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第一章 ー魔王と出会い編ー
第24話 ―魔王と帝国軍2―
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1対5,000の戦いは一方的なものになるはずだった。
帝国軍側にとっては、話だが。
もしこの部隊の司令官がそれを信じて疑わない愚か者ではなく、もう少し頭があったなら結果は違っていたかもしれない。
次々と倒されていく兵達にたいしてもう少し早く危機感を抱いたかもしれない。
しかし彼が目の前の男に敵わないと気付いたのは兵力が半分を切った頃だった。
いや、貴重な竜騎士を潰されているのだ。
戦力としては半分以下だ。
愚直に戦いを挑む兵士達と魔王は戦い続けている。
どこから取り出したのか手には長刀を持っている。
その光り輝く刀は余程の切れ味なのか鉄製の防具に身を包んだ兵達を紙切れのように切り刻んでいく。
「将軍!ヅィール将軍はいるか!」
「ここに」
司令官の隣に全身を鎧で固めた男が現れる。
男は雄牛の角のような兜を被っており、全身鎧に覆われているにも係わらず隆起した筋肉がちらほらと肌を見せている。
「あの男を!魔王などと名乗るふざけた男を殺してこい!」
「御意に」
ヅィールと呼ばれた将軍は命令を受けると同時に駆け出し、ラースの前に立つ。
同時に周囲の兵士は一歩引かせた。
命令なので止められなかったが一般兵がやっても無駄死にになるだけだ。
「お?強そうなヤツがきたな」
ヅィール将軍に気付くとラースは楽しそうに口元を歪めた。
既に戦い始めて一時間以上経過しているというのに息を切らしたりしている様子もない。
改めて、目の前にいる男は化け物なのだとヅィール将軍は認識する。
「ヅィールと申します。以後お見知りおきを」
「魔王ラース様だ。…貴様のところには女兵士はいないのだな」
「そうですね。白竜帝国において女兵士はほぼ皆無でしょう」
「つまらんな~。せっかくわざわざ1人ずつ確認したのに野郎しかいないとは」
ラースがあからさまに肩を落とすのが見える。
「貴公は女が目当てか?ならばこの場を退き、白竜帝国に来ればそれなりの待遇でもてなすが…いかがか?」
ヅィールとしてはラースに退いて貰えるなら本気でそれぐらいは便宜を計るつもりだった。
魔王かどうかはさておき、1人で竜騎士を始め千単位の兵士を屠りなお余力を残している。
危険ではあるがもし自国に迎え入れることができればその影響は計り知れないだろう。
それこそ皇帝の悲願である大陸統一に手が届くかもしれない。
もう一つ、ヅィールにとっては大きな理由がある。
彼はダザライ王子の腹心の1人なのだ。
このままここでよくわからない男のために戦力を削るよりは、王子に合流し元々の目標を優先したいのが本音だった。
「残念ながらそれは却下だな」
「理由をお尋ねしても?」
「理由は2つ。女は自分の手で口説く主義だ。そしてもう一つは、貴様等が狙っているフィリオナはオレ様のものだからだ」
ヅィールは自分の背に背負った身の丈もある大剣を引き抜いた。
「なるほど、それは相容れませぬな」
「そうだろう?」
大剣を上段に振りかぶったヅィールに対してラースは特に構えもせずに右手の刀を遊ばせている。
周囲の兵士達もそんな二人の様子を固唾を飲んで見守る。
先に動いたのはヅィール将軍だった。
裂帛の気合いと共に一歩前に踏み込む。そして次の足と自慢の大剣を叩きつけようとした瞬間ー突如足元に開いた穴に呑み込まれた。
落差は4、5メートル。
ダメージはないが突然のことにヅィールは混乱していた。
「ガーッハッハッハ!引っかかった引っかかった♪」
頭の上から聞こえる笑い声でヅィールは自分がはめられたのだと悟った。
「ぐっ卑怯な!」
「戦争に卑怯もへったくれもあるか。そーれ、お前みたいなめんどくさそうなヤツは埋めてやるわ」
そんな声とともにヅィールの頭上から大量の土が降ってくる。
「ガーッハッハッハ、あ、それーそれー」
「うぉおおおお」
勝ち目があるとも思っていなかったが、武人として戦うことも許されないとはあまりにひどい所業だ。
ヅィールは徐々に埋まっていくなか怒りの雄叫びを上げた。
周囲を取り囲んでいた兵士達はラースが何をしているのか理解できなかった。
ヅィール将軍は武勲で名を馳せた将軍である。
あの黒い男も化け物だったがヅィール将軍もまた化け物なのだ。
彼が落としてきた国は1つや2つではない。
戦場にでれば必ず功を上げ、一兵卒から将軍の地位まで登りつめた兵士達の憧れの人なのだ。
そのヅィール将軍がいきなり現れた穴に姿を消したと思ったら魔王を名乗る男は高笑いを上げ、穴に土を入れ始めた。
我を取り戻した数人の兵士が慌てて穴をのぞき込むが既に将軍の姿はなかった。
「さて、残りは雑兵か?」
ラースの浮かべた笑みに帝国軍の兵士達は慌てて逃げ出した。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ファーニア王国に侵入した白竜帝国軍の内、後発部隊となっていた5,000の兵士。
彼らは先発隊が戦っているファーブル砦に到達する前にその数を10分の1にまで減らし、自国へと逃げ帰った。
