侵入した。
砦とは今は表で戦争中である。
兵士の出入りも激しく1羽の鳥に構っている余裕は砦を守る兵士達には無かった。
その鴉は迷うことなく砦中央部の一番守られている部屋の前まで行くと嘴でノックをした。
突然のノックにフィリオナはびくりと肩をすくめたが、意を決して扉へと向き直り声をかける。
大丈夫、外の争乱の声は途切れることなく聞こえている。
敵がここまで来ているわけではないはずだ。
「…どちら様ですか?」
「怪しまれますので出来れば早くいれていただけますかな、姫君」
無機質で畏まった口調、自分への呼称。
やり取りがそれ程多かった訳ではないが特徴的な喋り方をフィリオナは覚えていた。
「クロウ様!」
扉を開けるとともに1羽の鴉が舞い込んでくる。
クロウはグルリと部屋の中を一周した後、机の上に止まった。
「ご無事だったのですね!」
「勿論です。ラース様とミリア様も直にこの砦に着くはずです。ただ中にまで入ってこれるかあわかりませんが」
「2人とも無事なんですね」
フィリオナはほっと息を吐き出す。
自分からお願いしたこととは言え、2人が無事であることは何よりの朗報だ。
「それで、補給や援軍はどの程度の規模でしたか?」
「援軍については現在交戦中の部隊と同規模の約五千」
「ご、五千!?」
合計すると万の兵が押し寄せてきたことになる。
ダザライ王子のワガママの為に其処までするとは、完全に予想外だった。
「また十数騎という小規模ですが飛竜に乗った竜騎士もおりまして…」
フィリオナは目眩を覚える。
竜騎士と言えば帝国軍屈指の精鋭部隊であることはフィリオナでも知っている。
そうでなくとも飛竜という空中を飛び回る相手への攻撃困難窮める。
「よ、よく皆さんご無事でしたね」
「そこは魔王様ですから」
「それで、敵の援軍はいつ頃こちらに着ますか?」
「着ません」
「…はい?」
「援軍は着ませんよ」
フィリオナの大きな瞳がより大きく見開かれる。
全く理解出来ないといった表情にクロウが説明を追加する。
「追加の帝国軍はラース様と交戦。数時間前にその数を十分の一程度に減らして司令官含め後退から転進し逃亡。進んできた進路を戻っていきましたのでそのまま自国へ帰還するか国境の守備兵と戦闘と言ったところかと思われます」
「……」
フィリオナは息をするのを忘れるほど驚きに見舞われた。
脳内をいくつもの質問が飛び回り何から聞くべきか迷ったが、元々の質問に戻ることにした。
「増援は無いのですね?補給線はどうでしたか?」
「そちらは発見出来ておりません。我々と同時に出発した斥候からの信号もありませんでしたのでおそらく増援部隊の中に組み込まれていたのかと推察します」
「なるほど…これだけの規模に対して補給線を引いていないならあり得るかもしれませんね」
フィリオナはうなづくと同時に席を立った。
「どちらへ」
「ルウ将軍に伝言を」
「…でしたら姫君が直接赴かれるのが宜しいかと」
「それは…」
彼女としても直接戦っている兵士達に激を飛ばしたい思いはある。
だが危険な戦場に来ることを一番反対していたのはルウ将軍なのだ。
彼が表に出る際にもこの部屋から出ないよう厳重に注意されていた。
「砦上部の見晴らし台であれば大丈夫でしょう。既に敵は飛道具が尽きつつあります。不測の事態ならば私が対応しましょう」
そういうとクロウは翼をはためかせ、いつもラースにしているようにフィリオナの肩に止まる。
「…ありがとうございます」
「礼には及びませぬ。これも我が主の為故」
フィリオナは砦の見晴らし台へと駆け出した。
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