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四話 大和の風景
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長谷川党の話を聞いていると、その支配域はいささか狭く感じられた。
大和の大半の馬貸は生駒氏が仕切っているようであった。
長谷川党の仕切っている支配域、いわゆる庭場は長谷寺を中心として
瀧蔵神社と談山神社。
長谷寺より、近くのこの二つの神社にひたすら物を運ぶ。
「何故わざわざ山の上に荷物を運ぶのです。平地で商いをすれば買いに来る人も楽でしょう。
しかも、わざわざ三輪から長谷寺まで回り込んで。拙者が地図で把握している範囲では、
三輪から瀧蔵神社までと長谷寺から瀧蔵神社ではさして近さは変わらぬように見えまする」
「いやいや」
長谷川与次は片頬を歪めながら皮肉な笑いを浮かべた。
「そもそも、瀧蔵神社、談山神社へは長谷寺の渡を使いまする」
「渡と」
「左様。そもそも古来より神社は座を持って物を作り、縁日で売る。寺は金貸しの土蔵と人を動かす
渡り、土木を生業にするもの。荷運びは長谷寺の者をつかいまする。瀧蔵神社はわざわざ物を売るため、
長谷寺が朝廷に話をつけ、奥之院として建立したものでござる」
「にしても、何故、そのような山の上に持っていかれるのかが合点がいきませぬ。買いに来る者も
不便でしょう」
「分かっておられぬ。瀧蔵神社は山の上。そこから宇陀に向けては下り坂でござる。
スズランの群生地辺りから川が流れておるので、そこから水路で下れば楽に遠路に多く物を運ぶことができる」
「よくわかりませぬが、そこから宇陀に向けては下り坂ということでござるか、地図の絵だけ
見ていては分からぬことばかりでござまするな。それにしても、山の上まで荷を運ぶのは大変でございましょう」
「いや、我ら長谷川党はあくまでも目付。渡どもが荷をちょろまかさぬよう監視役でござる。
生駒氏も荷は運ばぬ。あくまでも目付の監視役でござる。人足を使うのはあくまでも寺の仕事。
目付は世間に名の通った名門で泣ければ務まらぬ仕事でござる。生駒は藤原氏の中でも随一名門。
長谷川党は在原氏の名門でござる。尾張に在籍したる長谷川氏の役目は送り届けられた荷と目録が
欠けることなく揃っているか検閲することでござる」
「そうでございましたか、これは良きエニシを結んでいただいた」
左京亮はニッコリ笑って隼人を見た。
隼人は笑顔でうなづいた。
大和の大半の馬貸は生駒氏が仕切っているようであった。
長谷川党の仕切っている支配域、いわゆる庭場は長谷寺を中心として
瀧蔵神社と談山神社。
長谷寺より、近くのこの二つの神社にひたすら物を運ぶ。
「何故わざわざ山の上に荷物を運ぶのです。平地で商いをすれば買いに来る人も楽でしょう。
しかも、わざわざ三輪から長谷寺まで回り込んで。拙者が地図で把握している範囲では、
三輪から瀧蔵神社までと長谷寺から瀧蔵神社ではさして近さは変わらぬように見えまする」
「いやいや」
長谷川与次は片頬を歪めながら皮肉な笑いを浮かべた。
「そもそも、瀧蔵神社、談山神社へは長谷寺の渡を使いまする」
「渡と」
「左様。そもそも古来より神社は座を持って物を作り、縁日で売る。寺は金貸しの土蔵と人を動かす
渡り、土木を生業にするもの。荷運びは長谷寺の者をつかいまする。瀧蔵神社はわざわざ物を売るため、
長谷寺が朝廷に話をつけ、奥之院として建立したものでござる」
「にしても、何故、そのような山の上に持っていかれるのかが合点がいきませぬ。買いに来る者も
不便でしょう」
「分かっておられぬ。瀧蔵神社は山の上。そこから宇陀に向けては下り坂でござる。
スズランの群生地辺りから川が流れておるので、そこから水路で下れば楽に遠路に多く物を運ぶことができる」
「よくわかりませぬが、そこから宇陀に向けては下り坂ということでござるか、地図の絵だけ
見ていては分からぬことばかりでござまするな。それにしても、山の上まで荷を運ぶのは大変でございましょう」
「いや、我ら長谷川党はあくまでも目付。渡どもが荷をちょろまかさぬよう監視役でござる。
生駒氏も荷は運ばぬ。あくまでも目付の監視役でござる。人足を使うのはあくまでも寺の仕事。
目付は世間に名の通った名門で泣ければ務まらぬ仕事でござる。生駒は藤原氏の中でも随一名門。
長谷川党は在原氏の名門でござる。尾張に在籍したる長谷川氏の役目は送り届けられた荷と目録が
欠けることなく揃っているか検閲することでござる」
「そうでございましたか、これは良きエニシを結んでいただいた」
左京亮はニッコリ笑って隼人を見た。
隼人は笑顔でうなづいた。
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