逃げ出した兵士やおの部隊の司令官は口を揃えて「魔王にやられた」と報告したが、彼の国の貴族や大臣達はそれを笑い飛ばしながら後日敵前逃亡の罪で彼らを処刑したのだった。
帝国軍側にとっては、話だが。
もしこの部隊の司令官がそれを信じて疑わない愚か者ではなく、もう少し頭があったなら結果は違っていたかもしれない。
次々と倒されていく兵達にたいしてもう少し早く危機感を抱いたかもしれない。
しかし彼が目の前の男に敵わないと気付いたのは兵力が半分を切った頃だった。
いや、貴重な竜騎士を潰されているのだ。
戦力としては半分以下だ。
愚直に戦いを挑む兵士達と魔王は戦い続けている。
どこから取り出したのか手には長刀を持っている。
その光り輝く刀は余程の切れ味なのか鉄製の防具に身を包んだ兵達を紙切れのように切り刻んでいく。
「将軍!ヅィール将軍はいるか!」
「ここに」
司令官の隣に全身を鎧で固めた男が現れる。
男は雄牛の角のような兜を被っており、全身鎧に覆われているにも係わらず隆起した筋肉がちらほらと肌を見せている。
「あの男を!魔王などと名乗るふざけた男を殺してこい!」
「御意に」
ヅィールと呼ばれた将軍は命令を受けると同時に駆け出し、ラースの前に立つ。
同時に周囲の兵士は一歩引かせた。
命令なので止められなかったが一般兵がやっても無駄死にになるだけだ。
「お?強そうなヤツがきたな」
ヅィール将軍に気付くとラースは楽しそうに口元を歪めた。
既に戦い始めて一時間以上経過しているというのに息を切らしたりしている様子もない。
改めて、目の前にいる男は化け物なのだとヅィール将軍は認識する。
「ヅィールと申します。以後お見知りおきを」
「魔王ラース様だ。…貴様のところには女兵士はいないのだな」
「そうですね。白竜帝国において女兵士はほぼ皆無でしょう」
「つまらんな~。せっかくわざわざ1人ずつ確認したのに野郎しかいないとは」
ラースがあからさまに肩を落とすのが見える。
「貴公は女が目当てか?ならばこの場を退き、白竜帝国に来ればそれなりの待遇でもてなすが…いかがか?」
ヅィールとしてはラースに退いて貰えるなら本気でそれぐらいは便宜を計るつもりだった。
魔王かどうかはさておき、1人で竜騎士を始め千単位の兵士を屠りなお余力を残している。
危険ではあるがもし自国に迎え入れることができればその影響は計り知れないだろう。
それこそ皇帝の悲願である大陸統一に手が届くかもしれない。
もう一つ、ヅィールにとっては大きな理由がある。
彼はダザライ王子の腹心の1人なのだ。
このままここでよくわからない男のために戦力を削るよりは、王子に合流し元々の目標を優先したいのが本音だった。
「残念ながらそれは却下だな」
「理由をお尋ねしても?」
「理由は2つ。女は自分の手で口説く主義だ。そしてもう一つは、貴様等が狙っているフィリオナはオレ様のものだからだ」
ヅィールは自分の背に背負った身の丈もある大剣を引き抜いた。
「なるほど、それは相容れませぬな」
「そうだろう?」
大剣を上段に振りかぶったヅィールに対してラースは特に構えもせずに右手の刀を遊ばせている。
周囲の兵士達もそんな二人の様子を固唾を飲んで見守る。
先に動いたのはヅィール将軍だった。
裂帛の気合いと共に一歩前に踏み込む。そして次の足と自慢の大剣を叩きつけようとした瞬間ー突如足元に開いた穴に呑み込まれた。
落差は4、5メートル。
ダメージはないが突然のことにヅィールは混乱していた。
「ガーッハッハッハ!引っかかった引っかかった♪」
頭の上から聞こえる笑い声でヅィールは自分がはめられたのだと悟った。
「ぐっ卑怯な!」
「戦争に卑怯もへったくれもあるか。そーれ、お前みたいなめんどくさそうなヤツは埋めてやるわ」
そんな声とともにヅィールの頭上から大量の土が降ってくる。
「ガーッハッハッハ、あ、それーそれー」
「うぉおおおお」
勝ち目があるとも思っていなかったが、武人として戦うことも許されないとはあまりにひどい所業だ。
ヅィールは徐々に埋まっていくなか怒りの雄叫びを上げた。
周囲を取り囲んでいた兵士達はラースが何をしているのか理解できなかった。
ヅィール将軍は武勲で名を馳せた将軍である。
あの黒い男も化け物だったがヅィール将軍もまた化け物なのだ。
彼が落としてきた国は1つや2つではない。
戦場にでれば必ず功を上げ、一兵卒から将軍の地位まで登りつめた兵士達の憧れの人なのだ。
そのヅィール将軍がいきなり現れた穴に姿を消したと思ったら魔王を名乗る男は高笑いを上げ、穴に土を入れ始めた。
我を取り戻した数人の兵士が慌てて穴をのぞき込むが既に将軍の姿はなかった。
「さて、残りは雑兵か?」
ラースの浮かべた笑みに帝国軍の兵士達は慌てて逃げ出した。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ファーニア王国に侵入した白竜帝国軍の内、後発部隊となっていた5,000の兵士。
彼らは先発隊が戦っているファーブル砦に到達する前にその数を10分の1にまで減らし、自国へと逃げ帰った。
逃げ出した兵士やおの部隊の司令官は口を揃えて「魔王にやられた」と報告したが、彼の国の貴族や大臣達はそれを笑い飛ばしながら後日敵前逃亡の罪で彼らを処刑したのだった。
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